かむあぶ

いつものごとく、溜まりに溜まった書類を整理していると。
その隣で、暇を持て余した様子の神威がジッとこちらを見ていた。


「ねぇ、阿伏兎、俺のこと嫌い?」

唐突に口を開いた神威。
いつもなら、好きかと聞いてくる質問は、今日は予想に反して嫌いか、だった。
いつもの様に適当に、好きですよ、と答えようとしていた口を閉じ、一瞬だけ考えてから言葉を返した。


「……まぁ、仕事をしないところは嫌いですかねぇ?」
「やってるだろ? いつも阿伏兎が戦わなくていいよう俺が早めに終わらせてるし」


ただ自分が強者と戦いたいがためだろ、と言う言葉は飲み込み。
神威の視界にも入っているはずの、机の上にある書類の山をチラリと見る。


「俺の眼前に広がる書類を見ながら、良くそんなことが言えますねぇ……」
「じゃあ、やらなければ良いだろ?」

ニッコリと笑い、珍しくも何でも許すかの様に穏和な態度。

おそらく、ここで書類の整理をやめたとしても何も言わないだろう。


「溜め込むと、後が大変なのでやりますよ」



暫くの静寂。
室内には、書類にペンを走らせる音が響く。


「ねぇ、阿伏兎」
「今度は何ですか団長」
「俺のこと、好き?」

書類の上を走らせていたペンを止めると、じわりと白い紙に染みを作った。
青い瞳を向けながら、じっと答えを待つ神威に、苦笑しながら言葉を返した。




答えは決まりきっていて
じゃなきゃ、誰がこんなことするかよ。


「好きに決まってんだろ、このすっとこどっこい」



end
(2010/02/08)
宵様リク『相思相愛な威阿』
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