Behind the Bar
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東城会三代目世良勝の右腕には腕の立つヒットマンがいる。
あの一件以降、若頭から会長までのし上った世良は、佐伯を筆頭に今だに日侠連を裏の組織として動かしていた。
ごく一部で流れるその噂にざわざわと心が落ち着かない真島。マキムラマコトとカラの一坪の件以降表向き大人しくしている嶋野の親父に付き従う。自身の組を持ち、幹部会にも顔を出すようになった。そこでよく聞く噂。古参のごく一部のみ知るその噂に最初は渋い顔をするも、今はどう利用してやろうかという魂胆が見える嶋野。
その表情に何と無く察する事が出来た。一縷の望みであった佐伯は死んでいない、という願望が膨れ上がる。
内心、それを確かめる為に幹部会に顔を出す真島であった。
佐伯はあれ以降、本当に存在を消され東城会の裏の仕事を引き受ける汚れ役を一手に引き受けていた。日侠連らしく仮面をつけて活動する暗部。その存在はごく一部の幹部にしか話をしていない世良。当然風間組には話をしてある。嶋野組は薄ら勘付いているようだが、こちらから話す事はしない。
嶋野に利用されそうだった過去がある佐伯もそれに賛成し、世良の言い付け通りに動きそれを守っていた。
そんな折、佐伯の方からそれを一度破らせて貰えないかという打診を持ち掛けられる。
「何故だ」
「せめて、真島くんに挨拶したくてね」
最後の別れを思い返す男の顔が、憂いを帯びる。世良と2人きりの空間で、他の男に会いたいと言う片割れ同然の男に脳を焼かれる思いをする世良。そんなこともつゆ知らず、男は真島への罪悪感ともし会えたらという喜びが表情に滲み出ていた。
「……駄目だ、と言ったら?」
真剣な眼差しに混ざる嫉妬の感情を男に向ける世良。それを受け止め肩を竦めると、
「潔く諦めるよ」
と、綺麗に笑う男。仮面を被る手前、今までの髭の長さだと出てしまう為顎髭を剃っている男は、世良の相棒だったあの頃の男に近く、しかし中性的だったあの頃より年並みの色気も増し男前になっている。
憂いを帯びた笑顔にほんの少しの同情が胸をつく世良。だがここで折れる訳にはいかない。存在を消した今、生存がバレてもいけないのだ。
しかし、この男の簡単に命を投げ出す癖もまた気に入らない。真島に知らせたが為に死ぬのならばいっそこの手で……と、思考が巡る。そんな思惑を知らない男は純粋に真島への再会を望んでいた。
無理を承知で頼む男に、世良は渋々条件を突き付ける。男にとって重い筈の条件。
「……なんだ、そんな事。俺は既に勝の物だよ」
と、言うと早速仮面を付け真島の元へ向かうのだった。
幹部会が終わり疎らに組長達が会議室を去っていく。そこに残る嶋野。真島は既に本部から出ようとしていた。
すると、腕を引かれ人のいない一室に連れ込まれる。普段の油断ならばこんな事はない筈なのだが、手際はまさしくプロのそれだった。掴まれざまに殴りかかるも難なく避けられる。勢いのままに部屋の中へ放り出される真島。
ドアを閉められ振り向くとそこには日侠連の服を着た仮面の男。訝しげに見る真島の視線に気付き、声を発する。
「久しぶりだね、真島くん」
「……その声、どっかで……」
酷いなあ、と仮面を取り払う男。現れた顔に見覚えはあるが、様子が変わっていて気付くのに時間が掛かった。
「アンタ……佐伯はん!やっぱり生きてはったんか!……なんや随分変わったのう、顎髭なくなったんか」
真島の嬉しそうな表情に男も嬉しがる。口に人差し指を立てシーっと合図すると、話始める男。
「勝に許可貰ってきたんだ、最期の挨拶に応えようと思ってね」
笑う男に少し呆れる真島。しかし胸の内は喜びに染まっており、少しの照れ臭さが混じる。
「ほんまに最期やったやんか……でも信じて待ってたんやで?」
ええ子やろ?と笑う真島にフフッと笑いかける男。真島に近寄ると、男は片手を差し出す。握手だ。
真島はその手を握ると、強く引っ張り胸の中に男を閉じ込める。
「ほんまに心配したんや、これくらいええやろ……」
男の肩に顔を埋める真島。やはりあの頃のように感情を剥き出しにする真島をきつく抱きしめ返す。
「生きとる……」
譫言のように呟く真島の小さい声が聞こえる。男の体温を確かめるように力強く抱き締める真島の腕は男をこの世に引き留めんとする力を持っていた。
暫く抱き合う2人に湿っぽくなる空気。
