その男、狂犬につき
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3人は人気の少ない空き駐車場へやってきてきた。そこへ着くと、先を行く男が後を追う2人の方へ振り返る。
「マスターを何処へやった?」
「なんやこっちが悪もんみたいな口振りやのう……ちょっと外してもろてるだけや」
ニヤリと笑う真島の言葉に男の視線は椎名へ移る。それに頷き返す椎名は力強く男を見つめる。
その視線を受け止めると、男の表情が少し和らぐ。
「……聞きたいのは王史郎の場所か」
息を吐くように漏らした言葉。
男の口から肝心の目的である男の名前が出る。真島と椎名の意識が向いたのが分かった男の雰囲気が一変する。
「異名のある極道相手にやれるか分からんが……男なら命張らなきゃならねぇ時があらぁな!」
と、言うと上着を脱ぐ男。男の背中には極道の格好をした蛙の刺青。覚悟を決めて立ち向かうつもりのようだ。それに応えるように真島も服に手をかける。
「待て!回避出来るならそれに越した事はないだろ、話せば分かる筈だ!」
「これだからサツは甘くていけねえ……」
引き止める椎名に対し、吐き捨てるように言う男は首を振ると2人を睨み付け、言葉で真島を焚き付ける。
「男ならその手、下げちゃならねぇ……だろ?」
男の言葉に鼻を鳴らす真島。ネクタイを取るとジャケットごと上着を脱ぎ捨て、男同様上裸になる。
「嫌いやないで……せやけど世の中そないに甘ないわ!」
「待てって!」
椎名の声は届かず、構えた2人は同時に動き出す。殴りかかる真島の腕を掴んだ男が真島を背負い投げる。勢いよく宙に投げられた真島は宙返りの体勢を取ると無事着地。ニヤリと笑うと掴まれた腕と反対の腕を振るい、顔面に一発喰らわせる。
顔を庇い真島の腕を離す男。胴ががら空きになったところを鳩尾に一発。まともに喰らった男は腹を押さえよろめき、仰向けに倒れる。
息も上がっていない真島。余裕の表情だ。
「ハァ、ハァ……やっぱり、付け焼き刃じゃダメだな……」
と呟く男。真島の上着を手に寝転がる男に近寄る椎名。顔を合わせるように蹲み込むと、
「勝てないと分かっててなんで……」
今だに息を切らす男に問い掛ける椎名。暗闇の空を見上げる男は椎名の顔を見つめる。
「どうにも、お前さんに似た女の顔がチラついてな……あいつも刑事と結婚したんだと」
そう言うと空の一点を見つめる男。その瞳の中にはきっと女の顔が浮かんでいるのだろう。真島も男の元にやってくると、椎名に上着を返してもらい、着替え始める。
「その女に一矢報いたかったんか?」
「ああ……俺だって本当は警察になる為に柔道覚えたんだってな……」
真島の言葉に答える男はゆっくりと瞬きをすると、重たい口を開いた。
「……蛇目の持ってる工務店の倉庫。そこに奴はいる」
男の情報に顔を合わせる真島と椎名。最後の手掛かりだ。男はそれきり口を開かなくなった。
「服、置いとくぞ。後マスターに迎えにくるよう伝えとく……その女、よっぽどいい女だったんだな」
返事を返さない男に立ち上がる椎名。着替え終わった真島と2人、その場を後にする。
「……天国の母ちゃんも見てるよ、きっと」
椎名の呟きは男に聞こえる事はなかった。
──────
「縁っちゅうのは中々切れへんもんやのう……俺も蛇に絡め取られとるのかもしれん」
このまま蛇目の倉庫に行こうかという道中話す2人。
先程見た、真島の体に刻まれている白蛇を思い返す椎名。背中の大きな般若と共に腕に巻きつくように刻まれたそれ。加えて眼帯にも白蛇が体をうねらせている。
それに由来するかのように追う男の名前は蛇目。
真島の蛇に絡め取られている、とは言い得て妙だった。
「因縁ってやつか……真島にもそういう奴はいるのか?」
「……桐生ちゃんと渡世の兄弟、かのう」
