かむあぶ

ロックされている部屋のパスワードを入れ、神威は部屋へと入った。
寝ている相手の布団を剥ぎ取りながら声をかけた。

「休日で寝てばっかりなのもつまんないだろ、阿伏……」

剥ぎ取った布団を片手に、笑顔を貼付けたまま暫く神威は動かなかった。
次に、ゆっくりと布団を放し、腰に挿してある番傘へと手をのばした。


「勾狼団長、そこで何を?」


銃口を相手の頭に近づけ、いつでも撃ち抜ける状態での質問。
阿伏兎に抱き着かれながらベッドにいる勾狼は、大量の冷や汗を流した。

「できれば五秒以内に、俺が納得できるように答えてくれますか?」

申し出をする言葉はあくまで丁寧だが、決定的に顔付きが違う。
冷ややかな笑み向けながら、その目は鋭く相手を見ていた。

「五……四…「ちょ…ッ! ま、まて神威!!」

首にまわる腕を引きはがそうとしながら振り向き、勾狼は小声で叫んだ。

「三……二…「ちょッ、マジで待て神威よぉ!? よく見ろッ、明らかに状況が逆だろ!? こっちが抱き着かれて拘束されてるだろ!? 部屋に入って近づいた瞬間に引きずりこまれたんだ!!」

止まらない秒読みに対し、早口にまくし立てるように言う勾狼。
見れば分かる事実ではあった。
しかし、銃口が外される事はなかった。

「勾狼団長。無断で入った人物に人権はありませんから」
「確かに無断で入ったが!! それは――」

聞く耳を持たないとばかりに放たれた銃弾。
反射的に避けた勾狼の顔を掠り、ベッドへと焦げ跡を作った。
はらり、と何筋か毛が落ちるのを視界の隅に捕らえ、勾狼は歯の根が合わないまま神威を見た。


「……――なんの音だ、このすっとこどっこい」

さすがに耳元での銃声は耳障りだったのか、勾狼にまわしていた手を外しながら、ゆっくりと阿伏兎は寝ぼけ眼を開けた。
阿伏兎がまわしていた手が外れた瞬間に、神威は勾狼の衿を掴みベッドから引きずり下ろした。

「い゙ッ!?」
「暑苦しく生えてる毛皮は邪魔なだけ、そう思いますよね? 勾狼団長。少し風通しをよくした方が良いと思うんですが」

どう思いますか、と番傘を突き付けながら問う神威。
ガタッ、と立ち上がり勾狼は叫んだ。


「失礼したァアアア!!」


転びそうになりながらバタバタと部屋を出る勾狼。
その足音が聞こえなくなったことを確認した後、神威は阿伏兎へと視線を移した。

「寝ぼけるのもいいけど、相手を間違えたらダメだろ。阿伏兎」

うつらうつらとしている相手へと言うと手をのばされた。
今度は間違っていない選択に、苦笑しながら相手の手を取った。



側臥
「しょうがないなぁ、阿伏兎は」


end
(2011/01/30)
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