死に損ないの献身
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倉庫で二人大人しく待っていると李が倉庫に入ってきた。
「李さん!」
心配していた李に会えたことが嬉しいマコト。
一緒に座っている女を見つけ、
「なんや、お前もおったんか。丁度ええ、こいつを先に見とけ」
と、茶封筒を渡される。と同時に、李はマコトから女を引き剥がすように腕を引っ張り立ち上がらせる。そのままマコトから距離を取るように離される。
「ワシがもう一度ここ来るまでにそれ見とけ。分かったな?」
マコトに聞こえないよう小声で話す李に訳が分からず戸惑いながらも頷く。
「ずっとここにおって何にも飲んでないやろ、飲みもん買うてくるわ」
「え、でも…」
「心配せんでもすぐ戻る」
マコトに向かってそういうと李は再び姿を消した。
李が来る前同様静かになる倉庫内。女が封筒から出したものを扱う音が響く。
「…………」
女は李が何をしたいのか粗方見当がついた。だがそれで本当にいいのか、上手くいくのか、何かが動き出すんじゃないかという直感が働き、心に暗雲が立ち込める。
「……それ、なんだったの?」
マコトに話しかけられる。李はマコトには気付かれないようにしていた。この質問に女は答えるのを躊躇った。
「……私に答えられないようなものなんだ」
「あ、違うの!私にもよく分からなくて……」
落ち込み始めるマコトに慌てて返す女。
マコトの近くへ戻ろうと動き出した時、扉が開いた。
あ、と顔を上げるマコト。李が帰って来たと思っていたら、
「……俺や。入るで」
と現れたのは真島だった。
女が中途半端な姿勢で静止しているのを変な目で見ていると手に持っている封筒に気付く。
「ん?なんやそれ」
「李さんが先に来て渡していったの」
女が答える。
「その肝心の李はどこや?」
「今、飲み物買いに行ってて……すぐ戻るって」
今度はマコトが答える。
女は封筒を真島に差し出す。
「きっとあなたに見て欲しくて持って来たものよ」
真島は埃まみれのソファに腰掛けると、封筒の中身を漁った。紙を扱う乾いた音が倉庫内に響く。
「どういうこっちゃ?」
「何が入ってたの?」
同じ事をマコトが真島に聞く。真島は意図に気付いていないのかそのまま答える。
「若い女の写真や。同じ女が何枚も隠し撮りされとる」
「李さんがそんなものを?なんで?」
二人の疑問はもっともだった。李の行動を鑑みるにマコトに余計な情報を入れたくないのだろう事を考えると女は余計な事は言えなかった。
「よお、早速見とるな?」
会話に夢中になっていた三人は音もなく入って来た李に気付かなかった。手にはビニール袋を持っている。
「よう撮れてるやろ」
「李、なんなんやこの写真?」
「まあ待てや、言われんでもこれからじっくり説明したる」
喋りながらマコトの前に行き、蓋の開いたドリンクをマコトの手に握らせる。
「さ、飲めや」
「ありがと、李さん」
ドリンクをしっかり握ったマコトはお礼を言い一口飲む。それをしっかり見届けた李は、
「お前らの分もあるで」
と、こちらにもドリンクを手渡して来た。
女は少々躊躇いがちに受け取り、真島はもらってすぐ傍に置いた。
「なんや考えがあるいうてたんはこの写真のことか?だいたいこの女、誰や?」
「結婚詐欺の常習犯や。それだけやない、こいつに貢いどった男が何人か不審死しとる。多分、絞るだけ絞って縁切りがわりに殺ったんやろ。……けどこの外道女のええとこは年頃と背格好やな。マコトによう似とる」
マコトから目を離さず情報を言ってのける李に女の直感は確信に変わる。
「それがどないした?」
真島が聞くと同時にマコトのドリンクを持つ手がゆっくりと下り、持っていたドリンクを地面に落とすと同時に意識を失ってソファに倒れ込む。それをしっかり支えながら横たわらせる李。
「よう効く薬やで、ほんま」
「李!お前何を……!?」
「こっから先はこの娘に聞かせる話とちゃうんでな。少し眠らしとく」
あ?と、事態を把握するのに手間取っている真島。女は薬が効き眠っているマコトの近くに寄り添う。
「お前も殺し屋にしちゃニブいな。その写真の女はな……マコトの身代わりや、そこの女は気付いとったようやがな」
