かむあぶ 2

目を開けると容姿端麗で色白の、笑顔の絶えない人物がいた。
と、此処までだと想像上かなりの美女を思い浮かべそうな所だが、現実は全く違った。


「団長……何をしているんですかねぇ?」

人の腹にのぼり、笑顔の絶えない顔にそぐわない肉食獣のような目を向けるのは上司だった。

「何って、夜這い? あ、でも今は朝方だから朝這いかな?」
「さようですか」
「じゃ、阿伏兎。服脱がせていい?」
「断ります」
「つれない事言うなよ」

ニコニコと笑いながら退く気も止める気もなさそうな神威に、寝起きの頭で必死に対策を考えた。

「団長……頼むから後三十分だけ寝かせてくれませんかねぇ?」
「そう言ってうやむやにする気?」
「いやいや、睡眠が全体的に足りない中おっぱじめたら途中で爆睡必須だ。そんな事になったら興ざめもいいところだろ?」
「うーん、それもそうだけど」
「な? 分かったら上から退け」
「……しょうがないなぁ、三十分だけだよ?」

念を押すように言い人の上から降りた神威を確認し、相手に背を向け眠る振りをしながら内心で勝ったと思った。
そのまま三十分も何もしないまま待ってる事など出来るわけがない。
途中で眠るであろう相手を確認したら、即刻部屋から出る。
寝起きの頭で考えた作戦にしては上出来だと思っていると、後ろの方で布団が捲られた。


「……何をしてるんですかねぇ、団長様?」
「何って?」
「この狭い布団の中に割り込んで、何をする積りだって聞いてんだよ、このすっとこどっこい」
「ただ待ってるだけだと詰まらないし、もし俺が待ってる間に寝ちゃっても阿伏兎を逃がさないように、かな?」

足と腕でガッチリとホールドされ、逃げられない事実に言葉が出なかった。



爽やかな朝
そんなものは来ない。


end
(2012/10/08)
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