かむあぶ
「不快だなー、何で華陀と一緒?」
「それはこちらの台詞だ、第七師団は副団長が来ると聞いていたが?」
「女狐と一緒にしたら阿伏兎が食べられるかもしれないだろ」
「ほォ、では不快と言うのはお門違いであろう、神威団長どの?貴様は好んでわしに会いに来たのじゃからな」
孔雀扇で相手を指し、皮肉を籠めて華陀は言い放った。
神威は、その様子を鼻で笑った。
「会いに来たって、たかが共同戦線の話し合いだろ?自意識過剰じゃないかな。それに、此処会議室だし」
「話の分かる男の方が遣り甲斐があったものを……貴様では話にならん」
ため息をつき、さも欝陶しげに神威を見て、嘆くように華陀は呟いた。
「え? ヤりがい? やっぱり阿伏兎を連れて来なくてよかった」
「神威、貴様余程わしを怒らせたいらしいな?」
ピキリと青筋を立てた華陀は、神威を射殺さんばかりに睨んだ。
もっとも、神威は気にした風もなかった。
「無駄口はいいから作戦立ててよ、お得意だろ? 戦略を考えるのは」
人を怒らせておきながら平然と話を進める神威により、やや殺伐と皮肉合戦の様な作戦会議は進んでいった。
「じゃ、大まかなのはさっきの内容で」
あらかた話し終え、廊下に出た神威が華陀へと振り返りながら確認した。
「ふん、貴様途中から話半分であっただろう、メモを見せてみろ」
見せてみろと言いつつ、神威からメモ用の書類を取り上げた華陀。
書類内容を眺め、肩を震わせた。
「何じゃこのミミズののったくったような字は! まともな字を書かんか!!」
「えー、まともだと思うけど?」
「もうよい、わしのをやる。詳細ぐらいは覚えておるからのう」
柳眉を逆立て神威に突き渡すように書類を渡した華陀は、憤慨した様子のまま念を押した。
「では、遅れるでないぞ神威」
「主戦力は第七師団が担当だよ? 遅れる訳ないだろ」
早々に互いに背を向け歩き出した二人。
端から一連のやりとりを見ていると、それなりに懇意にしているように見える所が恐ろしかった。
「そうか、あいつらは付き合ってたのか……」
特に、片目にアイパッチをつけた毛むくじゃらの犬のような狼にとってはそう見えた。
「団長、第四師団団長との話し合いはいやに楽しげだったようですねぇ?」
「楽しい訳ないだろ?」
「ま、団長格どうし、それも宇宙に咲く一輪の花と謡われる方と春雨の雷槍だったら、釣り合いは取れますが」
何の事かと言いたげに阿伏兎を見る神威。
ため息をつき、火遊びなら程々にしたほうが良いと呟いた阿伏兎は、神威が華陀から貰った書類に視線を落とした。
「阿伏兎?」
視線を落とし、丁寧に書かれた文字を追う阿伏兎に声をかけた神威は、未だに意味が分からなかった。
共同戦線の会議後、やけに阿伏兎は一枚の書類を見ている。
珍しい事だった。
たかが一枚に書かれた内容を、そんなに見直す必要があるのかと疑問にも思った。
もしかしたら、内容ではなく……
「まさか、華陀の事が気になるの?」
口にした言葉は、知らずに刺がついた。
その言葉に、落としていた視線を上げた阿伏兎は、複雑な表情で神威を見た。
「それは団長が、ではないでしょうかねぇ」
「何で? 俺は華陀なんか気になってないよ」
「少しばかり噂になっているもので」
皮肉のような口調で言う阿伏兎。
それは上司の体裁への忠告を促すものなのか、個人として気に入らないからなのか、判断がつかなかった。
痛くも無い腹を探られるような不快感。
それと同時に、自分ではなく噂を信じたのかと言う苛立ち。
どんな内容にしろ、今一番重要なのは阿伏兎が自分か華陀、どちらに嫉妬しているのか。
もし後者なら、それこそ誠意をもって嫉妬する必要すら無いと教え込むが、
前者ならば……
「阿伏兎、噂は尾鰭とか付くんだよ?」
「それぐらい知っていますよ、ただ、火の無いところに煙は、と言うぐらいですから」
今すぐ、噂を流した奴を殺したい。
それより前に阿伏兎の口を黙らせたい。
そんな、物騒な考え事をしている神威は阿伏兎を見据えた。
「俺より噂を信じるの?」
「…………いえ、ただカマをかけただけです。そんな風に言うところを見ると、噂は噂でしかない、と言うところだったようで」
軽く詫びを入れた阿伏兎は、書類から手を離した。
嫉妬ではなく、ただ第七師団員が噂していた内容を聞き、
噂により浮ついた空気が蔓延しては困ると思い、事の真相を確かめただけだったようだ。
「ふーん……」
理由は解ったが、納得はできない様子で神威は阿伏兎に近寄り、ニッコリと笑った。
「その噂、何処からの情報だったの?」
顔は笑っているが目は笑っていない神威が問うと、阿伏兎は第八師団からだと正直に答えた。
華陀と会う機会は皆無に等しく、噂を立てられるほど勘違いをされたとすれば、あの共同戦線の話し合いぐらいしかない。
会議室付近を歩けるのは団長、又は副団長格、つまり……
「団長、何処に行かれるんで?」
「ちょっと目の悪い駄犬を懲らしめてくる」
噂の根源は
七十五日で途絶えるのか?