「身代わり……?」
事が事な為真島の脳が理解を拒んでいる。
「ええか?殺しの依頼したときその依頼主は何がほしい?」
「マトを殺したっちゅう結果や」
「せや、結果や。殺した結果っちゅうのは死体。死体があれば雇い主は納得する。せやからその写真の女には……マコトの身代わりに死体んなってもらうんや」
「な、なんやて……?」
「ワシとお前で殺る」
李は持って来た茶色の紙袋を手に取る。
「死体にこの服着せてな」
紙袋からほぐし快館の女性用制服を取り出す。
「死体見つけたサツは身元確認すんのにワシんとこ来るやろ。そしたらワシはこう答える、『間違いありません、その死体はうちの従業員です』……いうてな」
「アホか、そんなんサツが調べたらすぐバレるやろが!」
「大丈夫や、女殺した後はその顔を……」
開いた手のひらを上に向けゆっくり握る李。その動作は潰す事を意味する。
「誰かわからんようにしてしまえばええ。指紋も薬で焼いたるんや」
李の提案に女は黙って俯く。その瞳は揺れている。
「お前は、なんなんや一体……ほんとのこと言えや。お前は……何モンや。ただの鍼師とちゃうやろ?」
李は黙っている。
「なんとか言わんかい!」
「……ワシも元はあんたらと同じ……殺し屋や。」
なんやと……?呆気に取られる真島。
「大陸系の組織に雇われとった。最後に仕事したんは……半年前や。」
「半年前……?たしか、あんたがこの娘拾ったんもその頃や言うてたな」
「よう覚えとったの。フッ、せやけど考えてみい。組織に監禁されとる女がおったとして、どないしてワシがそれ拾えんのや。道端にでも落ちてるんか?半年前、ワシは組織に雇われて韓国系の連中を襲撃した……女のシノギめぐってごたついとったんや。そん時までにこっちも何人かやられとった。倉庫におったんは二人。そいつら始末してみるとそこに半裸の女がぎょうさん監禁されとってな……鍵あけた途端、みんな我先に逃げよった。そん中にそこの女もおったんや。」
なんやと……!真島が女を見る。過去に何かあると思っていたがまさかここで繋がるとは思ってもみない。
「けどそん中に……ひとりだけ身動きできん娘がおった」
「それが……」
「ああ……マコトや。この娘は、見えん目でワシの手探してな……ぎゅっと握って離さんかった。泣きながら『ありがとう』繰り返して……ワシは、その小っさい手……どうにも離すことができんかった」
「あんたは……それ以来の親代わりっちゅうわけか。……それで逃げたお前は、それが心残りやったんやな。せやからそんなにあの娘に執着するっちゅうことか。」
女は眠っているマコトの頭を撫でながら頷く事で返事をする。
「ああ。そやろな、さやけどワシも昔は……ほんまの娘持つ親やった」
あ?と、聞き返す真島。
「小っさいときから病気がちでな。薬の副作用で最期は……よう目が見えんようなった。そのしぐさが……あんときのマコトと重なり合うてもうたんや」
李の親としての覚悟をみる二人。
「真島。ワシはもう自分より先に……娘逝かせるわけにいかんのや。娘守るためやったら……赤の他人なんぞいくらでもぶっ殺したる。それがええことやないこともわかってる。せやけど……もう他に手はないんや!」
吠える李。
「お前にも手ぇ貸してもらうで、真島。お前の雇い主にマコト殺した報告してもらわなあかん……女にはそれまでの間マコト連れて逃げ回ってもらう」
「チッ……ドアホ」
あ?李が聞き返す。
「極道ナメすぎや。……そない小細工すぐバレる」
「せやったら……ほかにどんな手があるっちゅうねん!?言うてみい!!」
激昂する李。マコトを守りたい一心での行動だと女は理解している。女にもこれ以上の最善策は浮かばなかった。
「……話はしまいや。俺は、お前の計画には乗らん」
杜撰な計画だと指摘する真島。現時点で他に方法がないのは真島自身も分かっているがあの佐川を騙すには不安材料が多すぎる。何より真島の流儀として関係ない人間を巻き込みたくない。ここから去るために振り返りドアへと足を進めようとした真島。
「……そうやって、また逃げんのか。ワシには分かるでぇ?……お前が片目失くしてもたんも、そないして逃げてきたからやろ」
足を進めようとした真島を追い越し扉の前に立ち塞がる李。
「……なんやと?」