自身の過去を話始める真島。どちらの男も警察内で一時期聞いた名前であった。桐生一馬と冴島大河。どちらも殺人罪で服役、冴島に関しては死刑宣告を受け執行待ちだ。極道の親殺しと18人殺しというどちらの伝説にも縁がある真島は1人、桐生の出所を見届け、密かに18人殺しの真相を知る今、冴島との対峙を静かに待ち受けているのだった。
「兄弟と殴り合うて殺されるんも悪ない思うとったが、こないおもろい事も早々ないやろ……生きてりゃなんかしら起こるもんやな」
しんみりとする空気。椎名の一回りは生きている真島の人生は波乱だらけだった。
「……そのままカタギに戻る気はないのか?真島建設一本でやってれば暴対法も、」
「分かっとるやろ、そういう問題やない」
相容れない関係に一歩踏み出そうとした椎名の心を見透かす真島。椎名の表情が暗くなる。まるで一世一代のプロポーズを断われた男のような気まずさと落ち込みを見せる椎名に、真島は敢えて触れない。
「まだ終わりちゃうで、気ぃ引き締めな」
不意に椎名が立ち止まる。それを振り返り眺める真島に不安そうな顔を返す椎名。
「……もし冴島が帰ってきたとして、死なないよな……?」
最早事件の事より真島を気にする椎名に確信した真島。椎名との別れを想像し、少しの感傷に浸る。椎名の心の内は真島にも解る。解るようになってしまった。離別を悲しむ以外の別な感情に感化されている。
「……」
何も言わない真島の心境もまた椎名には感じ取れた。
立ち止まっている真島に手を伸ばす椎名。
黙ってそれを受け入れる真島。
真島の顔をなぞるその手を目で追うと、不意に椎名の顔が近付く。それに気が付いていた真島は椎名の口に手袋をした手で蓋をする。
「これが最後の一線や……ほんまにええんやな?」
手袋の手で抑えられた目に見える一線。椎名の心は決まっていた。何かを訴えるかのような目線を受ける真島は溜息を漏らし、抑えていた手を退けると両手で椎名の顔を包み込み、静かに口付ける。
遂に心の一線を超えた2人。事件が終わればこの逢瀬がきっと2人の最後になる、そんな予感もまたしていた。
「マスターを何処へやった?」
「なんやこっちが悪もんみたいな口振りやのう……ちょっと外してもろてるだけや」
ニヤリと笑う真島の言葉に男の視線は椎名へ移る。それに頷き返す椎名は力強く男を見つめる。
その視線を受け止めると、男の表情が少し和らぐ。
「……聞きたいのは王史郎の場所か」
息を吐くように漏らした言葉。
男の口から肝心の目的である男の名前が出る。真島と椎名の意識が向いたのが分かった男の雰囲気が一変する。
「異名のある極道相手にやれるか分からんが……男なら命張らなきゃならねぇ時があらぁな!」
と、言うと上着を脱ぐ男。男の背中には極道の格好をした蛙の刺青。覚悟を決めて立ち向かうつもりのようだ。それに応えるように真島も服に手をかける。
「待て!回避出来るならそれに越した事はないだろ、話せば分かる筈だ!」
「これだからサツは甘くていけねえ……」
引き止める椎名に対し、吐き捨てるように言う男は首を振ると2人を睨み付け、言葉で真島を焚き付ける。
「男ならその手、下げちゃならねぇ……だろ?」
男の言葉に鼻を鳴らす真島。ネクタイを取るとジャケットごと上着を脱ぎ捨て、男同様上裸になる。
「嫌いやないで……せやけど世の中そないに甘ないわ!」
「待てって!」
椎名の声は届かず、構えた2人は同時に動き出す。殴りかかる真島の腕を掴んだ男が真島を背負い投げる。勢いよく宙に投げられた真島は宙返りの体勢を取ると無事着地。ニヤリと笑うと掴まれた腕と反対の腕を振るい、顔面に一発喰らわせる。
顔を庇い真島の腕を離す男。胴ががら空きになったところを鳩尾に一発。まともに喰らった男は腹を押さえよろめき、仰向けに倒れる。
息も上がっていない真島。余裕の表情だ。
「ハァ、ハァ……やっぱり、付け焼き刃じゃダメだな……」
