かむあぶ 2

「団長がいないってのは、平和なもんだ」

日頃では考えられないほどの、のどかな時間。
数秒以内に来れないと減給などとぬかす人物は今はいない。
暴れられる場所を求め、片道だけでも数日はかかる星へと向かった。

「まぁ、付き添い役に指名した部下達には悪いとは思うがな」

苦笑をしながら新聞をめくり、湯呑へと手を伸ばした。
四六時中あの非常識な上司の尻拭いをするのは疲れる。
好きで下についているとはいえ、たまの羽のばしぐらいは欲しい。

「ん?」

バタバタと走ってくるような音が廊下側から聞こえてきた。
急用でも入ったかと、いまだのんびりと茶をすすりながら考え。


「副団長!! 団長がたった今帰還した!」
「ブフッ!?」


部屋に飛び込んできた部下の一言に、飲みかけの茶を盛大に吹き出した。

「しかも、団長の部屋に十秒以内に来ないと減給だと言ってたぞ!」

咳き込みながら部下の言葉を聞き、血の気が引く音が同時に聞こえてきた。
マントを引っかける余裕すらなく部屋を飛び出し、神威の部屋へと急行した。


「団長!」
「阿伏兎、遅かったね。十秒以内に来なかったから減給だよ」

返ってきたばかりらしき服装で振り向く上司様。
あと数日はいないはずの人物は、飄々とした態度で、確かにそこにいた。

「どうやって帰還したんだ! 団長!!」
「どうやってって、愛の力?」
「疑問形で言うな! 部下はどうした!?」
「船で帰還中」

笑顔でのたまう相手の言葉に、頭を掻きむしりたくなった。
どんな方法を使ったのか全く分からないが、非常識にしてもほどがある。

「大丈夫、あと数日で帰ってくるよ」
「だからッ、何であんただけ!」
「何だっていいだろ? ただ阿伏兎に早く会いたかっただけなんだから」
「いい訳あるか! このすっとこどっこい!!」

理由にもなってない理由で帰ってきた神威。
羽を伸ばせる数少ない機会が、音を立てて崩れていくのが聞こえた。


「あ、そうだ。帰ってくる途中で指令室のモニター壊したから後で修理しといてね」



愛さえあれば
隔てる距離は無いも同然。


end
(2014/09/13)
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