かむあぶ

「阿伏兎、今度から吉原に行かなくて良いから」
「……代役でも見つかったんですか? 団長」
「そんなところかな、だから、もうわざわざ地球まで行く必要ないから」
「ほう、それはそれは。これでようやく山と積まれた書類を見ずにすみますねぇ」

最後の一枚を会話をしながら終わらせた阿伏兎は、神威に対し何の質問もしないまま了解した。


「……阿伏兎、何か変だと思わないの?」

背に重みを感じ横目で見れば、神威がもたれ掛かっていた。

「俺がめんどくさい事までして、部下の仕事調整するなんて今まで無かっただろ?」
「気まぐれはいつもの事ですからねぇ、それを一々疑問に思ってたらきりがないでしょうよ」
「銀髪侍に会わせたくなかったから」

書類を処理済みの山へと置いた阿伏兎は、神威からの言葉に黙ったまま続きを待った。

「どうしてだろうね、別に阿伏兎があの侍を殺したとしても俺はいっこうに構わないのに、時折会って酒を一緒に飲むのを許せないなんて変だよね」
「たまたま行きつけの酒場が一緒だっただけだ」
「偶然は二回以上続けば偶然じゃ無いって知ってる?」
「少なくとも、あちらさんは偶然だと言ってたな」
「阿伏兎ってとぼけるのが上手いね」

ニコニコと笑い、もたれ掛かっていた体を放し、神威は阿伏兎の首へと抱き着いた。

「俺の事好きだよね、阿伏兎」
「もちろんですよ、団長様。何を今更確認する必要があるんで?」
「俺が銀髪侍に会わないでって言ったら、きいてくれる?」

振り向く事はできず、神威の顔を見ることはできなかったが、阿伏兎は喉の奥で笑いながら口を開いた。

「随分と、弱気ですねぇ」
「恋は惚れた方が弱みを持つからね」
「さようですか、ついでに心配性になるものだと今知りましたよ」



心配性
「で、会わないって約束してくれる?」
「必要のない不安で辺境の蛮族相手に嫉妬をするのは、みっともないと思いますがねぇ?」


end
(2010/08/26)
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