かむあぶ

「時折、阿伏兎がすっごくバカだなって思うんだけど?」
「心外ですねぇ、此方としては団長の方がよほどバカだと思いますが」
「上司に面と向かってよく言えるね」
「あぁ、つい本音が出てしまったようで、お詫び申し上げますよ」
「心の籠もってない丁寧な侘びって、バカにしてるようにしか聞こえないよね」
「それが分かれば大したもので。皮肉すら分からないようでは本物のバカですからねぇ」

新聞をめくる手を止め、阿伏兎は机に置いてあった湯飲みを取り、茶をすすった。
その間、驚くほどに室内は静かだった。


「恋人どうしが同じ部屋にいるのに何もないって変じゃないかな?」
「何もしていないわけじゃないと思いますが?こっちは新聞を読んで宇宙内の情報を整理してるだろ」
「じゃなくて、スキンシップ」
「…………抱きついて人の服の中に手を入れながら、よくもまあ言えたもんだ」

自分の首へとまわる腕を伝い、呆れながら神威を見上げた。
膝立ち状態で体重をかけるようにしている相手に、いい加減にしろと阿伏兎は軽くいさめた。

「阿伏兎ってストイックだよね? それとも枯れてるの?」
「若い盛りの性を持て余している方と違い、こちとらオジサンですからねぇ……それとも、ガッツリと求められたいんですかい?」
「それもいいね」

服の中に入れていた手を、ベチリと叩かれても神威は笑みを浮かべたまま言い返した。


「……そろそろ新聞を読むのを止めるか」

机の上に広げていた新聞を折り畳み、床へと放った。

「何? ヤる気になったの?」

ワクワクと、期待を籠めた笑みを浮かべる神威。
その様子に、ため息をついて阿伏兎は神威の腕に手を添えた。

「このすっとこどっこい。仕事をやるに決まってるだろ」

神威の腕を無造作に外し。
あんたには、そこの書類山が見えないのかと、神威の頭を軽く叩きながら阿伏兎はため息混じりに呟いた。



おさそい
日常会話に近いもの


end
(2010/10/01)
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