かむあぶ 2

軽い足取りで船の通路を歩いていた神威は、先の方で高杉を見つけ笑顔で声をかけた。

「やあ、楽しかったね今日の戦場も。出来ればもっと強い相手がいれば最高だったけど」
「宇宙の喧嘩師の眼鏡にかなう相手が早々にいるとは思えないが?」

そもそも、海賊稼業を休んでまで顔を出すものかと聞く高杉は疑問の目を向けた。
そんな視線にも神威はソレはソレ、コレはコレとばかりに笑みで答えた。
何処までも食えない調子でいる神威に、高杉は話題を変えた。

「それはそうと、今日は隣にいる部下がいないな」
「阿伏兎の事? 阿伏兎ならたしかそっちの部下と話があるらしいから別行動だよ」
「戦闘員かと思えば、意外と交渉術も長けているらしいな」
「俺の尻拭いのせいで嫌でも得意になるしかなかったって、たまに愚痴るけどね」
「こっちの交渉人として欲しいぐらいだ」
「アハハ! 阿伏兎は俺のだからあげられないよ」

笑顔で言う神威へと、高杉は少し間を置いてから口を開いた。


「まあ、冗談だ。分かったらその殺気、とっとと引っ込めて欲しいもんだ」


ニコニコと笑っていた神威は、少し笑うのを止めて訊き返した。

「そんなに俺って殺気が出てた?」
「思わず刀に手がいきそうになるぐらいにはな」
「やっぱりその目って特別仕立て? 普通なら気付かないのに」

また目を細めて笑みを作り楽しげに言う相手に、鞘へと片手を置いていた高杉は苦笑した。

「分かりやすいってのは致命的だ」
「そう? 大体みんな冗談だってとってくれるんだけど」

気付かれた事が無いのが自慢だったのに、と笑う神威。
その様子に、忠告でも促すように高杉は神威を眺めた。

「弱点を曝け出しすぎると、後で後悔するぜ?」
「大丈夫。だって阿伏兎は俺の弱点になりえないから」

掛け値なしで言われた言葉に高杉は片眉を上げた。

「何だかんだと言いつつ、意外と冷酷なのか?」
「うーん、そういう訳じゃないけど。阿伏兎を人質に、とか無理な話だからかな」
「随分な信頼だ」
「本当の事だし、普通なら気付かないよ」



お侍さん以外
「――気付くだろ、その殺気なら」
「あり? また出てた?」


end
(2012/09/20)
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