かむあぶ

地球に来て食べもの以外に良かったと思うことが一つあった。


「何も浴衣に着替える必要が、何処にあるんだ、団長?」
「いいから着ろよ、阿伏兎」

いつもなら、詰襟のチャイナ服にマントまで羽織って、露出なんて腕ぐらいしか無かった阿伏兎。
それが今、首もとが開く浴衣を着ている。

『ん~、やっぱり首もとに、もっと痕を残しとくべきだったかな~』

白い肌に濃い色の浴衣はよく似合っていた。

欲を言えばもう少し、ザックリと合わせ目を開けて欲しかったけど……

ボタンもないし、帯だけだから捲れば直ぐに素肌っていいよね。
触り放題だし。


「……団長、何か変な事を考えてないか?」
「気のせいだよ、疑り深いなー阿伏兎は」

ニッコリと微笑むが、頭の中はどうやって縺れ込ませようかで一杯だった。


「地球の旅館なんかに連れてきて……あんた一体何考えてるんだ?」

眉を寄せて疑るような目を向けてくる阿伏兎、警戒心は簡単にとれそうに無かった。


「もちろん、日頃の感謝を込めて、部下をねぎらおうかと思ってるよ」
「一番うそくせーよ」


ま、こんな事で警戒心が外れるわけ無いけど。


「本当に、何考えてるんだ?」
「だから、ただの慰安旅行だってば」
「……信じられるか、この、すっとこどっこい」





『まだ二泊もあるし、今日はまだ襲わないよ、阿伏兎……』




一日目に何も無ければ、少しぐらい警戒心も解けるよね?






「何だかんだ言いつつ、結局信じるんだもんなー」


朝起きれば、まだ無防備に阿伏兎は寝ていた。
ホクホクとしながら阿伏兎を起こそうと肩に手をかける。

「阿伏兎~、朝だよ」
「んんッ……」

小さく呻いて、阿伏兎はむずがる様に寝返りをうった。
普段なら、ちゃんと寝衣を着てて分からなかったけど……


「それは反則だよ、阿伏兎……」


布団は寝返りで横へと投げ出され。
帯は申し訳程度にゆるく纏わり付いていて。
ザックリと左右にわかれた浴衣からは、艶めかしく足が覗いていた。



食べるしかないよね?
「いただきます」


end
(2010/02/05)
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