かむあぶ 2

「団長!!」

叫びながら此方へ向かい手を伸ばしてくる阿伏兎。
そんな絶望しきった顔なんて、見たくもなかった。
目の前が暗くなっていくのを感じ、まずいなーと思いながらプツリとそこで意識が途切れた。


「あり? 知らない天井だ」


目を開ければ、鉛色の天井が広がっていた。
ゴチャゴチャと周りにある機械と消毒液臭い空気。
病室だと理解したのは、何回か瞬きをして眺め回した後だった。

「よっと」

グンと上半身を起き上がらせれば、腕に色々とチューブが繋がれていた。
力任せに引き抜き、固まっていた体を解せば、包帯だらけのミイラ状態。

「大げさだなぁ」

いったいどれだけ巻けば気がすむのか。
解いて見れば、傷なんてほとんどなかった。
包帯を全部外したところで、周りを囲っていたカーテンを退かし阿伏兎が入ってきた。

「起きたのか、団長」
「やあ、阿伏兎。お腹減ったんだけど食堂ってやってる?」
「ああ……まぁ、無理を言えばすぐに持ってくるだろ」
「そう。あれからどれぐらい経ったの?」
「……三日だ」
「へー、ちょっと寝過ぎちゃったね。体が鈍りそうだ」
「じゃあ、こっちはまだ仕事があるからな」
「阿伏兎」
「……何だ? 団長」
「目の下の隈が酷いけど、それってまさか俺を心配して?」
「…………まさか、そんな事ある訳がないだろ。団長様が寝てる間、仕事がヤバいほどに溜まっただけだ」
「そうだよね。じゃあ仕事がんばってねー」


何かを言いたげな阿伏兎が口を噤んで出て行った後。
だから嫌だったんだと、ベッドに散らかした包帯を眺めながら思った。



ばれない嘘を
「次はもっと上手に隠さないとね」


end
(2015/04/23)
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