「……なぁ、あん時みたいにキス、してや」
唐突に顔を上げたかと思うとそう言う真島に苦笑いを返す。餞別のつもりでした口付けをまた望む真島に、今後も易々と会える事はない、別れの空気を感じる。
「……まあ、いっか」
と呟くと真島の顔を掬い、軽く口付ける。以前と違い真島の顎髭が男の顔に当たる。
ゆっくりと離れると名残惜しそうな真島の顔が。
笑う男に、何わろてんねん、と少し不満げに返す真島。
「いやつい、真島くんが可愛くてね」
「30過ぎたおっさんのどこがかわいいねんな……」
不貞腐れる真島の顔を優しく撫でると腕を下ろす。
「じゃあ……これが本当に最後のお別れ」
と、ゆっくり離れる男。あの時と同じように名残惜しむ真島。伏せた片目を優しく見遣ると、仮面を取り付ける。男は暗部に戻ったのだ。
ゆっくり背を向け立ち去っていく男の背中をいつまでも眺めていた真島。全てを記憶し今という時を忘れない為にも男を目に焼き付けるのだった。
「約束、違えてないだろうな」
世良の自宅一室。向かい合う2人。報告のために参った佐伯は世良からの約束を反芻していた。
真島以外に知らせない事、もし真島が漏らすような事があれば殺す、という約束。
「大丈夫……誰にも見られてないし、真島くんは口を割らないよ」
「それもそうだが、そうじゃない。お前の事だ……餞別だなんだとくれてやったんだろう?」
男の体が少し強張る。世良の鋭い視線が男を貫き、心の奥底を突き刺す。
「身体は許してないよ……ただちょっと、ねだられて、ね」
両手を合わせ、謝るように肩を竦める。真島に対して甘やかしてしまうのはあの頃からの性質のようだ。
「約束が違う……今からお前を殺してやる」
と、言うと男の首を片手で掴み締め上げようとする。それを目を閉じ全身を委ね、受け入れる男。その顔を見つめる世良は首から手を離すと、目を閉じたままの男に口付ける。それにゆっくりと目を開ける男。
「……消毒だ、勘違いするな。ちゃんと殺してやる……ベッドの上でな」
フッと笑う世良に堪えきれない笑いが溢れる男。顔を寄せ合い笑う2人は親友の姿そのものだった。
「親父臭いよ勝……でも勝直々に殺してくれるならいいよ」
「お前は本当に死にたがりだな」
「勝にだけだよ」
笑いながらベッドルームへ消える2人。後ろ姿は親友のようで、恋人のような甘い空気を孕んでいた。
あの一件以降、若頭から会長までのし上った世良は、佐伯を筆頭に今だに日侠連を裏の組織として動かしていた。
ごく一部で流れるその噂にざわざわと心が落ち着かない真島。マキムラマコトとカラの一坪の件以降表向き大人しくしている嶋野の親父に付き従う。自身の組を持ち、幹部会にも顔を出すようになった。そこでよく聞く噂。古参のごく一部のみ知るその噂に最初は渋い顔をするも、今はどう利用してやろうかという魂胆が見える嶋野。
その表情に何と無く察する事が出来た。一縷の望みであった佐伯は死んでいない、という願望が膨れ上がる。
内心、それを確かめる為に幹部会に顔を出す真島であった。
佐伯はあれ以降、本当に存在を消され東城会の裏の仕事を引き受ける汚れ役を一手に引き受けていた。日侠連らしく仮面をつけて活動する暗部。その存在はごく一部の幹部にしか話をしていない世良。当然風間組には話をしてある。嶋野組は薄ら勘付いているようだが、こちらから話す事はしない。
嶋野に利用されそうだった過去がある佐伯もそれに賛成し、世良の言い付け通りに動きそれを守っていた。
そんな折、佐伯の方からそれを一度破らせて貰えないかという打診を持ち掛けられる。
「何故だ」
「せめて、真島くんに挨拶したくてね」
最後の別れを思い返す男の顔が、憂いを帯びる。世良と2人きりの空間で、他の男に会いたいと言う片割れ同然の男に脳を焼かれる思いをする世良。そんなこともつゆ知らず、男は真島への罪悪感ともし会えたらという喜びが表情に滲み出ていた。
「……駄目だ、と言ったら?」
真剣な眼差しに混ざる嫉妬の感情を男に向ける世良。それを受け止め肩を竦めると、
「潔く諦めるよ」
と、綺麗に笑う男。仮面を被る手前、今までの髭の長さだと出てしまう為顎髭を剃っている男は、世良の相棒だったあの頃の男に近く、しかし中性的だったあの頃より年並みの色気も増し男前になっている。
憂いを帯びた笑顔にほんの少しの同情が胸をつく世良。だがここで折れる訳にはいかない。存在を消した今、生存がバレてもいけないのだ。
