かむあぶ

「阿伏兎、早く起きないと殺しちゃうぞ」
「……はぁ?」

寝惚ける目を擦り、声のした方向を向くと返り血の付いた神威がいた。
さらに血の滴る袋を差し出され、眠気が一気に覚めた。

「まさかのブラックサンタか!?」
「違うよ? これは阿伏兎に処理してもらおうと思って持ってきたやつだから」
「あー、さようで。で、処理ってのはなにか? 死体のか?」
「おしいね、死体は死体でも鳥の死体だから」
「……普通に鶏肉と言え、このすっとこどっこい」

何で夜中に叩き起こされて料理をしなくてはならないのか。
傍若無人もいいところの上司に対し、阿伏兎は怒る気すら失せた。
渋々ベッドから起き上がり、差し出された袋の中を覗いた。


「何で七面鳥なんだ?」
「クリスマスにはローストチキンかなって思った結果?」
「ほぉ、何十羽入ってるかは知らんが、せめて最低限の処理はしてから持ってきて欲しかったですねぇ……」

殺したてほやほやの羽根つきの七面鳥がぎっしりと詰まった袋。
今から血抜きと羽むしりの作業だけで確実に夜が明ける。
床に点々と残る血痕の掃除も考え気が遠くなりそうになった。



御馳走
「素敵なクリスマスになりそうだね」
「爽やかに笑うあんたを殴りてぇよ」


end
(2011/12/26)
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