分かりやすい挑発にのる真島。
これまで真島の過去を聞いていた女も流石に黙っていられなかった。
「李さん、やめて!」
女の声は真島を煽り火をつける事を優先した李には届かなかった。
「なんやかや理由つけて、おのれの手ぇ汚さんとずっと自分を正当化してきたんとちゃうか?けど、お前も所詮、元は極道やったんや。一度『黒』に染まったモンは……どこまで行っても『黒』。せやったら……腹ぁ決めて地獄落ちたらんかい!!」
「お前が、俺の何を知っとるんや、ボケ……!」
完全に真島の中の別の火を焚きつけた李。
「……最後にもういっぺん聞いとく。ワシの話に乗る気は……ほんまにないんやな?」
「ないな……!」
女にはあったが、真島の言う通り成功する確率は低い。あの佐川相手に首輪の繋がった二人が反発しあっても向かう先はお互い地獄だ。どちらを向いても地獄ならば真島についていきたい。そう思わせる何かがあった。
「そうか。そしたら……『黒』に染まったモンの流儀、教えたるわ……」
構える李に真島も応えて構え始める。
「どのみちワシの計画知ったからには、生きてここから出すわけにはいかん……死ねや、真島ぁあ!!」
腕っぷしに自信があるもの同士、それは派手に暴れまくった。お互いの血飛沫が壁や床に飛び散り辺りは悲惨な状態になった。女はマコトが怪我をしないよう庇うのに精一杯でそちらを見ることすら出来ない。骨と骨がぶつかる音、痛みに耐える息遣い、物が破壊されたような激しい衝撃、咆哮に咆哮が重なり戦いが激化していく。それらを背中で受け止めていた。
最後に大きな物が倒れる音がした。二人の荒い息が続き、決着がついた事が分かった。
「ま、待てや真島……!ほんまに身代わり立てるしか手がないんや、この先マコトを守りきるには……マコトの死体が必要や!」
李が声を荒げる。どうやら大きな音は真島が李を打ち倒した音だったようだ。
マコトの身代わりを用事しなければマコトがまた狙われる事、女も真島自身も狙われることを訴える李に真島は一人で向かってくるものを全員ぶっ殺すと説得を跳ね返す。李の黒の流儀に対し真島自身の流儀を通すと宣言。写真を破り紙袋へ入れ、その紙袋を持って出ていってしまう。悲しげな顔でそれを見届けるしかなかった。
「李さん!」
心配していた李に会えたことが嬉しいマコト。
一緒に座っている女を見つけ、
「なんや、お前もおったんか。丁度ええ、こいつを先に見とけ」
と、茶封筒を渡される。と同時に、李はマコトから女を引き剥がすように腕を引っ張り立ち上がらせる。そのままマコトから距離を取るように離される。
「ワシがもう一度ここ来るまでにそれ見とけ。分かったな?」
マコトに聞こえないよう小声で話す李に訳が分からず戸惑いながらも頷く。
「ずっとここにおって何にも飲んでないやろ、飲みもん買うてくるわ」
「え、でも…」
「心配せんでもすぐ戻る」
マコトに向かってそういうと李は再び姿を消した。
李が来る前同様静かになる倉庫内。女が封筒から出したものを扱う音が響く。
「…………」
女は李が何をしたいのか粗方見当がついた。だがそれで本当にいいのか、上手くいくのか、何かが動き出すんじゃないかという直感が働き、心に暗雲が立ち込める。
「……それ、なんだったの?」
マコトに話しかけられる。李はマコトには気付かれないようにしていた。この質問に女は答えるのを躊躇った。
「……私に答えられないようなものなんだ」
「あ、違うの!私にもよく分からなくて……」
落ち込み始めるマコトに慌てて返す女。
マコトの近くへ戻ろうと動き出した時、扉が開いた。
あ、と顔を上げるマコト。李が帰って来たと思っていたら、
「……俺や。入るで」
と現れたのは真島だった。
女が中途半端な姿勢で静止しているのを変な目で見ていると手に持っている封筒に気付く。
「ん?なんやそれ」
「李さんが先に来て渡していったの」
女が答える。
「その肝心の李はどこや?」
「今、飲み物買いに行ってて……すぐ戻るって」
今度はマコトが答える。
女は封筒を真島に差し出す。
「きっとあなたに見て欲しくて持って来たものよ」
真島は埃まみれのソファに腰掛けると、封筒の中身を漁った。紙を扱う乾いた音が倉庫内に響く。
「どういうこっちゃ?」
「何が入ってたの?」
