かむあぶ

部屋に入った阿伏兎は、神威の持っているものに首を傾げた。

「団長、何をやっているんで?」
「廊下で擦れ違った奴に貰った。地球で流行ってる恋愛ゲームだって」
「恐喝したの間違いだろ」

何処かの師団にまた詫びに行くのかと考え、阿伏兎はため息をついた。

「結構リアルに会話するらしいよ」

まだ真新しいゲーム機の画面を見せながら神威は笑った。
画面の中では、女性キャラクターが知らない人が出たと怖がっていた。
少し甘えがかった声と、臨機応変な反応に阿伏兎は軽く感心した。


「ほぉ、よく出来てるもんだ」
「地球の最新ゲームらしいよ」
「はいはい、あんたの地球産好きもたいしたもんだ」

軽くあしらいながら阿伏兎は書類の溜まっている机へと向かった。
暫くの間室内には、ゲーム機からの声と時折書類とペンが擦れる音しかしなかった。


暫くゲーム機の相手をしていた神威はゲーム機から手を放した。
ゲーム機の中から呼びかける声を無視して立ち上がった。


「どうした団長、あの手のひらサイズの女性が呼んでるぞ」

何気なく言う阿伏兎へと近づいた神威は、阿伏兎に対し質問した。

「ねえ、阿伏兎。あの機械に嫉妬しないの?」
「あんたの場合、ゲームはすぐ飽きるタチだからな」
「俺がのめり込んでもそう言える?」
「団長、そりゃ無理な話だ」

なにせ前例があるからな、と言う阿伏兎。
その言葉に、神威は地球で発売中止のくせに春雨内で出回ったゲームを思い出した。


「OWeeのバキボキメモリアルの事? あれは面倒だったからだよ」
「シミュレーションゲームは大体において面倒くさいもんだ」

まともに取り合おうともしない阿伏兎に、神威はつまらなそうに口を開いた。

「あーあ、せっかく阿伏兎が嫉妬すれば良いなって思ったのに」
「人選ミスだったな、団長。……いや、人選でもないか」

いまだに声を出し続けているゲーム機に視線を移し、阿伏兎は苦笑した。



チョイスミス
そもそも嫉妬をする対象ですらない。


end
(2011/04/04)
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