かむあぶ 2

「はい、阿伏兎。ママ役よろしくね」
「エプロンは分かるが、何でスカートまで用意した?」
「だって、どうせ暇だったんだろ?」
「いやいや、質問の答えになってないぜ」
「ほら、ママって言ったらだいたいスカートにエプロンだろ? うち今日神楽の家庭訪問日だから」
「ああ、だからアイツが余った云業をあんたの家に連れて来ようとしてたのか」

そのついでに連れてこられたが、断らなかった理由は、ただ単純に面倒だったからだ。
反論するつど空耳アワーを連発する星海坊主。
素直について行った方がはるかにましな状況だった。
学校から強制的に神威の家にまで連れてこられ、まさか家庭訪問中ママ役をするとは思わなかった。


「それにしても、高校生になってまで家庭訪問がある学校ってのはどうなんだ?」
「俺なんて365日家庭訪問日だよ」
「いや……まぁ、親が教師の家庭なんてそう言うもんだろ」
「そうかな? ま、そんな事どうでもいいや。で? 阿伏兎はスカート穿く? それとも穿かない?」

まさか一人だけエプロンで済ますなんて事ないよね、とスカートを差し出しながらニコニコと笑う神威。
その言葉に、鼻で笑ってから阿伏兎はスカートを受け取った。

「甘いな団…じゃない、番長。日頃から付けてるマントを腰から下に巻いただけと思えば軽いもんだ」
「こっちじゃ学生服しか着てないけどね」
「…………とりあえず、着替えるか」

学ランを脱ごうとしてから、はたと手を止め阿伏兎は神威の方を見た。
そのまま動こうとせずじっと眺めてくる神威に対し、軽くため息を吐いてから訊いた。

「おい、番長」
「ん? 何、阿伏兎」
「あんたいつまでそこにいる気だ?」
「自分の部屋に俺がいて何か変なことでもある?」
「人が着替えるから席を外そう、とかいう気には」
「なる訳ないだろ? 阿伏兎が着替えるのに」
「…………」

テコでも動きそうにない神威を暫く眺め、無言で阿伏兎は部屋の扉を開けた。
問答無用で神威を蹴り出し、そのまま勢いよく扉を閉めた。


「ありゃりゃ、さすがにダメだったか」
「むぉ、何してるアルかバカ兄貴」
「自分の部屋から蹴り出されちゃった」

廊下を通りかかった神楽からの質問に、笑顔で神威は答えた。
床の上に座り込んでる神威を、呆れた調子で神楽は見下ろした。

「どうせまたバカやらかして蹴り出されたんだろ」
「それはそうと、家庭訪問用に用意したお菓子って後で食べていいんだよね」
「苺大福と、栗饅頭と、まるごとバナナの内、銀ちゃんが食べなかったのが私達のおやつになるアル」
「余り物がおやつかー、まるごとバナナって残るかな?」
「一番うまいのが残る訳ないネ。例え残ったとしても私が食べるヨ」
「苺大福や栗饅頭って、俺が後で阿伏兎と二人で食べる時に分けにくいと思わない?」
「思わないネ。二人仲良く苺や栗が等分にならなくて喧嘩すればいいアル」
「まるごとバナナが残った時は俺が貰うから、よろしく」
「嫌ネ、まるごとバナナだけは譲らないアル」

バチバチと火花を散らし、まるごとバナナを賭けた戦いが始まりそうな頃。
ママ服装をフル装備した阿伏兎が部屋から出てきた。
すぐに神楽から視線を外した神威は、阿伏兎の服装を眺め、憂い気な表情になった。

「着替え終わっちゃったんだね、阿伏兎」
「何で若干残念そうに言ってるんだ、あんたは」
「家庭訪問が終わったら、今度は生着替え見せてね?」
「生着替えとか言うな! 次も蹴り出すからな!」



家庭訪問中
標準装備は、スカートとエプロン。


end
(2013/09/06)
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