同じ事をマコトが真島に聞く。真島は意図に気付いていないのかそのまま答える。
「若い女の写真や。同じ女が何枚も隠し撮りされとる」
「李さんがそんなものを?なんで?」
二人の疑問はもっともだった。李の行動を鑑みるにマコトに余計な情報を入れたくないのだろう事を考えると女は余計な事は言えなかった。
「よお、早速見とるな?」
会話に夢中になっていた三人は音もなく入って来た李に気付かなかった。手にはビニール袋を持っている。
「よう撮れてるやろ」
「李、なんなんやこの写真?」
「まあ待てや、言われんでもこれからじっくり説明したる」
喋りながらマコトの前に行き、蓋の開いたドリンクをマコトの手に握らせる。
「さ、飲めや」
「ありがと、李さん」
ドリンクをしっかり握ったマコトはお礼を言い一口飲む。それをしっかり見届けた李は、
「お前らの分もあるで」
と、こちらにもドリンクを手渡して来た。
女は少々躊躇いがちに受け取り、真島はもらってすぐ傍に置いた。
「なんや考えがあるいうてたんはこの写真のことか?だいたいこの女、誰や?」
「結婚詐欺の常習犯や。それだけやない、こいつに貢いどった男が何人か不審死しとる。多分、絞るだけ絞って縁切りがわりに殺ったんやろ。……けどこの外道女のええとこは年頃と背格好やな。マコトによう似とる」
マコトから目を離さず情報を言ってのける李に女の直感は確信に変わる。
「それがどないした?」
真島が聞くと同時にマコトのドリンクを持つ手がゆっくりと下り、持っていたドリンクを地面に落とすと同時に意識を失ってソファに倒れ込む。それをしっかり支えながら横たわらせる李。
「よう効く薬やで、ほんま」
「李!お前何を……!?」
「こっから先はこの娘に聞かせる話とちゃうんでな。少し眠らしとく」
あ?と、事態を把握するのに手間取っている真島。女は薬が効き眠っているマコトの近くに寄り添う。
「お前も殺し屋にしちゃニブいな。その写真の女はな……マコトの身代わりや、そこの女は気付いとったようやがな」
「身代わり……?」
事が事な為真島の脳が理解を拒んでいる。
「ええか?殺しの依頼したときその依頼主は何がほしい?」
「マトを殺したっちゅう結果や」
「せや、結果や。殺した結果っちゅうのは死体。死体があれば雇い主は納得する。せやからその写真の女には……マコトの身代わりに死体んなってもらうんや」
「な、なんやて……?」
「ワシとお前で殺る」
李は持って来た茶色の紙袋を手に取る。
「死体にこの服着せてな」
紙袋からほぐし快館の女性用制服を取り出す。
「死体見つけたサツは身元確認すんのにワシんとこ来るやろ。そしたらワシはこう答える、『間違いありません、その死体はうちの従業員です』……いうてな」
「アホか、そんなんサツが調べたらすぐバレるやろが!」
「大丈夫や、女殺した後はその顔を……」
開いた手のひらを上に向けゆっくり握る李。その動作は潰す事を意味する。
「誰かわからんようにしてしまえばええ。指紋も薬で焼いたるんや」
李の提案に女は黙って俯く。その瞳は揺れている。
「お前は、なんなんや一体……ほんとのこと言えや。お前は……何モンや。ただの鍼師とちゃうやろ?」
李は黙っている。
「なんとか言わんかい!」
「……ワシも元はあんたらと同じ……殺し屋や。」
なんやと……?呆気に取られる真島。
「大陸系の組織に雇われとった。最後に仕事したんは……半年前や。」
「半年前……?たしか、あんたがこの娘拾ったんもその頃や言うてたな」
「よう覚えとったの。フッ、せやけど考えてみい。組織に監禁されとる女がおったとして、どないしてワシがそれ拾えんのや。道端にでも落ちてるんか?半年前、ワシは組織に雇われて韓国系の連中を襲撃した……女のシノギめぐってごたついとったんや。そん時までにこっちも何人かやられとった。倉庫におったんは二人。そいつら始末してみるとそこに半裸の女がぎょうさん監禁されとってな……鍵あけた途端、みんな我先に逃げよった。そん中にそこの女もおったんや。」
なんやと……!真島が女を見る。過去に何かあると思っていたがまさかここで繋がるとは思ってもみない。
「けどそん中に……ひとりだけ身動きできん娘がおった」
「それが……」
