かむあぶ

スルスルと顔にまいていた包帯をとる神威は、ふと視線に気付き振り返った。

「どうかしたの? 阿伏兎」
「いえ、何でもありませんよ」
「ふーん……」

最後の一巻きまで解きながら、気の抜けた返事をした。
次いで、口元に笑みをのせ、持っていた包帯を床へと放り投げた。

「言いたいことがあるなら言えば良いのに。そんな目で見られるとゾクゾクとしちゃうよ」
「誰がどんな目をあんたに向けたってんですか、このすっとこどっこい」

ぞんざいに放り投げられた包帯を回収した阿伏兎は、顔を顰めながら言い放った。

「冗談だよ。でも、理由ぐらい教えてよ、俺を眺めてた理由を」

目を細め、傍目には上機嫌に微笑んでいるとしか見えない表情を浮かべる神威。
その顔を眺め、阿伏兎はため息をついた。

「相変わらず、使用前、使用後が激しいと思っただけですよ」
「人を厚化粧してるみたいに普通言う?」
「……本当に、何故コレをとっても真面目な顔でいてくれないんですかねぇ」

丁寧に包帯を巻き直しながら、嘆かわしく言われた言葉に、神威は首を傾げた。

「何? 阿伏兎って俺の真面目な顔が好きだったの?」
「どこをどうすれば、そんな結論に行き着くんだ……」
「だって、包帯巻いてる時の方が、言葉遣い丁寧で微妙に対応が甘いし」
「はいはい、団長が包帯をしている時の方が、その糸目でふやけた笑みを浮かべないからですかねぇ?」

巻き終わった包帯をしまいながらの投げ槍な答えに神威は一巡してから、口角を上げた。


「阿伏兎が俺の真面目な顔の方が好きだって言うなら。ずっと真面目な顔にしようか?」


浮かべていた笑みを少し変え、真剣な目で阿伏兎を見上げた。
そんな様子に、阿伏兎は苦笑してから問いかけた。

「笑顔は団長の殺しの作法ではなかったんですか?」
「阿伏兎のためなら、作法ぐらい変えてあげるよ?」
「それはそれは、お優しい事で。ですが団長。あんたが始終真面目な顔だったら、他師団はおろか第七師団員全員まで驚愕するでしょうねぇ」
「……そんなに普段真面目な顔しないように思われてるの?」



表情の差
「まあ、いつも通りの笑みの方が気を使わなくて良いと思いますが」
「それって褒めてる?」


end
(2010/10/02)
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