かむあぶ 2
「よぉ、神威。御早い御着きだな」
集まりの悪い定例会。
その中でも、トップクラスで遅刻の多い第七師団の早々のお目見え。
珍しい事もあるものだと、先に席についていた勾狼は、皮肉気に挨拶をした。
「そっちはいつも早いですね、勾狼団長」
「お前んとこが遅いだけだろ」
笑いながら言う神威に、ある意味皮肉でもない事実を勾狼は返した。
そのまま隣の席に座る神威を何気なく眺め、あるモノが足りない事に首を傾げた。
「おい、神威」
「どうかしましたか?」
「お前の所の副団長がいないが、何かあったのか?」
「阿伏兎なら寝込んでますよ」
「ほお! 珍しいな! あの第七師団の副団長が寝込んでるのか!」
ほぼ二人一組並みに共に行動をしている第七師団の団長と副団長。
その片割れがいない理由を、ニヤニヤとした笑みで勾狼は訊いてきた。
「よっぽどたちの悪い風邪でも引いたのか?」
「風邪を引いた訳じゃないんですけどね」
「じゃあアレか? 白兵戦で大怪我でもしたのか?」
「アハハ、そんなんじゃないですよ」
「じゃあ何だよ?」
「俺が力加減を間違えて抱いたら、足腰が立たなくなったらしくて」
ニコニコとしながら何でもない事の様に言う神威。
引っかかり所満載の言葉に、勾狼は口の端が引き攣った。
「なんッ、え? か、神威よぉ」
「どうかしましたか勾狼団長?」
「お前、自分の所の副団長を……」
「こう優しく抱いた積りが、つい」
「マジかァアア!?」
開いた口が塞がらない。
平然と暴露した神威に、震える声で勾狼は確認を取った。
「だ、抱いたってアレか?! ベッドの上で寝たって事か!?」
「勾狼団長はベッドの上以外の何処で寝るんですか?」
「じゃ、じゃあ、あの副団長は今」
「布団の中で丸まって寝てます」
「……お、おう……そうか」
潤いのない男所帯の無法地帯。
多かれ少なかれ男色についてはあるにはある。
が、まさか、あの副団長が被害にあうとは思いもしなかった。
気まずすぎる事実に、勾狼は神威から顔を逸らした。
「勾狼団長、どうかしましたか?」
「……お前の所の副団長に言っといてくれ、お大事にってな」
「分かりました、後で言っときますね」
「おう、そろそろ定例会が始まるな……」
この話題は終わりにしとくか、と遠い目をしながら勾狼は呟いた。
定例会後、阿呆提督に呼びかけられた神威は話を適当に切り上げ。
堅苦しい服を着替える事すらせず、阿伏兎の部屋へと直行した。
書類を片手に、にこやかな顔で部屋へと入り、ベッドで寝ている阿伏兎へと近づいた。
「阿伏兎―、定例会終わったよ。はい、これ書類」
「ほぉ、後で見とくんで、そこら辺にでも置いとけ」
「なんだよ、まだ怒ってるの?」
そっけない物言いに口を尖らせた神威は、阿伏兎が寝ているベッドへと腰かけた。
「夜兎の回復能力でもまだ動けないって、相当ひどいね」
「誰のせいだ、誰の」
ベッドから起き上がれないまま阿伏兎は神威を睨んだ。
そんな視線を受け流しながら神威は笑いながら弁解した。
「寝ぼけてると、誰だって間違いはあるよ」
「ほぉ、その言い訳は何度目だ? 団長」
「阿伏兎を抱いてるとよく眠れるからしかたないだろ?」
「安眠中に、いきなり抱き着かれて命の危険を感じる身にもなれ」
どれだけ馬鹿力だ、と抱きしめられた拍子に腰を痛めた阿伏兎は悪態をついた。
抱き枕代わりにした事を怒られた神威は、さほど悪びれもせず、勾狼からの言葉を思い出していた。
「ああ、そうだ、阿伏兎。勾狼団長がお大事にって言ってたよ」
「はぁ? 何でまた勾狼の旦那が?」
「阿伏兎が欠席した理由を聞いたら」
「どう話せば、団長格がよその副団長格の体調を気にかけるんだ?」
「俺が力加減を間違えて阿伏兎を抱いて、足腰が立たなくなったって言ったら」
笑いながら、付け足しで定例会前の一部始終を話す神威。
話の流れを理解した阿伏兎は、恐ろしく嫌な予感がしながら疑問を口にした。
「……ちょっと待て、団長。その話の流れからすると多大な勘違いをされてないか?」
「阿伏兎もそう思う? さっき廊下で聞いた噂でもヤりすぎて腰痛めて寝込んだって流れてたよ」
どれだけ噂が広がるスピードが速いのか。
破廉恥すぎる噂の内容に、目も当てられないと阿伏兎は片手で顔を覆った。
「ギックリ腰だと言われた方がマシだ……」
「でも、俺が力加減を間違えて、阿伏兎が腰痛めて寝込んでるのはあってるよ?」
「ヤりすぎで寝込んだと思われた時点で恥だろ」
「本当はヤりすぎても、次の日には根性で阿伏兎出るもんね」
笑顔の神威とは対照的に、阿伏兎はどんよりとした空気を纏い、肩を落とした。
水泡に帰す
「今までの努力が全部パーだ、コンチクショー」
end
