流川 楓
名前変更
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ここ最近、私の放課後は体育館と外を繋ぐ入り口で本を読むのがお決まりだ。
気づけば友人が流川君のファンになっていた。
彼を応援するが為に体育館入り口に集まる女子たち。
正直そんなに興味のわかない私は友人の荷物を預かり、その応援団たちを眺めつつ、本を読んでいる。
黄色い声援。
本のページをめくろうとする風。
私に影を作ってくれる木々。
この穏やかな時間がだいぶ気に入ってきている。
彼女たちの応援は、赤木キャプテンに追い出されるまで。
練習の邪魔だと感じておっ返される様だ。
部員たちが真剣なのもわかっているので彼女らは素直に帰るらしい。
「秋!さっきね!流川君がシュート決めたの!それはもうカッコ良くってね〜!」
「それ毎回聞いてるよ、昨日のシュートとは違うの?」
「違うわよ!今日のシュートは桜木君からボールを奪ってからの3ポイント!もうカッコ良くってびっくりしちゃう!」
「かなちゃんが幸せそうで何よりだよ。」
「秋も応援しようよ!」
「えー、私あの中に入ったら押しつぶされちゃうよ…。」
「秋は小柄だしねー、難しいか。」
あの応援団の中に入っていける かなちゃんがすごいんだよ。
という言葉を飲み込み、帰り支度を始める。
「おい」
ふいに、後ろから声をかけられた。
「?」
かなちゃんと振り向くとそこには大人気・流川君が立っていた。
こんなに近くで見たのは初めてで、練習風景を見ていた時よりずっと大きくて、少し萎縮しちゃう。
「きゃああ!流川君!どうしたの?!休憩ですよね!」
「ん」
「…お疲れ様です。」
テンションマックスのかなちゃんと対照に、挨拶程度の言葉しか出てこない私。
「名前…教えろ」
「はいっ!中村かなです!」
「…そっちも、教えろ」
彼の指がさしているのは私だ。
「佐藤 秋、です。」
「ふぅん、わかった。じゃあ俺は戻る。」
「流川君練習頑張ってねー!」
流川君を見送り、かなちゃんと急遽、何故流川君が話しかけてきたのか会議をバーガーショップで行うこととなった。
遅くまで話し合ったものの答えは出なかった。
有名人の行動は平凡な私たちでは理解できないのだ。
“不思議な人”
その日から私の中で、彼に貼りついたレッテルだ。
次の日の放課後、いつも通りかなちゃんと体育館へ向かう。
すると例の“不思議な人”流川くんが話しかけてきた。
「おい佐藤、昨日なんの本読んでたんだ」
「え?」
「…教えろ」
「太宰の、人間失格…です」
「…わかった」
彼は質問の答えを聞くと振り向くことなく更衣室へ向かっていった。
「え!?!秋実は流川くんと仲いいの?!!」
「そんなわけないってば、クラス違うし話したの昨日が初めてだし」
「…もしかして秋のこと好きなんじゃない?!脈ありってやつじゃない?!」
「えぇ…飛躍しすぎだよ、私応援すらしてないんだから」
かなちゃんの興奮状態を沈めるのに10分ほどかかった、彼女は恋バナというのが大好きでミーハーな女の子なのだ。
もし彼女のいうことが事実だったとして、私は彼のことを好きになれるのか、ちっとも想像出来なかった。
私の中で流川楓という男の子は“不思議な人”でしかないのである。
はたまた次の日、流川くんは話しかけてきた。
その次も
またその次の日も。
そして本日は悪天候、雨の日なので体育館の入り口は開いていない。
黄色声援がお休みの日である。
普段 応援で消費している時間を、私とかなちゃんはいつものバーガーショップで過ごしていた。
「ねえ、流川くんって絶対秋の事好きだよ!!絶対!!」
「でたでた…かなちゃんの妄言。」
「いやいやいや、流川くんってあんなに積極的に人に話しかけたりしないんだよ?」
「へー、何か他の同級生と比べてもクールだもんね。」
「そーなのよ!!そんな所にも魅力を感じるっていうかぁ〜、…そ、そうじゃなくって!!」
話した内容なんて大した内容じゃない、それに彼としているのは会話じゃない
Q&A
質問を投げかけられ、私が答える。
その繰り返し。
本のタイトル、今日のお昼は何してた、いつ暇なんだ、スポーツは好きか
こんな些細なことしか関わりがないのに好きだなんて とんでもない、ありえないであろう。
「そもそも、かなちゃんは万が一私が流川くんと付き合うってなったらショックじゃないの?好きなんでしょ?」
