トリップ先は海賊船
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サンジにキッチンへ案内をしてもらいながらこれは失敗出来ないなと思えば思うほど心拍数が上がってくる。
お菓子を気に入っていただけたら、なんとかこの世界で過ごせる…。
キッチンで今ある材料や道具の場所など説明を聞き終え、いざ作るために動こうとすると手が震えてきてしまった。
早く作業を進めなければいけないのに、気持ちはお菓子を作れる精神状態じゃないようだ。
「秋ちゃん、どうしたんだ?分からないことがあれば聞いてくれていいんだぜ?」
「…その、震えが止まらなくて…これ失敗したら、私ここ出なきゃいけないわけで…怖くて…味に自信はあるんです…!……いつも通りに作れなかったらどうしよぅ………」
焦り不安から涙が滲んできた
震えを止める為に自分の手に力を入れても止まってくれない
「秋ちゃん」という声と共に
力んでいた手にサンジの手が添えられた。
「ちょっと重く考えすぎだ。あいつらはそんな薄情な奴らじゃねえ、話し聞いてたろ?甘いもの好きなチョッパーがはしゃぐほど君の作ったスイーツが食べたいだけだ。」
「でも…!」
「泣くほど不安なのは俺には伝わったさ、大丈夫!もし失敗してルフィが船降りろって言ったら俺が説得するよ。
だからさ、味に自信があるなら是非ともうちの船員たちにクソ美味えスイーツ食わせてやってくれねえかな…?
君の事情をさっきナミさんから聞いて、俺も君が作る料理が気になってるんだ。
一料理人として別世界のスイーツの味を俺に教えてくれないかい?」
サンジは真っ直ぐ私を見て優しい言葉をかけてくれた、でもこれは
私をなぐさめてくれているはずの彼の言葉はなぐさめよりも、別世界の味を知りたい教えてほしいという方が強い気がした。
だってそう語る彼の目は、私が通ってた学校の同士達と同じだったから。
自分の好きなことに真っ直ぐな人の目だったから。
応えたい。
気づけば手の震えは治っていて、いつも通りに食材と向き合える私がそこにいた。
「…もう大丈夫そうだな…?足りない物があればすぐ相談してくれ、できる限りの対応はこなしてみせるぜ。」
「はいっ!!…絶対美味しく作ってみせます!!」
ありがたいことに調理器具はとても充実していたのでパウンドケーキを作ることにした。
卵がないのが痛かったけど海の上じゃそんなもんだろうし、現代にはそれに対応したレシピなんて山ほどあったので困りはしない。
材料を眺めていて目に入ったオレンジ。
甘く煮詰めて一緒に焼き上げたらオシャレだな、と思い立ってすぐさまオレンジの下処理を始める。
指を折りながら何人分作るか確認をしたが、私の記憶違いじゃなければこの船の人はよく食べる。とにかく食べてた気がする。
そうなると人数分の数値なんて多分当てにならない、できるだけ多く作ろう。
考えながら右往左往作業する私をサンジは口を出さずじっと見ていた。
作業工程自体はそんなに珍しくはないと思うけど、人が作業するのを見るのは私も好きだから同じかも?と思うと納得できた。
「すみません、オーブンの余熱をしたいんですけど設定あってるか見てもらえますか?」
「はいよ、…180度になってるけど、うちのオーブン火力強い方だから焦げるかもしんねえ。普段肉ばっか焼く様なオーブンだから。」
「なるほど、んーーー…170度に下げてください、アドバイスありがとうございます。」
「一生懸命作ってんだ、焦がすわけにはいかねえ。」
この人は優しいなぁ。
今日あったばかりの見知らぬ私を一人の料理人として扱ってくれてる。
「ありがとうございます」ともう一度声をかけて生地の作業に取り掛かり、順当に作業を終えていった。
焼き始めて甘い香りが充満してくるとルフィやチョッパーがまだかまだかとキッチンのドアを開けたり叩いたりして
そのたびにサンジが
「騒がしいんだよっ!!!じっとして待てねえのかっ!!!」
と怒鳴ってくれたが、楽しみにしている様子が伺えて私は嬉しかった。
焼き上がって粗熱が取れたのを確認してお皿に盛り付けを始めた。
「サンジ…さん、とりあえず2切れずつで皆さん足りますか?
いっぱい焼いたのでおかわりはあるんですが、どうしたら良いでしょう?」
「最初はそれくらいで大丈夫だ。
あとは大皿何枚かに乗せておけばおかわりしたいやつはそこからとるだろうから、大皿用意するか。
ちょっと待っててくれ。」
「包み紙とかあれば包みますよ?」
「いや、多分この量は数分でなくなるからそんな丁寧な作業をしても君の手間が無駄になっちまう。」
「えっ…数分で…?」
大皿に切り分けたパウンドケーキと、保存用にと思い
切っていない一本まんまのケーキを手際よく移しながらサンジは
「うちの船員はよく食うぞー、船長は特にな。」
と言った。
もっと多く作ってもよかったのかぁ。と思ったけど、とりあえずは完成したことを喜ぼう。
さっき味見したけどいつも通りの美味しいパウンドケーキになった。
なんならオレンジの甘煮がすごく美味しくできたからいつもより美味しい気がする。
食材が良かったんだろうな。
「皆さんに声かけてきます!」
”喜んでもらえたらいいな“
この気持ちはどの世界でも変わらないみたい。