かむあぶ

扉を開けてから、神威は呆れたように口を開いた。


「普通、上司が会議に出てる間に寝る?」


部屋の中心にいる人物は、残った片腕を枕がわりに眠っていた。
珍しい光景ではある。近づいても起きない所が特に。
眠っている人物の近くにしゃがみ込み、その寝顔を眺めた。

「良い度胸だよね」

狸寝入りかと思い至近距離でジッと眺めても反応が無い。
すよすよと寝息をたてる様子は安眠そのもの。
何もかけず寝ているのがやや寒々しく見えるが、空調の効いた部屋では風邪をひくこともないだろう。

「阿伏兎って俺には色々と言うくせに自分には甘いね?」

机の上にある書類の山が視界の隅に入らない訳ではない。
処理済になっているのはさすがと思うが、何となく詰まらない。

「せっかく阿伏兎のために会議中大人しくしてたのになー」

耳元で喋り続けるが、よほど熟睡しているのか起きそうにない。
軽く嘆息してから、神威は立ち上がり着ていた正装の上着を脱いだ。



微妙な寝苦しさに薄っすらと目を開けると、見慣れた薄紅色の髪が視界に入ってきた。
数回瞬きを繰り返し、人の腹を枕にして寝ている人物を眺める。
寝苦しさの原因は相手の頭が乗っていたからかと寝ぼけた頭で理解した。

身じろぎをしようにも、少しでも動けばその瞬間に相手の頭が落ちる。
さてどうしたものかと考えながら、ふと少しだけ頭を動かし、自分にかけられている物に驚いた。


「……おいおい、こりゃ正装用の服だろ」

ぞんざいに扱っていい服ではない。
まして、寝ていた部下の布団代わりに使っていいはずがない。
怒るべきか、感謝するべきか、何ともいえない顔で苦笑した。

「たく、うちの団長様は……」

苦笑しながら呟き、当分起きそうにない様子にため息をついた。



昼寝
とりあえず、もう一眠り。


end
(2011/01/26)
84/100ページ