かむあぶ

「団長、これは何の騒ぎだ?」

ヒクリと動くこめかみを押さえながら、目の前に広がる光景を眺める。


「何って……今日のこと忘れちゃったの?」

認知症って恐いね~、とケラケラと笑いながら近づいてくる神威。


「十中八九、俺の誕生日……のはずですがねぇ」
「うん、だから皆でお祝いしてるだろ?」
「この、バカ騒ぎがか?」


目の前に広がるのは、酒を浴びる様に飲み、肉を貪り、些細なことで馬鹿みたく殴り合いの喧嘩をしている団員たち。

どこにも祝いをされている要素が見えない。
しいて言うなら、天井付近を飾る布にでかでかと書かれた文字。


『阿伏兎 誕生呪い』


ご丁寧に赤文字で書かれ、乾く前に飾ったのであろう、インクが垂れて血文字の様になっていた。


「……呪いって何だ、呪いって、アレか? 祝いと書こうとして間違えたってか?」
「細かいことは気にするなよ、禿げるよ?」

あんたの父親の様にか、と言いたくなったが。
ソレを言った瞬間、間違いなく記憶は明日へと飛ぶだろうから止めておいた。



「後始末はしないぞ」
「いいよ、今日は阿伏兎が主役だもん」

珍しく気の利いた事を言う神威に驚き、その顔をじっと見てしまった。

「何?」
「……いや、別に」

気まずくなり、顔をそらす。
それにしても、目の前で行われている騒ぎは見苦しかった。


「阿伏兎」
「何ですか、団長」
「逃げるなよ」
「…………は?」



お祝いにはプレゼントを
その片手に持っている、生クリームたっぷりのケーキは何ですかねぇ……団長様?



end
(2010/02/10)
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