かむあぶ

年に何回かある第七師団の宴の翌日。
死屍累々の二日酔い者が転がる会場をのんびりとすり抜け神威は阿伏兎の部屋へと入った。

「無礼講ではめ外して飲み過ぎて二日酔いって……阿伏兎も意外と馬鹿だよね」
「あんたは下戸の肴荒らしよろしく食ってばっかだったな」
「酒より料理の方が美味しいだろ?」
「子供舌か……」
「二日酔いで使い物にならない副団長よりはましだと思うよ?」
「はいはい、さようですか」

痛む頭に会話は辛いらしく、おざなりに話を打ち切る阿伏兎。
何も聞きたくないとばかりに布団に包まる姿に、神威は何気なく話を続けた。


「阿伏兎。アホ提督から仕事が来たんだけど」
「それはそれは……後で確認しとくんで、書類ならそこら辺に置いてもらえますかねぇ」
「断っておいたよ」
「はあ?」

間の抜けた声を出した阿伏兎は、布団から上半身を起こし神威へと振り返った。
正装姿のままベッドに腰掛けていた神威は何をそんなに驚くのかと首を傾げた。

「だってどうせ今日なんて皆使い物にならないだろ?」
「このバカ団長! おいそれと上の命令を断るな!」
「阿伏兎ー、そんなに怒鳴ると頭に響くよ?もう遅かったけど」

自分の声が頭に響いたらしく、ベッドに突っ伏した阿伏兎。
たまに二日酔いになると地獄だね、とケラケラと笑いながら神威はその様子を眺めた。

「阿呆提督に詫びに行くか……」

頭を抱えながら言う阿伏兎は、ベッドサイドの水差しへと手を伸ばした。
手が水差しへと触れる直前、神威は水差しを取りコップへと水を移した。
行き場を失った手を引っ込める阿伏兎の前で、コップを見せびらかしながらニッコリと神威は笑った。


「口移ししてあげようか?」


そのまま渡されるのかと思っていた自分が馬鹿だった、と別の意味で頭痛がしながら阿伏兎はうろんげに神威を睨んだ。

「冗談言ってないでさっさと寄越せ。このすっとこどっこい」


end
(2011/02/03)
恋人同士で飲む5題
01:口移ししてあげようか
配布元:TOY
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