かむあぶ

 その日、阿伏兎は疲れていた。もっとも、疲れていても遣ることは腐るほどにあった。
 れいの如く貯まりに貯まった書類。ひたすらにペンを走らせる作業を繰り返していると背後から抱き着かれた。
 はぁ、とため息をつき。人の服に手を入れまさぐる相手へと振り返った。

「無駄と分かっていながら、なぜやるんですかねぇ。団長様?」
「理由なんかいらないだろ?」
「と、爽やかに言えば何でも許されると思ってるのか?人の服を無断で脱がすな」
「言葉になんかしなくても、阿伏兎なら分かってくれると思ったんだけど?」
「いや、分かる訳無いだろ。人は言葉にしないとわかりませんから。電波受信してるような行動は予測できませんから普通」
「まあ、細かいことは気にするなよ。取り敢えず、今から1発ヤろうよ」
「する訳ないだろ、このすっとこどっこい」

 完全に呆れた顔で言いながら、阿伏兎は深いため息をついた。



バッサリと断られた後も、阿伏兎の傍に残った神威。
くすんだ色の髪を指先で絡めながら詰まらなそうに訊いた。

「ねー阿伏兎。いつまで紙と睨めっこしてるの?」
「さぁいつまででしょうかねぇ。少なくとも、仕事放棄をする団長様がいる限りずっとだと思いますが?」
「提出期限なんてずっと先だろ。今すぐ処理するものでもないし」
「だから、団長の暇つぶしに付き合えと?」

呆れ口調で言われ、鉄壁に近い態度に絡めていた髪をスルリと放した。

「いつ俺が暇つぶしだって言ったの?」
「それ以外何があると?」
「ああ、もしかして阿伏兎。暇つぶしの相手にされるのが嫌だったの?」
「希望的解釈もいい加減にしろ」

暫くの沈黙の後に、神威は阿伏兎の肩を掴み、引き寄せた。

「おいッ、団長!」
「ねえ、阿伏兎。暇つぶしなんかじゃなくって、俺が本気で阿伏兎を欲しがってるって分かったら。ヤらしてくれるの?」

バランスを崩した阿伏兎の片腕を捕らえ、床へと押さえつけながら神威は訊いた。
今まで書いていた書類の何枚かを下敷きに、諦めたように自棄になりながら阿伏兎は答えた。

「…………その後に、書類処理を団長様が一人で遣ってくれるなら。考えん事もないが?」

阿伏兎の答えに、神威はニッコリと笑った。

「それで阿伏兎とヤれるなら、軽いよ」


end
(2011/01/25)
字書きさんに書き方で10題
10.一部、段落の始めを拾っていくと何かの言葉になるように書く
配布元:TOY
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