(2013/09/16)
集まりの悪い定例会。
その中でも、トップクラスで遅刻の多い第七師団の早々のお目見え。
珍しい事もあるものだと、先に席についていた勾狼は、皮肉気に挨拶をした。
「そっちはいつも早いですね、勾狼団長」
「お前んとこが遅いだけだろ」
笑いながら言う神威に、ある意味皮肉でもない事実を勾狼は返した。
そのまま隣の席に座る神威を何気なく眺め、あるモノが足りない事に首を傾げた。
「おい、神威」
「どうかしましたか?」
「お前の所の副団長がいないが、何かあったのか?」
「阿伏兎なら寝込んでますよ」
「ほお! 珍しいな! あの第七師団の副団長が寝込んでるのか!」
ほぼ二人一組並みに共に行動をしている第七師団の団長と副団長。
その片割れがいない理由を、ニヤニヤとした笑みで勾狼は訊いてきた。
「よっぽどたちの悪い風邪でも引いたのか?」
「風邪を引いた訳じゃないんですけどね」
「じゃあアレか? 白兵戦で大怪我でもしたのか?」
「アハハ、そんなんじゃないですよ」
「じゃあ何だよ?」
「俺が力加減を間違えて抱いたら、足腰が立たなくなったらしくて」
ニコニコとしながら何でもない事の様に言う神威。
引っかかり所満載の言葉に、勾狼は口の端が引き攣った。
「なんッ、え? か、神威よぉ」
「どうかしましたか勾狼団長?」
「お前、自分の所の副団長を……」
「こう優しく抱いた積りが、つい」
「マジかァアア!?」
開いた口が塞がらない。
平然と暴露した神威に、震える声で勾狼は確認を取った。
「だ、抱いたってアレか?! ベッドの上で寝たって事か!?」
「勾狼団長はベッドの上以外の何処で寝るんですか?」
「じゃ、じゃあ、あの副団長は今」
「布団の中で丸まって寝てます」
「……お、おう……そうか」
潤いのない男所帯の無法地帯。
多かれ少なかれ男色についてはあるにはある。
が、まさか、あの副団長が被害にあうとは思いもしなかった。
気まずすぎる事実に、勾狼は神威から顔を逸らした。
「勾狼団長、どうかしましたか?」
「……お前の所の副団長に言っといてくれ、お大事にってな」
「分かりました、後で言っときますね」
「おう、そろそろ定例会が始まるな……」
この話題は終わりにしとくか、と遠い目をしながら勾狼は呟いた。
定例会後、阿呆提督に呼びかけられた神威は話を適当に切り上げ。
堅苦しい服を着替える事すらせず、阿伏兎の部屋へと直行した。
書類を片手に、にこやかな顔で部屋へと入り、ベッドで寝ている阿伏兎へと近づいた。
「阿伏兎―、定例会終わったよ。はい、これ書類」
「ほぉ、後で見とくんで、そこら辺にでも置いとけ」
「なんだよ、まだ怒ってるの?」
そっけない物言いに口を尖らせた神威は、阿伏兎が寝ているベッドへと腰かけた。
「夜兎の回復能力でもまだ動けないって、相当ひどいね」
「誰のせいだ、誰の」
ベッドから起き上がれないまま阿伏兎は神威を睨んだ。
そんな視線を受け流しながら神威は笑いながら弁解した。
「寝ぼけてると、誰だって間違いはあるよ」
「ほぉ、その言い訳は何度目だ? 団長」
「阿伏兎を抱いてるとよく眠れるからしかたないだろ?」
「安眠中に、いきなり抱き着かれて命の危険を感じる身にもなれ」
どれだけ馬鹿力だ、と抱きしめられた拍子に腰を痛めた阿伏兎は悪態をついた。
抱き枕代わりにした事を怒られた神威は、さほど悪びれもせず、勾狼からの言葉を思い出していた。
「ああ、そうだ、阿伏兎。勾狼団長がお大事にって言ってたよ」
「はぁ? 何でまた勾狼の旦那が?」
「阿伏兎が欠席した理由を聞いたら」
「どう話せば、団長格がよその副団長格の体調を気にかけるんだ?」
「俺が力加減を間違えて阿伏兎を抱いて、足腰が立たなくなったって言ったら」
笑いながら、付け足しで定例会前の一部始終を話す神威。
話の流れを理解した阿伏兎は、恐ろしく嫌な予感がしながら疑問を口にした。
「……ちょっと待て、団長。その話の流れからすると多大な勘違いをされてないか?」
「阿伏兎もそう思う? さっき廊下で聞いた噂でもヤりすぎて腰痛めて寝込んだって流れてたよ」
どれだけ噂が広がるスピードが速いのか。
破廉恥すぎる噂の内容に、目も当てられないと阿伏兎は片手で顔を覆った。
「ギックリ腰だと言われた方がマシだ……」
「でも、俺が力加減を間違えて、阿伏兎が腰痛めて寝込んでるのはあってるよ?」
「ヤりすぎで寝込んだと思われた時点で恥だろ」
「本当はヤりすぎても、次の日には根性で阿伏兎出るもんね」
笑顔の神威とは対照的に、阿伏兎はどんよりとした空気を纏い、肩を落とした。
水泡に帰す
「今までの努力が全部パーだ、コンチクショー」
end
(2013/09/16)