かむあぶ

「団長、いい加減にしてくれませんかねぇ? 何時間銀時の旦那と睨み合ってるか分かってんですか?」
「阿伏兎、俺だって凄く不本意だよ……でも、この天パー侍とは結論を出さなきゃいけないんだよ」

睨んだ目を逸らさずに言う神威に、ため息をついて阿伏兎は次に銀時を見た。

「旦那、あんたもいい加減にしろ。いつまで睨み合ってるつもりだ?」
「俺はこのピンク色の触角持ちよりずーっと不本意なんだよ。不本意なんだけど優劣をつけなきゃいけない時なんだよ」
「…………勝手にしてくれ」

互いに睨み合い、戦闘態勢に入らんばかりの気迫。
理由が分かるわけもないが、取り敢えず当分は睨み合いが続くだろうと阿伏兎はため息をついた。
本人に言ってもダメならばと、今度はすぐ隣にいた神楽に視線を向けた。

「嬢ちゃんはバカ兄貴と上司を止めたいと思わないのか?」
「好きに遣らせとけよ阿伏兎、そんな事より定春の散歩に付き合うアル」

何かのきっかけで今にも血みどろの戦いが始まるかもしれないと言うのに、よりにもよってそんな事扱い。
兄貴や上司の睨み合いよりペットの散歩の方が大事と言う考えに、少しだけ頭が痛くなった。

「坊ちゃんはどうにかしようとは思わないのか?」

この中で唯一良識と呼べるものを持っている新八へと話を振る阿伏兎。
その問いに、新八は微妙な顔で答えた。

「いや……人の恋路を邪魔する奴はって言う諺がありますから……」
「そうか……まったく、何をそんなに気に食わないのかねぇ?」

新八の反応に、阿伏兎は訳が分からないと盛大にため息をついた。


「……気付いて無いみたいだね」
「鈍感アル、普通はお子様でも分かる問題ネ」

阿伏兎に聞こえない程度に会話を交わす新八と神楽。
勿論、銀時と神威が睨み合っている理由はとっくにわかっている。

「銀ちゃんもバカ兄貴も大人気なさ過ぎネ。阿伏兎は気付いてないけどライバル意識バリバリネ」
「そうだよね……妥協できない点は一杯あるんだろうけどね」

あそこまでガチで睨み合うのもどうかと思う、とそれぞれ心の中で締めくくった神楽と新八。
大人気ない大人達を置いて、早々に理由をつけて万事屋に今日は帰らないと出て行った。



「…………まだやってたのか」

神楽達と同じく息の詰まりそうな睨み合いに嫌気が差した阿伏兎は、軽く散歩をしてきた後、万事屋に入る早々に呟いた。
呆れ果て言われた言葉は、どことなく相手に対する哀れみまで籠もっていた。
ため息どころの騒ぎではなく、本当に呆れ果てた阿伏兎は出て行ってから何時間たったのかと言いたくなった。

「そろそろ決着をつけようか」
「望むところだ」

神威が静かに口を開き、銀時へと言った言葉。
その言葉に、銀時も合意し、2人は立ち上がった。
二人揃い真剣な表情で阿伏兎を見つめ、始めに神威が切り出した。

「阿伏兎、俺とこの男、どっちの方が好き?」
「は?」

驚いた表情の阿伏兎に、銀時が念を押した。

「よーく考えて答えてね?」
「…………仮にどっちかが好きだと言ったらどうするつもりだ?」


馬鹿な質問だったかもしれない。
そう阿伏兎は言ってから考えた。
選ぶ気など始めから無く、考える事さえしなかったが、もし、どちらかを選んだ場合のことは簡単に想像できた。

神威ならば、銀時を選んだ瞬間に隣にいる相手を殺すぐらい造作もなくやる。
銀時ならば、神威を選んだ時、神威に突っかかるぐらいするかもしれない。
どの道、銀時が神威に殺されるか、問答無用の戦いが始まる。

自分の想像した結果に、二人の答えを聞く前に口を開いた。


「悪いが、俺は選べん」


その言葉に肩透かしを食らったのか、ただ予想外の言葉だったのか、暫くの間双方共に無言だった。

「……選べないんじゃしょーがねーか」
「そうだね、阿伏兎って甘いから、しかたないよね……」

それぞれに諦めたように首を振り、次にポンと阿伏兎の肩に手を置いた。

「んじゃ、まずは第一ラウンドとして技術面的な勝者を決めるか」
「アハハ! じゃあ、その次は体力にする? それともどれだけ満足させられるかにする?」
「恨みっこなしだからな」
「そっちこそ、負けたら週三の方だからね?」

「あー……すまんが団長、旦那。こっちにも分かるように説明をくれるか?」

阿伏兎の問いに、訳の分からない会話をしていた銀時と神威は交互に話し始めた。

「いやー、話し合いでなかなか決着がつかなくてねー」
「どっちが週の半分以上を阿伏兎とヤれるか決めかねてたんだ」
「はぁ……そうですか。ところで、いつの間に協定を結んだんですかねぇ?」

質問をしながら、いまだに逃がさないように肩に手をかけてくる二人を眺め。
早まったかと阿伏兎は思った。



仲がよろしい様で?
「えっと……いつだったっけ?」
「あれだろ、けっこう始めらへんだったろ、たしか?」
「…………さようですか」

end
(2010/08/16)
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