「えー!私ファンってだけで流川くんの事そういう意味で好きじゃないし、もし秋が流川くんと付き合ったら周りに自慢しちゃうよー!!」
「そうなの…??わっかんないなぁ…もうこの話やめよ、疲れる。」
流川くんの話題をやめて、かなちゃんの恋バナや、次のテストの愚痴、
そのあとも 雨の音が消えたのにも気づかず、楽しい時間を過ごした。
次の日、最近 部活前の定番になっている流川くんとのQ&Aの時間だ。
「おい佐藤」
「きゃー!!流川くんこんにちは!!」
「こんにちは、流川くん」
「ウス」
今日は何聞かれるのかな、得意な科目とかかな。
これといって視線を交えることもなく彼の言葉を待つ。
「ちょっとついて来い、中村、佐藤を少し借りるぞ」
「ど、どうぞどうぞ!!私もちょっと教室に忘れ物取りに行こうと思ってたので!!」
流川くんはおもむろに私の手首を掴みその場から移動し始める。
わざわざ嘘をついた かなちゃんの方を見ると、「頑張って!」と口をぱくぱくさせていた。
どういった状況なのか、私の脳みそはまだ混乱したままだった。
体育館から少し離れた木陰で、流川くんは立ち止まった。
昨日の雨が嘘だったかのように、太陽の熱を遮る木々は影を作っている、地面の土はからっと渇いていた。
「わざわざ連れ出してまで聞きたい事ってなんですか?」
いつもは彼から投げかける質問を、今日は私が先に投げかけた。
返答が返ってくるまでの沈黙はすごく長く感じた。ただ返って来たのは答えではなく質問だった。
「佐藤は、好きな奴はいるのか…」
「いないよ」
答えを聞いた流川くんは、少し驚いたように見えたけど、クールな表情から感じ取るにはあまりに一瞬 垣間見る程度の表情だった。
「いないのか」
「うん、いないよ。」
「………じゃあ、俺と付き合わないか…?」
「……ぇ?あ、…え??」
さすが“不思議な人”流川くんだ。
好きな人がいないと答えた異性に対して「じゃあ付き合って」と申し出る意味がわからない。
私には今、恋愛対象として見ている人物は存在していない。
流川くんも例外ではない。
「ごめんなさい、付き合えません。」
「……何でか、理由を教えてほしい。」
「恥ずかしい話だけど、私恋をした事ないの。現状、クラスメイトの子達みたいに好きな人もいないの。」
「じゃあ、俺をその、“好きな人”…として見てくれないか」
返答に困った私がつくってしまった沈黙は、随分と長かったと思う。
「…他にも流川くんのこと好きな女の子はいっぱい いるのに、そこまで私にこだわるのはどうして?」
「好きだから」
整った顔立ちの彼から、視線を交えて言われる“好き”という言葉の威力は思った以上に私の胸を苦しめ、思わず顔が熱くなった。
「…どこが、って聞いてもいい?」
「練習中に見た佐藤の姿が、美術館にあるような、絵画みたいに綺麗だった。…一目惚れって言うんだろ、こういうの。」
「……」
「俺は佐藤の内面を全く知らねぇから、知ろうと思った。少しでも佐藤の事知れたのが俺は嬉しかった。」
私の容姿は特段美人なわけじゃない。絵画のような美しさなんか持ち合わせてはいない。
けれど、視線を逸らすことなく、話す彼の言葉を、簡単に否定するには不躾だと思った。
言われた事のない言葉ばかりを耳にした脳みそは今にもパンクしそうだ。
「初めてそんな事言われて、ちょっと整理が追いつかないけど、流川くんはどうしたら満足してくれるの?」
「付き合ってくれれば満足する」
「そんなすぐにお付き合いなんて私には無理だよ…!」
「じゃあ今じゃなくていい、明日でも、来週でも、もっと先でもいい。俺のこと好きになるまで待つ」
世間の女の子は恋をしているとき、息が止まるんじゃないかと思うほど胸は苦しくて、でも心臓の音は激しくなって、火が出そうなほど顔を火照らせているのだろうか。
大スターの流川くんだから私をこうまでさせるのか。
恋愛未経験の私には判別できなかった。
「えぇっと…ありがとうございます…っ善処します…」
困惑している私が絞り出した言葉を聞いて、彼は嬉しそうな顔をしていた。
初めて恋と向き合うこととなってしまった。
うかうか本も読めそうにない。
今日は少し、彼の練習を見てみようと思った。
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