かむあぶ

夏祭りの出店入り口付近にて、万事屋の三人組はかたまっていた。
五百円玉を手渡していた銀時は、真剣な表情で宣言した。

「いいか、一人五百円までだからな。それ以上は自分で出せよ」
「五百円じゃ焼きそば一パックしか買えないアル、せめて五千円にしろヨ」
「俺の懐に暴風が吹き荒れるだろ!?」

懐の厳しさを知っているのかと切り返す銀時に、神楽は不満げに頬を膨らませた。

「神楽ちゃん、ここは我慢しようよ。せめて山盛りにおまけしてもらえる所を探すとか」
「うるさいネ。晩御飯は家で食べてきました派は黙ってるアル。みみっちーんだよダメガネ」
「えっ!? 神楽ちゃんも一緒にご飯食べたよね!?」
「あんなの食事前の軽い間食ネ」
「あーもー、いいから行くぞお前ら」

毒舌をふるう神楽に、ため息をついた銀時は出店へと足を運んでいた。


「お客さん!? それだけは勘弁を!!」
「お金は払うって言っただろ?」

焼きそば屋の店主が客に向かい懇願するが、ピンクと黒の影は一瞬にして鉄板一面に焼かれていた焼きそばを消した。
その様子を見ていた銀時達は、絶句しながら指を指していた。

「あれ? どうして銀髪侍がいるの?」
「何やってるネ、バカ兄貴!!」
「ああ、それと神楽もいたんだ」

パックに入っている焼きそばをモサモサと食べていた神威は、ニッコリと笑いながら銀時達を見た。


「私の焼きそば返すアル!!」
「返すって、買ってない奴に返しようも無いだろ?」
「だいたい、何で地球にいるネ!!」
「何でって、お祭りを堪能しに来たに決まってるだろ?」

ようやく仕事が終わったから、と自分は一切手を出していなかった神威は堂々と言った。

「あきらかに、堪能してるって言うか……屋台潰しに来ただけじゃ……」
「心外だなー、ほら、ちゃんと代金は払ってるよ?」

新八の呟きを聞いた神威が指差す方向には、謝りながら代金を渡す阿伏兎の姿があった。
次の商品を必死に作り始めている屋台の店主に一通り代金を払い終えた阿伏兎は、焼きそばの屋台の前でのんきに食べている神威を見つけ呆れ顔で近づいた。

「団長、何処でもほいほいと行かんで欲しいものですねぇ?」
「阿伏兎、次はお好み焼きとたこ焼きが食べたいんだけど?」
「分かったから次は自分で払え」

ため息をつき、神威に札を渡した阿伏兎。
それを受け取った神威は、早速屋台潰しを再開させた。


「あー! 私の食べ物が!!」

神楽が叫ぶが、神威は無視をして次々と屋台の商品を食べて行った。
神威が代金を払いながら屋台潰しをしていく様子を見届けた阿伏兎は、そこでようやく万事屋の三人組がいる事に気がついた。

「私のたこ焼き、お好み焼き、焼きそば、焼きもろこし……」
「……すまんねぇ、うちの団長が」

悔しそうに神威を見ながら呟く神楽を見ながら、何となく気まずげに言う阿伏兎。
神威の屋台潰しを見ながら、銀時は諦めたように呟いた。

「あーあ、こりゃ当分食べられないな」
「侘びとして、これで好きなものを食べてくれ」

阿伏兎が差し出した札を受け取り、神楽はパァッと目を輝かせた。

「銀ちゃんより凄いネ!!」
「クレープにかき氷にリンゴ飴食べ放題だな!!」
「……残ってればの話ですよね、それ」

はしゃぐ神楽と銀時に突っ込みを入れる新八。
その視線の先には大半が材料切れになっている屋台が映っていた。
同じく屋台の様子を見た阿伏兎は、慰めのように呟いた。


「……まあ、団長もまだ甘いものには手をつけんだろ」
「まだ、と言うか、今まさにつけ始めましたけど……」

新八の言葉に一同沈黙してしまった。

「おぃいいい!! 俺の綿菓子、リンゴ飴、クレープ、落書きせんべい!!」
「許せないアル!!」

神威が両腕に菓子類を抱えながら歩くさまを捕らえた銀時と神楽は、怒りながら走り出した。
残された阿伏兎と新八はため息をつくだけだった。



お祭り騒ぎ
苦労人は保護者のみ。


end
(2010/08/06)
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