花道軍団
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最近 放課後、私は体育館にいる。
友人が流川 楓くんのファンになってしまったのだ。
かっこいいと思うけど私は興味がない。
「じゃあ私応援してくる!!秋も来ていいんだよ!!」
「行かないってばー、毎回聞いてくれてありがとうねー」
「もぉー!かっこいいのにー!」
「知ってる知ってる。練習始まるよ?いってらっしゃい。」
「うん!応援頑張ってくる!」
友人の荷物を預かり、私は体育館出入口の壁に体をあずけ、本を読み始めた。
外の風を感じ、練習の掛け声と、応援の喧騒をBGMに読書をするのも慣れてしまえば心地いいものだった。
そんな中 今日は私に向けて声をかけてきた人がいた。
「かーのじょっ?お暇なら俺とお話ししない?」
この人有名な人だ。隣のクラスの桜木 花道くんと仲のいい不良さんだ。
「暇ですけど…私面白い話し出来ませんよ?」
「そんな身構えないでくれよ?本当、君と話したいってだけなんだ」
「そ、そうですか…私で良ければ、是非…?」
つい どもってしまう。
不良とお話しなんてしたことないもの。
「いつも体育館来ては本読んでるけど、中入らないの?」
「ええ、最近バスケ部が話題ですけど、部員の名前が少し分かる程度であんまり興味ないので、友人の荷物係で来てます。」
「へー、優しいね。そうだ名前教えてよ、俺 水戸洋平。今後お見知りおきを。」
「えっと、佐藤 秋です、こちらこそよろしくお願いします。」
話してみると普通の人、優しい口調に少し驚いてる。不良さんって横暴な方ばかりじゃないのね。
「水戸くんは応援しないんですか?お友達は体育館にいますよね?」
「んー、心の中でめっちゃくちゃ応援してるぜ!…的な?大丈夫、俺の応援がなくても花道は強くなってってるから。あ!花道ってのはあの長身赤頭のあいつ!知ってる?」
「知ってますよ、学年で有名ですから。」
「まあそうだよねー。ねえ?俺の事は?知ってた?」
「名前は知らなかったけど、見たことはあったので、知ってたことになりますか?」
「そっかそっか〜。覚えてくれてて嬉しいなー」
その後も明るく話す彼に、私もほんの少し くだけて会話を続けることができた。
なんだかんだで20分くらい話していたと思う。すると友人が応援を終えて戻ってきた。
「赤木キャプテンにみんな追い出されたー、秋帰ろうー!」
「お、お友達戻ってきたね、じゃあまた暇してたら声かけてな」
ひらひらと手を振って、友人と入れ違う形で、彼は桜木くんを応援に体育館に入っていった。
追い出されないのはVIP待遇ってやつだろうか。
「あれ水戸くんじゃん、何話してたの?」
「ぁー…世間話?」
「へー。あ!この後本屋行こ?漫画の新刊出てるんだー!」
「うん、いいよ。」
友人は特に気にすることもなく本屋へ向かうべく歩みを進めた。
私はさっきまでの会話を脳内で復唱するように思い出し、上の空で過ごしていた。
本当に、すごく優しい人だった。
次の日も、その次も水戸くんは私を見つけては話しかけてくれた。
笑顔で「佐藤ちゃーん」と声を上げて。
「水戸くんこんにちは。今日は暑いね。」
「こんちわ。佐藤ちゃん、今日あっついねー。」
「うん、みんなすごいよねー、こんな暑い中普通運動出来ないし、応援のためにあんなに声出せないよ。本当すごい。」
「それだけ熱中してるんだよ。ねぇねぇ、俺友達のカバン持つからさ、飲み物買いに行かない?購買遠くないし。」
どうしよう。
カバンを持ってもらうのも悪いし、ここを離れた後友人が戻ってきても申し訳ないし。
でも飲み物が欲しいくらい暑いのも確かなのだ。
