一歩踏み出す誕生日
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俺なりに秋ちゃんとの買い物を楽しみにしていた。
彼女の知らない一面がみれるだろうからと。
まあ、今まさにその知らなかった一面を見ているのだが。
「ノースブルー生息でここいらじゃお目にかかれないレアモノ!この柄も色もいいわよねー!お顔も海王類のキバも再現してあるし、目の形が可愛くて!」
「そうですね!目元は愛らしいのにやっぱりキバがあるだけで海王類の強い一面が出ててそこがいいですよね!」
かれこれ海王類ぬいぐるみについて店主のおばちゃんとずっとこだわりについて語り続けている。
といっても15分くらいだけど、さすがに寂しさを感じ始める。
俺その海王類見たことあるぜ!だなんて、そんな発言をしたらこの会話は本当に終わらなくなるだろうから絶対に言わない。
「この生地も手触りがすっごくいいのよー、この柔らかい布じゃ皮膚の硬さは再現出来ないけど、そこはぬいぐるみの良さよね!抱きしめたくなる良さ!」
「そうですよね!ウツボ系のぬいぐるみは形的にも抱き心地いいしこの大きさなら抱き枕でもいいくらいですよ!毎日一緒に居たくなるぬいぐるみですね!」
仕事では見せない少し砕けた言葉選びに警戒心のとかれた笑顔を見て“可愛いなぁ”と思う俺はやっぱり秋ちゃんにぞっこんなんだよね。
もうそろそろ俺が我慢することもねえだろうと思い、二人の会話に割って入る。
「店主さん、そんなにいい品なら買って帰るからお会計してもらってもいいかい?あとラッピングもしてくれ。」
「あら!お連れさんも可愛さに気づいちゃったのねー!かしこまりましたー!」
「クザンさん?!これを女性にプレゼントする気ですか?!この品はマニアックなのでかなり人を選びますよ?!」
「まあまあ、そんな叫ばんでもいいのよ。てかいい値段すんねこのぬいぐるみ。」
「え、あ、はい。職人さんが手作りしてて量産品ではないので…でもその分、物の質が高いので良い品です!」
「へー、そうなの。」
お会計を済ませ品を受け取る。
2人で店主のおばちゃんに会釈して外に出た。
店を出てすぐのところのベンチを指差して座るように促した。
「プレゼント決まって良かったです。そのぬいぐるみ、お相手さんに喜んで貰えたら私も嬉しいです。
お相手の女性がそのぬいぐるみを気に入って下さっていたら紹介いただけませんか?同じぬいぐるみ好きとしてお話ししてみたいです!」
「んー紹介は出来ねえなあ、てかあんなに語ってたぬいぐるみ買えなかったわけだけど秋ちゃんは欲しくなかったのこれ?」
「………我慢できるので大丈夫です…。」
そう言いつつ表情は欲しくてたまらないのに手に入らず悔しがる、苦虫を潰したような顔の秋ちゃんがいた。
欲張りな一面も見れた。
当初の仕事以外の一面、割といっぱい見れた気がする。
俺はこんなに可愛いと思える女を他のやつに譲れない、譲りたくねえよ。
彼女の向かいに移動して、ぬいぐるみを両手で持ち片膝をつく。
「本当はもう少し洒落たものでする予定だったんだけど、
俺と結婚を前提に付き合ってください。」
「えっ……!」
驚いて返事に困り目線が俺を見たり逸らしたりと忙しそうだ。
今日の俺の計画は
彼女の好みを炙り出し、好みの品をプレゼントする、そして告白もする。
というものだった。
脳内イメージでは洒落たアクセサリーの予定だったんだが、まさかぬいぐるみで告白することになるとは。
状況整理がついてから彼女は口を両手で覆い、「私でいいんですか?」と涙目になり小声で聞いてきた。
「もう秋ちゃんのこと気になりすぎて他の女なんか目じゃないのよ、秋 ちゃんが思ってる以上におれはメロメロなんだけどー、おれじゃあ役不足かい…?」
「そんな事ありません…!私でよかったら、喜んでお受けいたします…!」
涙を流しながらお付き合いをOKしてくれた秋ちゃんはぬいぐるみを受け取った。
俺の手にあった時はたいした大きさじゃなかったのに、彼女には両手でだき抱えるくらいの大きさに変わって思わず笑みがこぼれた。
「あー、なんだ。このぬいぐるみデカすぎだろ。こいつのせいで全然カッコつかねえよー、OK貰えたから今度婚約指輪でもう一回やるから待っててね秋ちゃん?」
「婚約指輪?!ま、待ってください…!結婚前提は嬉しいですし了承しておりますがっ、あの、片思いの期間が長かった為もう少しお時間をかけてお互いの中を深めて行けたら大変助かるのですが!!」
「そうだなぁ…まず秋ちゃんのこの業務連絡みたいな会話やめさせねえとだもんなぁ。」
「で、でも上司と部下という関係は変わらないのでこのままでも構わないと思っております!」
「そうかい?まあ沢山会話してく中で敬語減らしてくれたら嬉しいなー。」
「はい!」
その返事がもう堅いんだよなーと思いつつ「帰ろっか、送るよ」と立ち上がり差し出した手に頬を染めて「ありがとうございます」と手を重ねた秋ちゃんをみて、早くウェディングドレス着せてやりたいなと思った。
その妄想に近づくための、俺にとってこの告白は大きな一歩前進。
こうして俺は誕生日という祝いの日に最高の幸せを手に入れた。