しかし、この男の簡単に命を投げ出す癖もまた気に入らない。真島に知らせたが為に死ぬのならばいっそこの手で……と、思考が巡る。そんな思惑を知らない男は純粋に真島への再会を望んでいた。
無理を承知で頼む男に、世良は渋々条件を突き付ける。男にとって重い筈の条件。
「……なんだ、そんな事。俺は既に勝の物だよ」
と、言うと早速仮面を付け真島の元へ向かうのだった。
幹部会が終わり疎らに組長達が会議室を去っていく。そこに残る嶋野。真島は既に本部から出ようとしていた。
すると、腕を引かれ人のいない一室に連れ込まれる。普段の油断ならばこんな事はない筈なのだが、手際はまさしくプロのそれだった。掴まれざまに殴りかかるも難なく避けられる。勢いのままに部屋の中へ放り出される真島。
ドアを閉められ振り向くとそこには日侠連の服を着た仮面の男。訝しげに見る真島の視線に気付き、声を発する。
「久しぶりだね、真島くん」
「……その声、どっかで……」
酷いなあ、と仮面を取り払う男。現れた顔に見覚えはあるが、様子が変わっていて気付くのに時間が掛かった。
「アンタ……佐伯はん!やっぱり生きてはったんか!……なんや随分変わったのう、顎髭なくなったんか」
真島の嬉しそうな表情に男も嬉しがる。口に人差し指を立てシーっと合図すると、話始める男。
「勝に許可貰ってきたんだ、最期の挨拶に応えようと思ってね」
笑う男に少し呆れる真島。しかし胸の内は喜びに染まっており、少しの照れ臭さが混じる。
「ほんまに最期やったやんか……でも信じて待ってたんやで?」
ええ子やろ?と笑う真島にフフッと笑いかける男。真島に近寄ると、男は片手を差し出す。握手だ。
真島はその手を握ると、強く引っ張り胸の中に男を閉じ込める。
「ほんまに心配したんや、これくらいええやろ……」
男の肩に顔を埋める真島。やはりあの頃のように感情を剥き出しにする真島をきつく抱きしめ返す。
「生きとる……」
譫言のように呟く真島の小さい声が聞こえる。男の体温を確かめるように力強く抱き締める真島の腕は男をこの世に引き留めんとする力を持っていた。
暫く抱き合う2人に湿っぽくなる空気。
「……なぁ、あん時みたいにキス、してや」
唐突に顔を上げたかと思うとそう言う真島に苦笑いを返す。餞別のつもりでした口付けをまた望む真島に、今後も易々と会える事はない、別れの空気を感じる。
「……まあ、いっか」
と呟くと真島の顔を掬い、軽く口付ける。以前と違い真島の顎髭が男の顔に当たる。
ゆっくりと離れると名残惜しそうな真島の顔が。
笑う男に、何わろてんねん、と少し不満げに返す真島。
「いやつい、真島くんが可愛くてね」
「30過ぎたおっさんのどこがかわいいねんな……」
不貞腐れる真島の顔を優しく撫でると腕を下ろす。
「じゃあ……これが本当に最後のお別れ」
と、ゆっくり離れる男。あの時と同じように名残惜しむ真島。伏せた片目を優しく見遣ると、仮面を取り付ける。男は暗部に戻ったのだ。
ゆっくり背を向け立ち去っていく男の背中をいつまでも眺めていた真島。全てを記憶し今という時を忘れない為にも男を目に焼き付けるのだった。
「約束、違えてないだろうな」
世良の自宅一室。向かい合う2人。報告のために参った佐伯は世良からの約束を反芻していた。
真島以外に知らせない事、もし真島が漏らすような事があれば殺す、という約束。
「大丈夫……誰にも見られてないし、真島くんは口を割らないよ」
「それもそうだが、そうじゃない。お前の事だ……餞別だなんだとくれてやったんだろう?」
男の体が少し強張る。世良の鋭い視線が男を貫き、心の奥底を突き刺す。
「身体は許してないよ……ただちょっと、ねだられて、ね」
両手を合わせ、謝るように肩を竦める。真島に対して甘やかしてしまうのはあの頃からの性質のようだ。
「約束が違う……今からお前を殺してやる」
と、言うと男の首を片手で掴み締め上げようとする。それを目を閉じ全身を委ね、受け入れる男。その顔を見つめる世良は首から手を離すと、目を閉じたままの男に口付ける。それにゆっくりと目を開ける男。
「……消毒だ、勘違いするな。ちゃんと殺してやる……ベッドの上でな」
フッと笑う世良に堪えきれない笑いが溢れる男。顔を寄せ合い笑う2人は親友の姿そのものだった。
「親父臭いよ勝……でも勝直々に殺してくれるならいいよ」
「お前は本当に死にたがりだな」
「勝にだけだよ」
笑いながらベッドルームへ消える2人。後ろ姿は親友のようで、恋人のような甘い空気を孕んでいた。