かむあぶ

搭乗口で神威を待っていた阿伏兎は呆れ顔で迎えた。

「団長、せめて番傘に乗った雪は落とせ。船内を水浸しにする気か?」
「それが上司を迎える態度?」
「はいはい。雪の中敵陣に一人で乗り込みとてもお疲れ様ですよ、団長様」
「……何で怒ってるの?」
「さあ? 何でですかねぇ。例えるなら雪兎よろしく勝手に飛び出した人物のせいですか?」
「ああ、なるほど。心配してくれてたんだ」
「どう意味を取り違えればそうなるんだ、このすっとこどっこい」
「素直じゃないね、阿伏兎は」
「誰がだ、人の話を…って、おい! 聞いてんのか!」
「はい、はい」

番傘に積もった雪を払い落とし、神威は船へと乗り込んだ。


適温に保たれた部屋の中、びしょ濡れの外套を脱ぐ神威に阿伏兎は問いかけた。

「で? 敵さん御一行を倒した割に、不機嫌そうなツラだな、団長」
「うん、期待外れもいいところだったからかな」
「団長様の期待に添えるもんなんざ、早々にないだろ」
「こんなに大所帯で来たのにね」
「上のお偉いさん方は、力の見せつけが大好きだからな」

無駄な事で、と書類に目を通しながら阿伏兎は皮肉った。
その様子を眺めていた神威は、脱いだ外套をその辺へ放り阿伏兎へと近づいた。

「……団長、何をしているんで?」
「手が冷たくなってるから阿伏兎に暖めてもらおうと思って」
「風呂にでも入ってこい」
「体を温めるのには人肌が一番なんだよ?」


ニッコリと笑って冷え切った手を阿伏兎へと押し付ける神威。
邪魔以外のなにものでもない行動に、阿伏兎はため息をついた。

「ようするに、温まるまで相手しろと?」
「そうだね。出来れば書類なんか放って一緒に寝て欲しいかな」
「たく、相変わらず直球ですねぇ、団長様」

呆れながらも行動を受け入れている阿伏兎に神威はさらに笑みを深めた。

「分かったら早くしようよ、阿伏兎」
「おい、書類が汚れるだろ!」

その場で押し倒そうとする神威に対し怒鳴るが、どこ吹く風で返答してきた。

「大丈夫だよ、汚れたらまた作り直せばいいだろ」
「作り直すのにどれだけ時間がかかると思ってるんだ! せめて片づける時間ぐらい寄越せ!」
「雪の中一人でいて阿伏兎が恋しくなってるんだから、そんなに待てないよ」

真面目に言う神威の言葉に、阿伏兎は何とも言えない表情で口を開いた。



恋しい?
「……あんたに一番似合わん言葉だな」


end
(2011/10/23)
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