トリップ先は海賊船
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今度は私が暗い顔をする番だった。
常温で出しっぱなしにしてたから生地の表面がテカテカしてる、バターが溶け出したのだろう。
この状態に今から色々混ぜ込んで5種類も作っていたら今以上に状態が悪化してしまうと思う、考えただけで焼き上げる前から悲しい。
「みんなには最高の状態を食べて欲しいのにぃー…冷蔵庫いれとけばよかった…」
「ごめんおれのせいだ!!ごめん秋ちゃん…!!」
「いいんだよ、元をたどれば私が悪いから…5種類作るのやめて今からプレーンクッキー焼いても食べ切れるかな…?飽きて余ったりしちゃうかなぁ…。」
「おれが責任とって全部食べる!だから秋ちゃんは気にせず作ってくれ!」
仁王立ちで胸をドンと叩き大声で私の背中を押してくれるサンジを見て、私はあったかい気持ちになった。
サンジはどこまで優しいんだろうか、優しすぎる。
そうだよ、この船にはちょっとくらいの失敗で怒る人なんていないんだよね。
学校で技術を学んでいるうちに完璧にこだわりすぎてたのかも知れない。
食感が多少悪くても甘くて美味しい味に変わりはないはずだ。
「責任とって全部食べるべきなのは私だと思うけど、もし私だけで食べきれなかったら食べるの手伝ってもらっていい?」
「もちろんだとも!」
「ふふ、ありがとうサンジ。じゃあ早く成型出来るようにしなきゃね!」
そこから型抜きできる様に生地を冷蔵庫で冷やして状態を改善させてから型抜き作業を進めていたらチョッパーが「甘い匂いがしないけど今日はおやつなしか…?」とキッチンに確認に来てくれた。
「時間かかっててごめんね!今から焼くからもう少しだよ!」
「今日のおやつはなんだ?」
「クッキーだよ。」
「クッキーかぁ!おれ秋の作る甘いの好きだからクッキーも楽しみだ!」
「チョッパーありがとう、でも失敗しちゃったから美味しくなかったら残してもいいからね?」
「失敗したのか?成功のやつと何が違うんだ?」
「んー、食感がほろほろじゃなくてザクザクって感じかもしれないの…。」
「ザクザクのクッキーも美味しいと思うぞ?」
「お、チョッパーいい事言うじゃねえか。」
「サンジもそう思うだろ?」
「ああ、もちろんだ。秋ちゃんの作るお菓子が不味いわけねえからな!」
「そうだそうだー!おれここで一緒に焼き上がるの見ててもいいか?」
「いいよー、クッキーがふくらむの一緒に見よ!」
「じゃあ休憩がてら先にお茶にしよう、何がいい?」
「おれミルク!」
「私は紅茶で。」
「りょーかい。」
チョッパーを膝にのせてオーブンを眺める。
チョッパーはクッキーが楽しみなのか即興でクッキーの歌を歌い始めた。
可愛すぎて失敗したのがどうでもよくなってくる、早く食べさせてあげたい。
私はここにいることで前より自由にお菓子と向き合えそうな気がした。
私は完璧なお菓子が作りたいんじゃなくて、美味しいって喜んでもらいたいだけなのかもしれない。
前の世界じゃコンクールのためにデザイン考えたり材料を吟味するのが楽しいと思ってたけど。
きっと自分のお菓子で笑顔になって欲しいのが、私の本質なんだろう。
「おまたせ、アイスティーとミルク。お待ちどう様。」
「わーい!」
「ありがとうサンジ。」
紅茶を受け取り3人でオーブンの中を眺める。
作り始めた時は重い空気もあったけど、こうやって穏やかな時間を多く過ごせたら嬉しい。
今はただ海を渡っているだけだから穏やかなだけで、島につけば過酷なことがたくさん起こるのは知っている。
この先何があるか知っているからこそ、みんなとは穏やかで楽しい時間を多く過ごしたい。
「なあ!膨らんだけどもういいんじゃないか?まだか?!」
考え事から現実にチョッパーの声で意識が戻った。
「本当だ、もう良さそうだから出そうか。」
「早く食べよう!」
「チョッパー、クッキーってのは確か冷ます時間も必要なんだ。」
「ま、まだ待つのか?!目の前にあるのに!!」
「気持ちはわかるが食い意地張り過ぎだチョッパー。」
「うぇー〜ん…でもサンジだって早く食べたいだろー?」
「食べたい。」
「ほらぁ!じゃあ食べよう!」
待つ待たないの問答が面白くてしばらく二人を眺めていた。
私が素手で触れるくらいに粗熱が取れたのを確認してチョッパーとサンジにお皿に数枚クッキーをのせて渡した。
「まだ熱いけど、焼き立てを食べれるのは作る人間の特権だから、冷ます前のも食べていいよ。」
「え!特権なら、サンジはそうだけど、おれお手伝いしてないけどいいのか?」
「一緒にオーブンでクッキー膨らむの見ててくれたじゃない?焼き上がるの見ててくれてありがとうチョッパー。」
「わぁー!ありがとう秋!えへへ!」
「いただくぜ秋ちゃん。」
クッキーを口にしてからサンジは料理人の顔つきで味わって食べてた。
チョッパーはキラキラしながらワー!キャー!とはしゃぎながら大喜びしてくれている。
これがまた、なんとも可愛すぎる。
「あったかいクッキーもうめぇ〜〜っ!もう一枚だけ…食べちゃだめか?」
「今日は山ほど作っちゃったから全然いいよー、私も食べよ。」
チョッパーと一緒になって焼きたてのクッキーを食べる。
今心地よいこの食感は冷ましたあともう少し固くなってしまうだろうけど、味は文句なしに美味しいクッキーだ。
次に作るときにもっと美味しく作ればいい、だから今は「美味しいね。」ってチョッパーとサンジと笑いあっていいと思う。
「充分美味い、成功してたらもっと美味えのかと思うと秋ちゃんの技術の高さに感服するぜ。」
「ありがとうサンジ!期待に添える様次も頑張るよ。」
みんなへの謝罪をするのは今度、もっと美味しいお菓子を用意してからにしよう。
その後完成したクッキーをみんなに振る舞ったが私の心配をよそに気づいたらなくなっていたので安心した。
足りなかったかもしれないから「もっと多く作った方がいい?」とナミに聞いたら
「毎回こんな大量に食べてたらこの船全員太っちゃうわよ!!ダメ!!なんでこんなに美味しいのよ〜食べすぎちゃうじゃない〜…。」
半べそになりながらクッキーを食べるナミが可愛くて、嬉しさもあいまってエヘヘと笑えば頬をつねられてしまった。
この世界で私にできることは無いに等しいけれど
船旅のティータイムの間は私がみんなを笑顔にしてあげたい。
そう思いながら、少し硬めのクッキーをかじった。