かむあぶ

「何で毎日毎日書類の山ができるんだ、コンチクショー」

大量に積まれた書類。
そのほとんどが再提出を言い渡された書類だった。
注意事項の内容は決まって同じだった。

ため息をついて阿伏兎は返却された書類を眺めた。

お世辞にも綺麗とは言えない、書き殴ったような文字の羅列。
注意事項にはでかでかと『文字が汚い』と書かれていた。

「これが精一杯だと何で分かってもらえないかねぇ」

夜兎族の字が汚いことは認める。
他種族が苦もなく読めるような字を書ける者が稀な事も確かだ。

だが、何故書類が手書きなのか。
事務処理をパソコンでしてはいけない理由でもあるのか。
そもそも、紙に書くこと自体資源の無駄ではないのか。
取り留めのない事を考え、最終的に阿伏兎は開き直った。

「大体、夜兎族に事務処理能力を求める方がおかし…」
「阿伏兎ー、また書類の山ができてるよ?」

呑気な声と共に神威が隣へと並んだ。
淡い現実逃避だった。


「そろそろ諦めたら? やっぱり阿伏兎が全部やるって事にしようよ」
「無責任も大概にしろ、事務系を全部やってたらぶっ倒れるだろ」
「でも、返却書類のほとんどが部下に任せたやつだろ?」
「否定はしませんけどねぇ」

おざなりに話しを打ち切り、諦めたように書類へと向かう阿伏兎。
その様子を見た神威は、首を振りながら呟いた。

「仕方ないなぁ、阿伏兎は」
「おい、団長?」

椅子に座ろうとした阿伏兎は、歩き出した神威へと問いかけた。
問いかけを無視した神威は船内放送のスイッチを入れ、マイクに向かって笑いながら宣言をした。


「第七師団員に告ぐ。今後書類で汚い字書いたら、殺しちゃうぞ」



矯正の強制
「やめろ団長! そこまでするな!!」


end
(2011/04/05)
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