かむあぶ 2
「団長、コレは何だ?」
「極秘で地球から取り寄せた機械だよ」
「ほぉ、それはそれは。このデカさからすると相当な代物だろうな」
部屋をだいぶ占拠する物を見上げ、阿伏兎は喉の奥で笑った。
新手の武器か、はたまた戦闘に役立つ用途がある物か。
何をするのかは外見上からは分からないが、わざわざ地球から取り寄せた物だ。
期待感だけは多分にある。
「じゃあ、使い方を説明するね」
「はいはい」
「まずこっち側に卵を置いて」
「…………」
「次に、反対側に醤油を置く」
「……おい、団長」
果てしなく嫌な予感しかしない神威の行動に、阿伏兎は口元を引きつらせた。
そんな相手を気にもとめず、仕上げとばかりに神威は茶碗に盛ったご飯を持ってきた。
「最後に、真ん中にホカホカご飯を置くと――」
バチバチと強烈にスパークをし始める機械。
強い光から目を庇うように腕でガードすれば、煙が立つ音と共にそれらはすぐに止んだ。
細めていた目で何度か瞬きをし、腕を外して機械を見れば、ホカホカご飯の上に卵と醤油がかかっていた。
「気軽に完璧な卵かけご飯が作れるカラクリだよ」
「何処が気軽だ! このすっとこどっこい!! どれだけ無駄な機械を取り寄せやがった!?」
上司の胸ぐらを掴んだ阿伏兎は、揺さぶりながら怒鳴りつけるが、相手は笑うばかりだった。
「だって、これさえあれば卵かけご飯食べ放題だよ?」
「この程度なら自力でやれ! むしろ毎日でも作ってやるから余計な経費を使うな!!」
「え? 俺の為に阿伏兎が毎日卵かけご飯作ってくれるの? それってプロポーズ?」
「どう取ればそうなるんだ!」
ふざけるなと叫びながら神威を機械へと投げ飛ばせば、寸前でガッチリと腕を掴まれた。
「なっ!?」
「よっと!」
そのまま逆に体を投げ飛ばされそうになり、阿伏兎は咄嗟に神威の服を掴んだ。
「あり?」
すっとんきょうな声をあげ、投げ飛ばされる阿伏兎に引きずられるように体を浮かせた神威。
その後、それぞれに宙を飛び、機械へと激突するはめになった。
派手な煙の漂う中、先に起き上がったのは青年の方だった。
「けほっ…たく、大人しく投げ飛ばされんとは、何処まで負けず嫌いだコンチクショー」
服に着いた汚れを叩き落としながら立ち上がりふと見下ろせば、いつもとは違う服だった。
「あ?」
声を出せば聞きなれてはいるが自分の物ではない声。
視界の端に垂れ下がる前髪は、鮮やかな薄朱色。
違和感の存在しない、感覚のある左腕は生身だった。
「おいおい……」
ダラダラと冷や汗が出る中、顔を引き攣らせていれば。
煙の晴れた先で、自分自身を見た。
「全く、酷いなぁ阿伏兎は。いきなり投げるなんて」
今しがたようやく起き上がった自分は、鏡ですら見た事が無い姿だった。
眉間のシワのとれたふやけた笑み、普段出すはずのない上機嫌な声と軽い口調。
卒倒してもおかしくないだけの要因は揃っていた。
「あり? 俺が目の前にいる。鏡なんてあったっけ?」
「……団長か?」
「どっちかって言うとそっちが団長だろ?」
そこまで笑顔で言い切り、ようやく相手は驚いた顔へと変わった。
表情まで幼くなった自分など見たくはなかったと、外見が神威の阿伏兎は天を仰ぎ見た。
「つまり、あの機械が原因で入れ替わったのかな?」
一頻り今の自分の姿を確認し、面白がった外見が阿伏兎の神威は、自分の姿をしている阿伏兎へと訊いた。
その言葉に対し、くっきりと眉間にシワを寄せた外見が神威の阿伏兎は頷いた。
「それ以外ないだろうな」
「ふーん、でもどうしようか?」
「……どうしようもないだろ」
視線の先には修繕不可能なほどに壊れた機械。
機械が原因で、と分かった所で今すぐ戻れる方法は無かった。
「ひとまず、暫くは互いのいつも通りに振る舞うべきだろうな」
その間にもう一度機械を手に入れると続ける阿伏兎に、気のない返事を神威はした。
「でも阿伏兎、いつごろ機械って届くんだろうね?」
「知らん。とにかく穏便にすませるよう、少しはあんたも努力しろ」
「はーい」
「とりあえず、機械が届くまで部屋に籠るぞ、団長」
現実逃避以外の何ものでもない案を出した阿伏兎。
機械が届くまでに心労で倒れないだろうかと、遠い目をしながら考え。
まず部屋にたどり着くまでが問題だという事から目を逸らした。
TKG事件
魂かけ誤判事件。
「源外様。先日、全自動卵かけご飯製造機を注文された所より、もう一機依頼が入りました」
「ああん? 何だよっぽど卵かけご飯が好きなんだな」
end
