Behind the Bar
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暫くの余韻の後、去っていった佐川の背中を道の前まで見送り、空を見上げる。気持ちが晴れるような心地いい青空。こんないい天気の日に人生が終わる、それも悪くない。
しかし、待てどやってくるはずの近江の使い手は暫く来ない。もしや、場所が分からないなどという事はあるはずはない。店に戻ろうとドアを開けると、道に人の気配。
「佐伯はん」
真島だった。驚き、目を見開く男。笑っている真島の格好は変わっていて、髪は短く、服は上裸に蛇柄ジャケット、革パンツに革手袋と、タキシードからは想像も出来ない格好だった。
「心機一転?」
「せや、これが真島吾朗の生き方や」
「真島くんなら出来るよ」
気恥ずかしそうに頭を掻く真島。微笑みながらそれを見る男。
「佐川はんに挨拶してきたわ」
その言葉に佐川の最期を悟る。そして次は自分の番である事も。
「……入って」
と、真島を店に案内する。素直に入る真島。カウンターに案内すると、客も従業員すら、誰もいない店内に真島が尋ねる。
「店、どないしたんや?」
「ああ、もう閉めようと思ってね」
「何でや?!」
驚く真島に苦笑いの男。これから死ぬからだ、とはとても言えない。黙って真島の横に座り、真島をバーチェアに座らせる。
「……聞きにきたんだろ?東城会に戻らない理由」
ああ、と頷く真島。
カウンターに腕を置き、語り出す男。
「勝とは相棒と言ったろ?嘘ではないんだけど、正しくもない……相棒であり、片想い相手だった」
ゆっくりと語り始める男の様子を、黙って見つめる真島。全て受け入れる、という意思なのだろう。
「それで、若かった俺は衝動でキスなんかしちゃったりしてさ……まぁ、それなりの関係ではあったんだ」
懐かしそうに、しかし気恥ずかしそうに宙をみる男。真島は男の顔に見惚れると、世良に対して少しの嫉妬が顔を見せる。
「でも、別組織の組長さんがきっとそれを見たんだろうね、1人の時に襲われそうになっちゃって」
苦笑いで済ませる男。カッとなる真島はカウンターに肘をかけ、身を男に向けて乗り出す。
「そいつ、俺がしばいたる!」
男に詰め寄る真島に肩を叩き、まあまあ、と宥める男。
「大丈夫、そいつはもういないから……俺が殺したんだ」
笑顔のまま告げる男。真島の時が止まる。固まる真島に男は苦笑いし、席に座らせる。
「東城会の人だったらしい……俺は責任を取って破門、そのまま自首して服役ってわけ」
「……破門で済んだんか?」
「それは風間さんと勝のお陰」
終始笑っている男に、辛い表情をする真島。
「服役から帰ってきて、俺は申し訳なくてさ……でも生きる術はこれしかない、だから近江に逃げたんだ」
「佐伯らしいの……あんたは自分が思う程、弱い人間ちゃうで。俺が保証したる」
ハハッと声を上げ、口を指で押さえながらありがとう、と告げる男。
「さ、俺の秘密は全部話した……これで終わり」
終わり、の言葉にいつもと違う空気が流れる男。それに不安がよぎる真島。男の腕を掴むと、自らに引き寄せる。
「……死なんよな」
最早疑問系ですらないそれ。強く握られる腕に視線がいく男。
「店も閉めて、俺に秘密全部話して……それで終わらせるんか?」
縋るように握る腕。真島の顔は切ない。男はそっと真島に向き直る。
「死ぬくらいやったら俺が連れ去ったる……俺と一緒に逃げへんか?」
揺れる瞳で男を見つめる。格好を変え、東城会に戻り、自分の生き方を変えた筈の真島から、キャバレーにいた頃のような素の感情をむき出しにする真島に戻る。
「真島くんはこれからが大事でしょ?俺は大丈夫だから……」
言いながら椅子から降りて、出口へ向かおうとする。
「そんなんで騙されへんで」
椅子から立ち上がり男の両肩を掴むと、男の顔を真島に向かせる。
「俺はマコトのためや思うて離れるけど、佐伯、あんたは違う……俺に守らせてくれや」
口を固く閉ざす男。悲しげな顔を見せたかと思うと真島の顔に手を添え、そっと口付ける。
急な事で、髭の当たる感触にやっと現状を理解する真島。
ゆっくりと唇を離すと、
「これで許して……ね?」
餞別と言わんばかりのそれに真島の顔が歪む。黙って拳を握り、俯く真島に抱擁する。真島の背を子供を慰めるように叩き、撫でると体を離す。真島の腕が離れる男の腕をそっとなぞりながら離れる。
「さ、早く行こう」
と、真島の手を取り店の外へ連れ出す。真島の顔はいまだに苦しそうだが、男の慰めに少し気が緩んだ。
ドアベルの柔らかい音に包まれ、2人は晴れた空の下に出る。
「じゃあね」
名残惜しそうに真島の手が男へ伸びるが、それを男が抑える。
「またっていうてや」
「……またね」
男の苦笑いの後言い直したそれに満足すると、手を下ろし、真島は背を向け去っていく。その背中を見届けていると、背後から複数の足跡。