と呟く男。真島の上着を手に寝転がる男に近寄る椎名。顔を合わせるように蹲み込むと、
「勝てないと分かっててなんで……」
今だに息を切らす男に問い掛ける椎名。暗闇の空を見上げる男は椎名の顔を見つめる。
「どうにも、お前さんに似た女の顔がチラついてな……あいつも刑事と結婚したんだと」
そう言うと空の一点を見つめる男。その瞳の中にはきっと女の顔が浮かんでいるのだろう。真島も男の元にやってくると、椎名に上着を返してもらい、着替え始める。
「その女に一矢報いたかったんか?」
「ああ……俺だって本当は警察になる為に柔道覚えたんだってな……」
真島の言葉に答える男はゆっくりと瞬きをすると、重たい口を開いた。
「……蛇目の持ってる工務店の倉庫。そこに奴はいる」
男の情報に顔を合わせる真島と椎名。最後の手掛かりだ。男はそれきり口を開かなくなった。
「服、置いとくぞ。後マスターに迎えにくるよう伝えとく……その女、よっぽどいい女だったんだな」
返事を返さない男に立ち上がる椎名。着替え終わった真島と2人、その場を後にする。
「……天国の母ちゃんも見てるよ、きっと」
椎名の呟きは男に聞こえる事はなかった。
──────
「縁っちゅうのは中々切れへんもんやのう……俺も蛇に絡め取られとるのかもしれん」
このまま蛇目の倉庫に行こうかという道中話す2人。
先程見た、真島の体に刻まれている白蛇を思い返す椎名。背中の大きな般若と共に腕に巻きつくように刻まれたそれ。加えて眼帯にも白蛇が体をうねらせている。
それに由来するかのように追う男の名前は蛇目。
真島の蛇に絡め取られている、とは言い得て妙だった。
「因縁ってやつか……真島にもそういう奴はいるのか?」
「……桐生ちゃんと渡世の兄弟、かのう」
自身の過去を話始める真島。どちらの男も警察内で一時期聞いた名前であった。桐生一馬と冴島大河。どちらも殺人罪で服役、冴島に関しては死刑宣告を受け執行待ちだ。極道の親殺しと18人殺しというどちらの伝説にも縁がある真島は1人、桐生の出所を見届け、密かに18人殺しの真相を知る今、冴島との対峙を静かに待ち受けているのだった。
「兄弟と殴り合うて殺されるんも悪ない思うとったが、こないおもろい事も早々ないやろ……生きてりゃなんかしら起こるもんやな」
しんみりとする空気。椎名の一回りは生きている真島の人生は波乱だらけだった。
「……そのままカタギに戻る気はないのか?真島建設一本でやってれば暴対法も、」
「分かっとるやろ、そういう問題やない」
相容れない関係に一歩踏み出そうとした椎名の心を見透かす真島。椎名の表情が暗くなる。まるで一世一代のプロポーズを断われた男のような気まずさと落ち込みを見せる椎名に、真島は敢えて触れない。
「まだ終わりちゃうで、気ぃ引き締めな」
不意に椎名が立ち止まる。それを振り返り眺める真島に不安そうな顔を返す椎名。
「……もし冴島が帰ってきたとして、死なないよな……?」
最早事件の事より真島を気にする椎名に確信した真島。椎名との別れを想像し、少しの感傷に浸る。椎名の心の内は真島にも解る。解るようになってしまった。離別を悲しむ以外の別な感情に感化されている。
「……」
何も言わない真島の心境もまた椎名には感じ取れた。
立ち止まっている真島に手を伸ばす椎名。
黙ってそれを受け入れる真島。
真島の顔をなぞるその手を目で追うと、不意に椎名の顔が近付く。それに気が付いていた真島は椎名の口に手袋をした手で蓋をする。
「これが最後の一線や……ほんまにええんやな?」
手袋の手で抑えられた目に見える一線。椎名の心は決まっていた。何かを訴えるかのような目線を受ける真島は溜息を漏らし、抑えていた手を退けると両手で椎名の顔を包み込み、静かに口付ける。
遂に心の一線を超えた2人。事件が終わればこの逢瀬がきっと2人の最後になる、そんな予感もまたしていた。