その男、狂犬につき
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今宵は一夜限りのゴロ美復活祭が行われる。
既にゴロ美の格好に着替えている真島は自身のメイクを終えると、椎名のメイクに取り掛かる。
「俺上手すぎひんか?」
あまりの仕上がりに一人称も真島本来に戻る。派手なゴロ美とは逆になるように作り上げたそれ。
自睫毛に長さを足すための付けまつ毛を敢えて少し下気味に、ドレスに合わせたブラウン系のアイシャドウを瞼に乗せ、跳ね上げた猫目アイラインに元々の形を生かした眉毛。ハイライトを随所に入れ、チークも淡く発色するように薄く塗せ、妖しげな目元に合わせた発色のいい赤色を唇に乗せた顔に、少し暗めの茶髪に緩く巻いた毛先を片側の肩に流す、憂いを帯びた眼差しの気怠げ美人がそこに居た。
1人の女の誕生である。
「ええやん?なんや自分でも上手すぎてお前に腹立ってきたわ」
「理不尽が過ぎる……」
初めての付けまつ毛に目が伏せ気味になる椎名。それが影のある女を演出していて、扇情的だった。
それを後ろで見ていた店長が口を挟む。
「これは正直ゴロ美さんよりも刺さる人が一部いそうな……」
「何やと?!ゴロ美の何が劣るっちゅうねん!」
鏡越しに椎名を見ていたゴロ美が店長の方を振り返る。食ってかかるゴロ美に怯える店長は、
「そ、そういう訳では……!今っぽさはゴロ美さんの方がありますし!それで言ったらゴロ美さんは容姿も!接客も!抜群ですから!」
胡麻を擂る店長に当たり前やろ!と返す真島。
2人の様子を鏡越しに呆れた目線で見る椎名だった。
「ほんで、源氏名どないする?」
「適当でいいんじゃないか?」
「ええ加減にせえよ、ほんまにしばくで」
席から立ち上がり話に参加する椎名だったが、振り向いたゴロ美の顔が本気だった。
ゴロ美の熱の入れように若干引いていると、店長が助言をする。
「警察手帳には玲士と書かれてたので、ゴロ美さんの美をとって美玲、というのはどうでしょう?」
「お、ええやん!採用!」
椎名の返答は聞かず、ゴロ美主導で物事が決まっていくのだった。
ーーーーーー
一夜限りのイベントに盛り上がる店内。
本日の主役であるゴロ美は忙しくあちらこちらの卓に呼ばれて盛り上げながらも忙しそうにしている。
一方の美玲はというと……。
「お触りはやめてくださいねー」
ヘルプで入っただけの卓で嬢を差し置いて、隣に引き寄せられセクハラを受けていた。
「意外と筋肉質だなぁ、良い体してるよ!」
「もー美玲ちゃんが困ってるでしょ?」
止めに入るキャストの顔は表面上客を止めているが、内心話題を持っていかれ面白くないという心が透けて見える。仕事を奪う申し訳なさとセクハラ親父の対応に疲れ果て、キャストと黒服にそれとなく休憩に入る事を告げる。
控え室に戻ると、メイクを直す為に鏡の前に座ると一息つく。
「……はぁ」
捜査の為とはいえ、本格的にキャバ嬢の業務をやる事になるとは。女性の大変さと自身に向けられた、男の下心ある接触の気持ち悪さを再認識する。ゴロ美の力量が知れて、真島吾朗という男の器用さが窺える。いつか蛇目連合達をなぜ極道をやっているのか、と疑問視していたが実は真島自身にも中々に言えているのではないか。
ぼーっとそんな事を考えていると、黒服が美玲を呼びに来る。
「例の人が来ました」
と、告げる黒服に緩めていた心を締め直し返事をすると、卓につく為フロアへ出る。
案内された蛇目連合の組長という男が卓へ案内されている。ゴロ美より先に卓につく美玲。
「主役は後から来ますー、美玲です。よろしくお願いします」
テンションは低いが椎名が思う最大限の女のふりをする。お、新人か?と笑いながら席に着く組長の隣に座る。座る際の姿勢も指導されていた美玲は座れば牡丹の言葉を容していた。
「聞いたよぉゴロ美ちゃんっていうの?今日の主役は。でも美玲ちゃんも良いねぇ、嬢にしては大人しい格好だけどおじさんは好きだね!」
デレデレと調子に乗り距離を詰める組長に、ありがとうございます、と苦虫を噛み殺したような顔を堪えて笑う。
「どうも〜、ゴロ美で〜す!」
2人の噛み合っていない空気を割るようにゴロ美がやってくる。組長の目の前に立つゴロ美を見上げると、組長が突然慄き勢いよく立ち上がる。
「ま、真島吾朗……!」