「ああ……マコトや。この娘は、見えん目でワシの手探してな……ぎゅっと握って離さんかった。泣きながら『ありがとう』繰り返して……ワシは、その小っさい手……どうにも離すことができんかった」
「あんたは……それ以来の親代わりっちゅうわけか。……それで逃げたお前は、それが心残りやったんやな。せやからそんなにあの娘に執着するっちゅうことか。」
女は眠っているマコトの頭を撫でながら頷く事で返事をする。
「ああ。そやろな、さやけどワシも昔は……ほんまの娘持つ親やった」
あ?と、聞き返す真島。
「小っさいときから病気がちでな。薬の副作用で最期は……よう目が見えんようなった。そのしぐさが……あんときのマコトと重なり合うてもうたんや」
李の親としての覚悟をみる二人。
「真島。ワシはもう自分より先に……娘逝かせるわけにいかんのや。娘守るためやったら……赤の他人なんぞいくらでもぶっ殺したる。それがええことやないこともわかってる。せやけど……もう他に手はないんや!」
吠える李。
「お前にも手ぇ貸してもらうで、真島。お前の雇い主にマコト殺した報告してもらわなあかん……女にはそれまでの間マコト連れて逃げ回ってもらう」
「チッ……ドアホ」
あ?李が聞き返す。
「極道ナメすぎや。……そない小細工すぐバレる」
「せやったら……ほかにどんな手があるっちゅうねん!?言うてみい!!」
激昂する李。マコトを守りたい一心での行動だと女は理解している。女にもこれ以上の最善策は浮かばなかった。
「……話はしまいや。俺は、お前の計画には乗らん」
杜撰な計画だと指摘する真島。現時点で他に方法がないのは真島自身も分かっているがあの佐川を騙すには不安材料が多すぎる。何より真島の流儀として関係ない人間を巻き込みたくない。ここから去るために振り返りドアへと足を進めようとした真島。
「……そうやって、また逃げんのか。ワシには分かるでぇ?……お前が片目失くしてもたんも、そないして逃げてきたからやろ」
足を進めようとした真島を追い越し扉の前に立ち塞がる李。
「……なんやと?」
分かりやすい挑発にのる真島。
これまで真島の過去を聞いていた女も流石に黙っていられなかった。
「李さん、やめて!」
女の声は真島を煽り火をつける事を優先した李には届かなかった。
「なんやかや理由つけて、おのれの手ぇ汚さんとずっと自分を正当化してきたんとちゃうか?けど、お前も所詮、元は極道やったんや。一度『黒』に染まったモンは……どこまで行っても『黒』。せやったら……腹ぁ決めて地獄落ちたらんかい!!」
「お前が、俺の何を知っとるんや、ボケ……!」
完全に真島の中の別の火を焚きつけた李。
「……最後にもういっぺん聞いとく。ワシの話に乗る気は……ほんまにないんやな?」
「ないな……!」
女にはあったが、真島の言う通り成功する確率は低い。あの佐川相手に首輪の繋がった二人が反発しあっても向かう先はお互い地獄だ。どちらを向いても地獄ならば真島についていきたい。そう思わせる何かがあった。
「そうか。そしたら……『黒』に染まったモンの流儀、教えたるわ……」
構える李に真島も応えて構え始める。
「どのみちワシの計画知ったからには、生きてここから出すわけにはいかん……死ねや、真島ぁあ!!」
腕っぷしに自信があるもの同士、それは派手に暴れまくった。お互いの血飛沫が壁や床に飛び散り辺りは悲惨な状態になった。女はマコトが怪我をしないよう庇うのに精一杯でそちらを見ることすら出来ない。骨と骨がぶつかる音、痛みに耐える息遣い、物が破壊されたような激しい衝撃、咆哮に咆哮が重なり戦いが激化していく。それらを背中で受け止めていた。
最後に大きな物が倒れる音がした。二人の荒い息が続き、決着がついた事が分かった。
「ま、待てや真島……!ほんまに身代わり立てるしか手がないんや、この先マコトを守りきるには……マコトの死体が必要や!」
李が声を荒げる。どうやら大きな音は真島が李を打ち倒した音だったようだ。
マコトの身代わりを用事しなければマコトがまた狙われる事、女も真島自身も狙われることを訴える李に真島は一人で向かってくるものを全員ぶっ殺すと説得を跳ね返す。李の黒の流儀に対し真島自身の流儀を通すと宣言。写真を破り紙袋へ入れ、その紙袋を持って出ていってしまう。悲しげな顔でそれを見届けるしかなかった。