かむあぶ 2

「ねぇ、そこの人。ちょっと質問してもいい?」


随分と軽い口調で声をかけられ、阿伏兎は後ろを振り返った。

声をかけてきたのは随分とひ弱そうな青年だった。
ニコニコと笑う顔は人懐こく見えるが、この場所では場違いにしか感じなかった。
白い肌と傘を持っている所からして夜兎だとは思うが、見た事はない人物だった。


「……お前さん、何処の所属だ?」
「さぁ? まだ正式には決まってないから無所属、かな?」

ケラケラと笑う相手に、頭の調子は大丈夫なのかと勘繰りたくなった。

「で? 質問てのは何だ」
「第七師団の副団長さん、て何処にいるか知ってる?」
「何の用だ」
「居場所を教えてくれるだけでいいよ、たいした用じゃないから」
「だから、俺に何の用だ」
「あり?」

きょとんとした顔でまじまじと見上げてくる青年に、ため息を吐いてから口を開いた。


「第七師団副団長の阿伏兎だ」
「へー」

軽い驚きを含めて目を見開く青年。
何処のおのぼりさんだと言いたくなるのを抑え、阿伏兎は再度質問した。

「何の用だ、ガキ」
「副団長の顔を見に来たんだ、後名前を知りに」

片眉を上げて阿伏兎は青年を見返した。
ニコニコと笑い続ける、ふざけたピンク色の髪のガキ。
将来有望、とは言えない青年を前にあまりいい印象は持てなかった。

「夜兎なのに珍しい考え方をするので有名なんでしょ?」
「何処から知ったかは知らんが、余計な事を知ってるもんだ」
「戦場だと鬼の様に強いくせに、同族に当たった途端に手加減する夜兎」
「自殺志願者の顔でも見に来たのか?ガキ」
「ただの好奇心かな? どうして手加減するのか不思議なんだ」
「共食いは嫌いでね。特に、将来有望な同族を殺すのが一番嫌いなんだ」
「風変わりだね」
「何とでも言え」

話は終わりだと切り上げ、阿伏兎は青年を残して立ち去ろうとした。


「俺は嫌いじゃないよ、強い奴は好きなんだ」


それが夜兎の本能に逆らう考えを持つ人物でも、と笑顔を崩さないまま青年は言った。
その言葉に、肩をすくめてため息をつく様に阿伏兎は呟いた。

「最近のガキの考えは分からんもんだ」
「そうかな?」

とぼける青年に、投げやりに阿伏兎は踵を返した。

「用が済んだらとっとと帰れ」

捨て台詞の様に言い放ち歩き出そうとする途中、後ろから青年の声が聞こえてきた。

「じゃあまたね、阿伏兎」
「……はぁ?」

振り返ると青年はさっさと反対方向へと歩き出していた。



唐突で突然
その数日後、『またね』の意味を理解した。


end
(2012/03/30)
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