かむあぶ
「随分と予定が狂ったもんだ……」
早歩きで足を進めながら、ため息をつき呟いた。
擦れ違う他師団の団員達の流れに逆らい通路を縫う様に歩く阿伏兎は、ただ一つの事しか頭になかった。
「間に合うと良いが」
間に合うと良い。それは自分が、ではなくおそらく今なお支度を始めてもいないかもしれない神威に対しての言葉だった。
予定さえ狂わなければ、もう少し早く帰り、余裕を持って神威を定例会へと送れた。
しかし、今は開始時間まで間もない。
もっとも、何も此処まで足を速め急がなくとも、誰かが神威に会議開始時間の事を伝えている、と言う可能性もあるが……
「おや、第七師団の副団長殿。そんなに急いでどこへ行くのじゃ?」
「……これはこれは、第四師団長様」
足を止め、軽く頭を下げ挨拶をする。
孔雀扇を持ち、口元に軽い笑みを浮かべる相手は、急ぐ理由をさほど疑問に思っていないようだった。
「副団長殿がいまだこんな所にいると言うことは、また神威が遅刻するのか?」
「いえ、そのような事は無いかと」
「フッ、随分な余裕じゃ。もしくはやせ我慢かのう?」
第七師団団長が遅刻魔な事は知れ渡っているものを、と目で訴える華陀に、阿伏兎は居心地の悪い思いをした。
「ああ、良い事を教えようかのう。先程聞いた話だが、第七師団長はまだ来ていないらしい」
早く行った方が良いのでは、と続ける相手に、阿伏兎は若干血の気が引きながら丁寧に礼を言い。
別れの挨拶もそこそこに走り出した。
「……相変わらずの苦労振りよ」
残された華陀はクスクスと笑いながら、ゆっくりと会議室へと向かった。
「団長!」
第七師団の団員達が遠巻きに取り囲む部屋を目指し、団員達を一喝して退かした阿伏兎は、扉を蹴破る勢いで部屋へと入った。
「あんたッ、今日が会議だとあれほど言ったはずだろ!!」
髪さえも解いた状態で寝ていた神威の胸倉を掴み、怒鳴りつけた。
「んー? あぁ……阿伏兎、どうかしたの?」
「早く顔洗って身支度をしろ!!」
「それより、おはようのキスとお帰りの一発をヤらない?」
「~~ッ今の状況が分かってるのか! このすっとこどっこい!!」
鈍い音を立て、阿伏兎の鉄拳は寝ぼけている神威の頭へと振り下ろされた。
「何も殴る事ないと思うけど? 今から定例会議の内容が入らなかったらどうするの?」
「グースカと寝てたあんたが言える言葉か。団長が会議室に正装で行っていたらすんだ問題だ」
団長服を着込む神威の言葉に、皮肉気に返した阿伏兎はため息をついた。
「じゃ、行ってくるね」
コートを羽織った神威は、真面目な顔で阿伏兎へと振り返った。
「…………相変わらず、馬子にも衣装で」
「それって褒めてるの? それとも照れ隠し? 惚れ直したなら素直に言っていいのに」
ケラケラと笑いながら言う神威に、神威の正装姿から微妙に目を逸らせていた阿伏兎は、肩を震わせて怒鳴りつけた。
会議開始寸前
「さっさと会議室に行け!!」
end
(2010/09/26)
早歩きで足を進めながら、ため息をつき呟いた。
擦れ違う他師団の団員達の流れに逆らい通路を縫う様に歩く阿伏兎は、ただ一つの事しか頭になかった。
「間に合うと良いが」
間に合うと良い。それは自分が、ではなくおそらく今なお支度を始めてもいないかもしれない神威に対しての言葉だった。
予定さえ狂わなければ、もう少し早く帰り、余裕を持って神威を定例会へと送れた。
しかし、今は開始時間まで間もない。
もっとも、何も此処まで足を速め急がなくとも、誰かが神威に会議開始時間の事を伝えている、と言う可能性もあるが……
「おや、第七師団の副団長殿。そんなに急いでどこへ行くのじゃ?」
「……これはこれは、第四師団長様」
足を止め、軽く頭を下げ挨拶をする。
孔雀扇を持ち、口元に軽い笑みを浮かべる相手は、急ぐ理由をさほど疑問に思っていないようだった。
「副団長殿がいまだこんな所にいると言うことは、また神威が遅刻するのか?」
「いえ、そのような事は無いかと」
「フッ、随分な余裕じゃ。もしくはやせ我慢かのう?」
第七師団団長が遅刻魔な事は知れ渡っているものを、と目で訴える華陀に、阿伏兎は居心地の悪い思いをした。
「ああ、良い事を教えようかのう。先程聞いた話だが、第七師団長はまだ来ていないらしい」
早く行った方が良いのでは、と続ける相手に、阿伏兎は若干血の気が引きながら丁寧に礼を言い。
別れの挨拶もそこそこに走り出した。
「……相変わらずの苦労振りよ」
残された華陀はクスクスと笑いながら、ゆっくりと会議室へと向かった。
「団長!」
第七師団の団員達が遠巻きに取り囲む部屋を目指し、団員達を一喝して退かした阿伏兎は、扉を蹴破る勢いで部屋へと入った。
「あんたッ、今日が会議だとあれほど言ったはずだろ!!」
髪さえも解いた状態で寝ていた神威の胸倉を掴み、怒鳴りつけた。
「んー? あぁ……阿伏兎、どうかしたの?」
「早く顔洗って身支度をしろ!!」
「それより、おはようのキスとお帰りの一発をヤらない?」
「~~ッ今の状況が分かってるのか! このすっとこどっこい!!」
鈍い音を立て、阿伏兎の鉄拳は寝ぼけている神威の頭へと振り下ろされた。
「何も殴る事ないと思うけど? 今から定例会議の内容が入らなかったらどうするの?」
「グースカと寝てたあんたが言える言葉か。団長が会議室に正装で行っていたらすんだ問題だ」
団長服を着込む神威の言葉に、皮肉気に返した阿伏兎はため息をついた。
「じゃ、行ってくるね」
コートを羽織った神威は、真面目な顔で阿伏兎へと振り返った。
「…………相変わらず、馬子にも衣装で」
「それって褒めてるの? それとも照れ隠し? 惚れ直したなら素直に言っていいのに」
ケラケラと笑いながら言う神威に、神威の正装姿から微妙に目を逸らせていた阿伏兎は、肩を震わせて怒鳴りつけた。
会議開始寸前
「さっさと会議室に行け!!」
end
(2010/09/26)