「…なんか色々申し訳ないから私荷物見ててもらえれば買ってくるよ?」
「あーもぉ。そうじゃなくてさ、佐藤ちゃんと、一緒に行きたいんだって。ね?」
「ね?って…そうなの?」
「そうなの。」
「…じゃあ一緒に行こうかな、でもカバンは持つからいいよ、大丈夫。」
「何いってんのさ、女の子にそんないっぱい持たせるわけにいかないだろ?こういう時に男を頼るのも優しさだと思うぜ?」
「…なんか言いくるめられてる気がするなぁ。じゃあお願い出来ますか?」
「お任せあれ。」
そう言って軽々とカバンを持ち上げ、購買へと向かった。
水戸くんとは体育館前でしか会わないから、一緒に校内を歩くのはちょっと、変な感じだ。
嫌な違和感ではないけれど。
「何飲む?」
「えーと、緑茶かな?」
「俺はコーラにしよ。普段もお茶飲むの?佐藤
ちゃんはオレンジジュースってイメージ」
「種類は違えどよく飲むのはお茶かな?オレンジジュースも飲むけどアップルジュースの方が飲むこと多いかも。」
「へー。あんまり見ないけど美味しいんだ?可愛い飲み物飲むね。」
「可愛いのかなぁ?お友達のカナちゃんはオレンジジュースよく飲んでるよ。」
「ふーん、そう。」
ジュースで可愛い可愛くないって感想を初めて聞いたから返答に困るけど、果汁のジュースが可愛いならお茶ばかりの私は渋い、になるのかな?
取り留めのない話をしながら体育館に戻る途中、水戸くんは私を木陰に引き留めた。
「どうしたの?」
「ちょっと二人だけで話したくて。」
「……何?」
「俺さ、佐藤ちゃんの事好きなんだ。…その、よかったら、付き合って欲しい…考えてくれないか?」
水戸くんが私にそういった感情を抱いているだなんて微塵も想像していなかった私は今どんな顔をしてるんだろう。
この話をするために二人で購買に行きたかったんだと、気付いたのは後の話だ。
「ぁ、えっと。私恋愛経験が微塵もなくて、告白されるなんて、初めてなの…どんな返答が正解か、ちょっとわからなくて。んと…」
「今ここで無理に答えてくれないくていいよ、でも俺は体育館前で見かけて、本読む姿が綺麗で、惚れて、気になって声かけてみて、話すたび俺は佐藤ちゃんの事もっと好きになった…。俺はあの日話しかけてよかったと思ってる。」
「…うん……。」
「これ、告白したからって佐藤ちゃんから距離置かれたりすんの…?」
「え?!いや、ぁぁ…水戸くんが構わなければ、私はいつも通りお話ししたい…です。」
「そう、それなら、告白してよかった。いつでもいい、俺が佐藤ちゃんの事を好きだっていうこと、たまに思い出して欲し……ごめん嘘っ、出来れば意識して、今までみたいにお話しして欲しいわ。」
「水戸くんが、私の事好き…」
「そ。俺は佐藤ちゃんが大好きです。」
木陰で、いつもの穏やかな雰囲気じゃなくて、少し凛とした雰囲気で。
水戸くんは私に向き合って、私を好きだと言う。
「…すぐ返事出来ないけど、気持ちの整理がついたら、またこのお話しするね。」
「ん。それで構わない。よろしくお願いします。」
少し耳が赤いのは、きっと暑いからじゃないんだろうなと、さすがに気付いてしまった。
「ありがとう。体育館戻ろう?」
「そうだな!そろそろゴリに追い出される頃だろうから。」
購買で買った飲み物はまだ冷たかった。
さっきの出来事はほんの短い時間だったようだ。
でも私には、時が何度も止まったんじゃないかと錯覚した。
すごく長い時間水戸くんの熱い視線を感じていた。
現実と、自分の体感で、ずいぶん大きな差が出ている。
今も、二人きりの空気がなんだか不思議な感覚で、体育館までずいぶん距離があるみたいだ。
きっと私の耳も真っ赤なのかもしれない。
今日はずいぶん熱い日だった。