遂に来たか、と瞼を閉じ息を吐く。止まる足音に、背後に人の立つ気配。瞼を開け、胸を張るように前を見る。カチャリ、と背中に固いものが当たる。
「迎えに来たぞ」
聞き覚えのあるその声音にハッとした男は振り返った。
しかし、待てどやってくるはずの近江の使い手は暫く来ない。もしや、場所が分からないなどという事はあるはずはない。店に戻ろうとドアを開けると、道に人の気配。
「佐伯はん」
真島だった。驚き、目を見開く男。笑っている真島の格好は変わっていて、髪は短く、服は上裸に蛇柄ジャケット、革パンツに革手袋と、タキシードからは想像も出来ない格好だった。
「心機一転?」
「せや、これが真島吾朗の生き方や」
「真島くんなら出来るよ」
気恥ずかしそうに頭を掻く真島。微笑みながらそれを見る男。
「佐川はんに挨拶してきたわ」
その言葉に佐川の最期を悟る。そして次は自分の番である事も。
「……入って」
と、真島を店に案内する。素直に入る真島。カウンターに案内すると、客も従業員すら、誰もいない店内に真島が尋ねる。
「店、どないしたんや?」
「ああ、もう閉めようと思ってね」
「何でや?!」
驚く真島に苦笑いの男。これから死ぬからだ、とはとても言えない。黙って真島の横に座り、真島をバーチェアに座らせる。
「……聞きにきたんだろ?東城会に戻らない理由」
ああ、と頷く真島。
カウンターに腕を置き、語り出す男。
「勝とは相棒と言ったろ?嘘ではないんだけど、正しくもない……相棒であり、片想い相手だった」
ゆっくりと語り始める男の様子を、黙って見つめる真島。全て受け入れる、という意思なのだろう。
「それで、若かった俺は衝動でキスなんかしちゃったりしてさ……まぁ、それなりの関係ではあったんだ」
懐かしそうに、しかし気恥ずかしそうに宙をみる男。真島は男の顔に見惚れると、世良に対して少しの嫉妬が顔を見せる。
「でも、別組織の組長さんがきっとそれを見たんだろうね、1人の時に襲われそうになっちゃって」
苦笑いで済ませる男。カッとなる真島はカウンターに肘をかけ、身を男に向けて乗り出す。
「そいつ、俺がしばいたる!」
男に詰め寄る真島に肩を叩き、まあまあ、と宥める男。
「大丈夫、そいつはもういないから……俺が殺したんだ」
笑顔のまま告げる男。真島の時が止まる。固まる真島に男は苦笑いし、席に座らせる。
「東城会の人だったらしい……俺は責任を取って破門、そのまま自首して服役ってわけ」
「……破門で済んだんか?」
「それは風間さんと勝のお陰」
終始笑っている男に、辛い表情をする真島。
「服役から帰ってきて、俺は申し訳なくてさ……でも生きる術はこれしかない、だから近江に逃げたんだ」
「佐伯らしいの……あんたは自分が思う程、弱い人間ちゃうで。俺が保証したる」
ハハッと声を上げ、口を指で押さえながらありがとう、と告げる男。
「さ、俺の秘密は全部話した……これで終わり」
終わり、の言葉にいつもと違う空気が流れる男。それに不安がよぎる真島。男の腕を掴むと、自らに引き寄せる。
「……死なんよな」
最早疑問系ですらないそれ。強く握られる腕に視線がいく男。
「店も閉めて、俺に秘密全部話して……それで終わらせるんか?」
縋るように握る腕。真島の顔は切ない。男はそっと真島に向き直る。
「死ぬくらいやったら俺が連れ去ったる……俺と一緒に逃げへんか?」
揺れる瞳で男を見つめる。格好を変え、東城会に戻り、自分の生き方を変えた筈の真島から、キャバレーにいた頃のような素の感情をむき出しにする真島に戻る。
「真島くんはこれからが大事でしょ?俺は大丈夫だから……」
言いながら椅子から降りて、出口へ向かおうとする。
「そんなんで騙されへんで」
椅子から立ち上がり男の両肩を掴むと、男の顔を真島に向かせる。
「俺はマコトのためや思うて離れるけど、佐伯、あんたは違う……俺に守らせてくれや」
口を固く閉ざす男。悲しげな顔を見せたかと思うと真島の顔に手を添え、そっと口付ける。
急な事で、髭の当たる感触にやっと現状を理解する真島。
ゆっくりと唇を離すと、
「これで許して……ね?」
餞別と言わんばかりのそれに真島の顔が歪む。黙って拳を握り、俯く真島に抱擁する。真島の背を子供を慰めるように叩き、撫でると体を離す。真島の腕が離れる男の腕をそっとなぞりながら離れる。
「さ、早く行こう」
と、真島の手を取り店の外へ連れ出す。真島の顔はいまだに苦しそうだが、男の慰めに少し気が緩んだ。
ドアベルの柔らかい音に包まれ、2人は晴れた空の下に出る。
「じゃあね」
名残惜しそうに真島の手が男へ伸びるが、それを男が抑える。
「またっていうてや」
「……またね」
男の苦笑いの後言い直したそれに満足すると、手を下ろし、真島は背を向け去っていく。その背中を見届けていると、背後から複数の足跡。
遂に来たか、と瞼を閉じ息を吐く。止まる足音に、背後に人の立つ気配。瞼を開け、胸を張るように前を見る。カチャリ、と背中に固いものが当たる。
「迎えに来たぞ」
聞き覚えのあるその声音にハッとした男は振り返った。