震える指先でゴロ美を指す組長。恐れ慄く組長にゴロ美の皮を脱いだ真島が顔を出す。ニヤリと笑うと、
「ほう……話が早いやんけ。ほな話、聞かせてもらおか」
男の肩を掴み力づくで座らせる真島。足を開き前傾姿勢で男を問い詰める真島は、椎名に指導した姿勢など全く意識せず、極道の真島吾朗そのものだった。
真島が先に切り出す。
「事情は分かっとるんやろ?……息子は何処や」
「言えない、言える訳がねぇ……!」
怯えながらも真島に食い下がる組長。流石に1人親方といえど極道としての仁義はあるようだ。
「ほんなら吐いてもらうまでや……痛い目見るか、ここで全部喋るか、選ばせたるわ」
椎名と真島が男に詰め寄る。警察に戻った椎名の顔に事態を察する組長。2人に挟まれた組長は顔を青ざめ体を竦めると、観念したかのように肩を落とすのだった。
ーーーーーー
「……言えるのは他の叔父貴の場所だけだ」
観念した男は喋り始める。口を滑らせる為に頼んだボトルを提供する椎名は、真島と大人しく白状し始めた男の話を聞く。
「隠してもいずれバレる……吐くなら早い方がええで」
真島の鋭い視線に男の顔色も悪くなる。真島の方を向くと声を張る男。
「違う!知らねえんだ……会長が今何処に居るかも、男が何処に居るかも分からねえ……」
落ち込むように下を向いたかと思うと酒を煽る男。そう簡単には辿り着かせてはもらえないようだ。男の情報に舌打ちが漏れる真島。
椎名が口を開く。
「その男の場所でいい……教えてくれるな?」
飴と鞭。警察でも使う手法だ。真島が脅し、椎名が逃げ道を作る。その手法に落ちた男はもう1人の男の情報を訥々と喋り始める。その様子に目で合図を交わす2人。
全てを喋り終わると膝に肘をつき、項垂れる男。状況をよく理解した男は、自身の行いの贖罪と今後の身の振り方を考えなければならない。
「そら知らん訳やな……口の軽い男は嫌われるで」
軽い軽蔑の視線を投げる真島。警察である椎名には更生の余地ありと捉えるが、極道の真島にとってはただの裏切りでしかない。心の奥底に引かれた一線にどこか寂しく、もどかしさを感じる椎名。
そんな事は露知らず、真島は用が済んだと言わんばかりに男に貢がせると、一夜限りの騒ぎをきっちりこなして売り上げを店に落とし、次の作戦を考え始めるのだった。
既にゴロ美の格好に着替えている真島は自身のメイクを終えると、椎名のメイクに取り掛かる。
「俺上手すぎひんか?」
あまりの仕上がりに一人称も真島本来に戻る。派手なゴロ美とは逆になるように作り上げたそれ。
自睫毛に長さを足すための付けまつ毛を敢えて少し下気味に、ドレスに合わせたブラウン系のアイシャドウを瞼に乗せ、跳ね上げた猫目アイラインに元々の形を生かした眉毛。ハイライトを随所に入れ、チークも淡く発色するように薄く塗せ、妖しげな目元に合わせた発色のいい赤色を唇に乗せた顔に、少し暗めの茶髪に緩く巻いた毛先を片側の肩に流す、憂いを帯びた眼差しの気怠げ美人がそこに居た。
1人の女の誕生である。
「ええやん?なんや自分でも上手すぎてお前に腹立ってきたわ」
「理不尽が過ぎる……」
初めての付けまつ毛に目が伏せ気味になる椎名。それが影のある女を演出していて、扇情的だった。
それを後ろで見ていた店長が口を挟む。
「これは正直ゴロ美さんよりも刺さる人が一部いそうな……」
「何やと?!ゴロ美の何が劣るっちゅうねん!」
鏡越しに椎名を見ていたゴロ美が店長の方を振り返る。食ってかかるゴロ美に怯える店長は、
「そ、そういう訳では……!今っぽさはゴロ美さんの方がありますし!それで言ったらゴロ美さんは容姿も!接客も!抜群ですから!」
胡麻を擂る店長に当たり前やろ!と返す真島。
2人の様子を鏡越しに呆れた目線で見る椎名だった。
「ほんで、源氏名どないする?」
「適当でいいんじゃないか?」
「ええ加減にせえよ、ほんまにしばくで」
席から立ち上がり話に参加する椎名だったが、振り向いたゴロ美の顔が本気だった。
ゴロ美の熱の入れように若干引いていると、店長が助言をする。
「警察手帳には玲士と書かれてたので、ゴロ美さんの美をとって美玲、というのはどうでしょう?」
「お、ええやん!採用!」
椎名の返答は聞かず、ゴロ美主導で物事が決まっていくのだった。
ーーーーーー
一夜限りのイベントに盛り上がる店内。
本日の主役であるゴロ美は忙しくあちらこちらの卓に呼ばれて盛り上げながらも忙しそうにしている。