end
(2010/07/31)
「それはこちらの台詞だ、第七師団は副団長が来ると聞いていたが?」
「女狐と一緒にしたら阿伏兎が食べられるかもしれないだろ」
「ほォ、では不快と言うのはお門違いであろう、神威団長どの?貴様は好んでわしに会いに来たのじゃからな」
孔雀扇で相手を指し、皮肉を籠めて華陀は言い放った。
神威は、その様子を鼻で笑った。
「会いに来たって、たかが共同戦線の話し合いだろ?自意識過剰じゃないかな。それに、此処会議室だし」
「話の分かる男の方が遣り甲斐があったものを……貴様では話にならん」
ため息をつき、さも欝陶しげに神威を見て、嘆くように華陀は呟いた。
「え? ヤりがい? やっぱり阿伏兎を連れて来なくてよかった」
「神威、貴様余程わしを怒らせたいらしいな?」
ピキリと青筋を立てた華陀は、神威を射殺さんばかりに睨んだ。
もっとも、神威は気にした風もなかった。
「無駄口はいいから作戦立ててよ、お得意だろ? 戦略を考えるのは」
人を怒らせておきながら平然と話を進める神威により、やや殺伐と皮肉合戦の様な作戦会議は進んでいった。
「じゃ、大まかなのはさっきの内容で」
あらかた話し終え、廊下に出た神威が華陀へと振り返りながら確認した。
「ふん、貴様途中から話半分であっただろう、メモを見せてみろ」
見せてみろと言いつつ、神威からメモ用の書類を取り上げた華陀。
書類内容を眺め、肩を震わせた。
「何じゃこのミミズののったくったような字は! まともな字を書かんか!!」
「えー、まともだと思うけど?」
「もうよい、わしのをやる。詳細ぐらいは覚えておるからのう」
柳眉を逆立て神威に突き渡すように書類を渡した華陀は、憤慨した様子のまま念を押した。
「では、遅れるでないぞ神威」
「主戦力は第七師団が担当だよ? 遅れる訳ないだろ」
早々に互いに背を向け歩き出した二人。
端から一連のやりとりを見ていると、それなりに懇意にしているように見える所が恐ろしかった。
「そうか、あいつらは付き合ってたのか……」
特に、片目にアイパッチをつけた毛むくじゃらの犬のような狼にとってはそう見えた。
「団長、第四師団団長との話し合いはいやに楽しげだったようですねぇ?」
「楽しい訳ないだろ?」
「ま、団長格どうし、それも宇宙に咲く一輪の花と謡われる方と春雨の雷槍だったら、釣り合いは取れますが」
何の事かと言いたげに阿伏兎を見る神威。
ため息をつき、火遊びなら程々にしたほうが良いと呟いた阿伏兎は、神威が華陀から貰った書類に視線を落とした。
「阿伏兎?」
視線を落とし、丁寧に書かれた文字を追う阿伏兎に声をかけた神威は、未だに意味が分からなかった。
共同戦線の会議後、やけに阿伏兎は一枚の書類を見ている。
珍しい事だった。
たかが一枚に書かれた内容を、そんなに見直す必要があるのかと疑問にも思った。
もしかしたら、内容ではなく……
「まさか、華陀の事が気になるの?」
口にした言葉は、知らずに刺がついた。
その言葉に、落としていた視線を上げた阿伏兎は、複雑な表情で神威を見た。
「それは団長が、ではないでしょうかねぇ」
「何で? 俺は華陀なんか気になってないよ」
「少しばかり噂になっているもので」
皮肉のような口調で言う阿伏兎。
それは上司の体裁への忠告を促すものなのか、個人として気に入らないからなのか、判断がつかなかった。
痛くも無い腹を探られるような不快感。
それと同時に、自分ではなく噂を信じたのかと言う苛立ち。
どんな内容にしろ、今一番重要なのは阿伏兎が自分か華陀、どちらに嫉妬しているのか。
もし後者なら、それこそ誠意をもって嫉妬する必要すら無いと教え込むが、
前者ならば……
「阿伏兎、噂は尾鰭とか付くんだよ?」
「それぐらい知っていますよ、ただ、火の無いところに煙は、と言うぐらいですから」
今すぐ、噂を流した奴を殺したい。
それより前に阿伏兎の口を黙らせたい。
そんな、物騒な考え事をしている神威は阿伏兎を見据えた。
「俺より噂を信じるの?」
「…………いえ、ただカマをかけただけです。そんな風に言うところを見ると、噂は噂でしかない、と言うところだったようで」
軽く詫びを入れた阿伏兎は、書類から手を離した。
嫉妬ではなく、ただ第七師団員が噂していた内容を聞き、
噂により浮ついた空気が蔓延しては困ると思い、事の真相を確かめただけだったようだ。
「ふーん……」
理由は解ったが、納得はできない様子で神威は阿伏兎に近寄り、ニッコリと笑った。
「その噂、何処からの情報だったの?」
顔は笑っているが目は笑っていない神威が問うと、阿伏兎は第八師団からだと正直に答えた。
華陀と会う機会は皆無に等しく、噂を立てられるほど勘違いをされたとすれば、あの共同戦線の話し合いぐらいしかない。
会議室付近を歩けるのは団長、又は副団長格、つまり……
「団長、何処に行かれるんで?」
「ちょっと目の悪い駄犬を懲らしめてくる」
噂の根源は
七十五日で途絶えるのか?
end
(2010/07/31)