銀阿

「団長が見たら、殺されそうな光景だな」

口から出た言葉は戻すことはできない。
自分を抱きしめている男にも聞こえてしまったようだった。


「なに? あんたまだ俺より上司の方が気になるの?」
「いや、ただの習慣みたいなもんでねぇ。別にあんたより団長の方が好きなわけじゃないから安心してくれ」

ただの習慣、なんとも奇妙な言い訳。
恋人の前で他を気にかけていることを知った時点で、安心できるわけも無い。
目の前の男の目にも明らかな鋭さが増した。


「習慣……ね、言い訳にしてももう少し言いようがあるんじゃない?」
「旦那、俺とあんた、出会ってどれぐらいたった? まだそんなに経っていないはずだ。団長の機嫌伺の習慣が身についている中で、すぐに習慣を変えるのは無理な……」


今日は、厄日だ。
失言ばかりしている、ベストな選択肢ではない言葉ばかり出る。
これでは怒ってくれと言っている様なものだ。
現に、嫉妬どころではない炎を静かに燃やしている男の視線が痛い。


団長、団長と、つい出してしまう自分の口をどうにかしたくなった。



言葉選び
これ以上何か言う前に、いっそ黙らせてくれ。


end
(2010/05/29)
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