(2015/04/11)
「極秘で地球から取り寄せた機械だよ」
「ほぉ、それはそれは。このデカさからすると相当な代物だろうな」
部屋をだいぶ占拠する物を見上げ、阿伏兎は喉の奥で笑った。
新手の武器か、はたまた戦闘に役立つ用途がある物か。
何をするのかは外見上からは分からないが、わざわざ地球から取り寄せた物だ。
期待感だけは多分にある。
「じゃあ、使い方を説明するね」
「はいはい」
「まずこっち側に卵を置いて」
「…………」
「次に、反対側に醤油を置く」
「……おい、団長」
果てしなく嫌な予感しかしない神威の行動に、阿伏兎は口元を引きつらせた。
そんな相手を気にもとめず、仕上げとばかりに神威は茶碗に盛ったご飯を持ってきた。
「最後に、真ん中にホカホカご飯を置くと――」
バチバチと強烈にスパークをし始める機械。
強い光から目を庇うように腕でガードすれば、煙が立つ音と共にそれらはすぐに止んだ。
細めていた目で何度か瞬きをし、腕を外して機械を見れば、ホカホカご飯の上に卵と醤油がかかっていた。
「気軽に完璧な卵かけご飯が作れるカラクリだよ」
「何処が気軽だ! このすっとこどっこい!! どれだけ無駄な機械を取り寄せやがった!?」
上司の胸ぐらを掴んだ阿伏兎は、揺さぶりながら怒鳴りつけるが、相手は笑うばかりだった。
「だって、これさえあれば卵かけご飯食べ放題だよ?」
「この程度なら自力でやれ! むしろ毎日でも作ってやるから余計な経費を使うな!!」
「え? 俺の為に阿伏兎が毎日卵かけご飯作ってくれるの? それってプロポーズ?」
「どう取ればそうなるんだ!」
ふざけるなと叫びながら神威を機械へと投げ飛ばせば、寸前でガッチリと腕を掴まれた。
「なっ!?」
「よっと!」
そのまま逆に体を投げ飛ばされそうになり、阿伏兎は咄嗟に神威の服を掴んだ。
「あり?」
すっとんきょうな声をあげ、投げ飛ばされる阿伏兎に引きずられるように体を浮かせた神威。
その後、それぞれに宙を飛び、機械へと激突するはめになった。
派手な煙の漂う中、先に起き上がったのは青年の方だった。
「けほっ…たく、大人しく投げ飛ばされんとは、何処まで負けず嫌いだコンチクショー」
服に着いた汚れを叩き落としながら立ち上がりふと見下ろせば、いつもとは違う服だった。
「あ?」
声を出せば聞きなれてはいるが自分の物ではない声。
視界の端に垂れ下がる前髪は、鮮やかな薄朱色。
違和感の存在しない、感覚のある左腕は生身だった。
「おいおい……」
ダラダラと冷や汗が出る中、顔を引き攣らせていれば。
煙の晴れた先で、自分自身を見た。
「全く、酷いなぁ阿伏兎は。いきなり投げるなんて」
今しがたようやく起き上がった自分は、鏡ですら見た事が無い姿だった。
眉間のシワのとれたふやけた笑み、普段出すはずのない上機嫌な声と軽い口調。
卒倒してもおかしくないだけの要因は揃っていた。
「あり? 俺が目の前にいる。鏡なんてあったっけ?」
「……団長か?」
「どっちかって言うとそっちが団長だろ?」
そこまで笑顔で言い切り、ようやく相手は驚いた顔へと変わった。
表情まで幼くなった自分など見たくはなかったと、外見が神威の阿伏兎は天を仰ぎ見た。
「つまり、あの機械が原因で入れ替わったのかな?」
一頻り今の自分の姿を確認し、面白がった外見が阿伏兎の神威は、自分の姿をしている阿伏兎へと訊いた。
その言葉に対し、くっきりと眉間にシワを寄せた外見が神威の阿伏兎は頷いた。
「それ以外ないだろうな」
「ふーん、でもどうしようか?」
「……どうしようもないだろ」
視線の先には修繕不可能なほどに壊れた機械。
機械が原因で、と分かった所で今すぐ戻れる方法は無かった。
「ひとまず、暫くは互いのいつも通りに振る舞うべきだろうな」
その間にもう一度機械を手に入れると続ける阿伏兎に、気のない返事を神威はした。
「でも阿伏兎、いつごろ機械って届くんだろうね?」
「知らん。とにかく穏便にすませるよう、少しはあんたも努力しろ」
「はーい」
「とりあえず、機械が届くまで部屋に籠るぞ、団長」
現実逃避以外の何ものでもない案を出した阿伏兎。
機械が届くまでに心労で倒れないだろうかと、遠い目をしながら考え。
まず部屋にたどり着くまでが問題だという事から目を逸らした。
TKG事件
魂かけ誤判事件。
「源外様。先日、全自動卵かけご飯製造機を注文された所より、もう一機依頼が入りました」
「ああん? 何だよっぽど卵かけご飯が好きなんだな」
end
(2015/04/11)