一方の美玲はというと……。
「お触りはやめてくださいねー」
ヘルプで入っただけの卓で嬢を差し置いて、隣に引き寄せられセクハラを受けていた。
「意外と筋肉質だなぁ、良い体してるよ!」
「もー美玲ちゃんが困ってるでしょ?」
止めに入るキャストの顔は表面上客を止めているが、内心話題を持っていかれ面白くないという心が透けて見える。仕事を奪う申し訳なさとセクハラ親父の対応に疲れ果て、キャストと黒服にそれとなく休憩に入る事を告げる。
控え室に戻ると、メイクを直す為に鏡の前に座ると一息つく。
「……はぁ」
捜査の為とはいえ、本格的にキャバ嬢の業務をやる事になるとは。女性の大変さと自身に向けられた、男の下心ある接触の気持ち悪さを再認識する。ゴロ美の力量が知れて、真島吾朗という男の器用さが窺える。いつか蛇目連合達をなぜ極道をやっているのか、と疑問視していたが実は真島自身にも中々に言えているのではないか。
ぼーっとそんな事を考えていると、黒服が美玲を呼びに来る。
「例の人が来ました」
と、告げる黒服に緩めていた心を締め直し返事をすると、卓につく為フロアへ出る。
案内された蛇目連合の組長という男が卓へ案内されている。ゴロ美より先に卓につく美玲。
「主役は後から来ますー、美玲です。よろしくお願いします」
テンションは低いが椎名が思う最大限の女のふりをする。お、新人か?と笑いながら席に着く組長の隣に座る。座る際の姿勢も指導されていた美玲は座れば牡丹の言葉を容していた。
「聞いたよぉゴロ美ちゃんっていうの?今日の主役は。でも美玲ちゃんも良いねぇ、嬢にしては大人しい格好だけどおじさんは好きだね!」
デレデレと調子に乗り距離を詰める組長に、ありがとうございます、と苦虫を噛み殺したような顔を堪えて笑う。
「どうも〜、ゴロ美で〜す!」
2人の噛み合っていない空気を割るようにゴロ美がやってくる。組長の目の前に立つゴロ美を見上げると、組長が突然慄き勢いよく立ち上がる。
「ま、真島吾朗……!」
震える指先でゴロ美を指す組長。恐れ慄く組長にゴロ美の皮を脱いだ真島が顔を出す。ニヤリと笑うと、
「ほう……話が早いやんけ。ほな話、聞かせてもらおか」
男の肩を掴み力づくで座らせる真島。足を開き前傾姿勢で男を問い詰める真島は、椎名に指導した姿勢など全く意識せず、極道の真島吾朗そのものだった。
真島が先に切り出す。
「事情は分かっとるんやろ?……息子は何処や」
「言えない、言える訳がねぇ……!」
怯えながらも真島に食い下がる組長。流石に1人親方といえど極道としての仁義はあるようだ。
「ほんなら吐いてもらうまでや……痛い目見るか、ここで全部喋るか、選ばせたるわ」
椎名と真島が男に詰め寄る。警察に戻った椎名の顔に事態を察する組長。2人に挟まれた組長は顔を青ざめ体を竦めると、観念したかのように肩を落とすのだった。
ーーーーーー
「……言えるのは他の叔父貴の場所だけだ」
観念した男は喋り始める。口を滑らせる為に頼んだボトルを提供する椎名は、真島と大人しく白状し始めた男の話を聞く。
「隠してもいずれバレる……吐くなら早い方がええで」
真島の鋭い視線に男の顔色も悪くなる。真島の方を向くと声を張る男。
「違う!知らねえんだ……会長が今何処に居るかも、男が何処に居るかも分からねえ……」
落ち込むように下を向いたかと思うと酒を煽る男。そう簡単には辿り着かせてはもらえないようだ。男の情報に舌打ちが漏れる真島。
椎名が口を開く。
「その男の場所でいい……教えてくれるな?」
飴と鞭。警察でも使う手法だ。真島が脅し、椎名が逃げ道を作る。その手法に落ちた男はもう1人の男の情報を訥々と喋り始める。その様子に目で合図を交わす2人。
全てを喋り終わると膝に肘をつき、項垂れる男。状況をよく理解した男は、自身の行いの贖罪と今後の身の振り方を考えなければならない。
「そら知らん訳やな……口の軽い男は嫌われるで」
軽い軽蔑の視線を投げる真島。警察である椎名には更生の余地ありと捉えるが、極道の真島にとってはただの裏切りでしかない。心の奥底に引かれた一線にどこか寂しく、もどかしさを感じる椎名。
そんな事は露知らず、真島は用が済んだと言わんばかりに男に貢がせると、一夜限りの騒ぎをきっちりこなして売り上げを店に落とし、次の作戦を考え始めるのだった。