Behind the Bar
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先程の男の発言が気に掛かり、脳裏にこびりつく真島。
佐川に対する程の警戒は薄れたが、男の言う言葉を鵜呑みにしていいのか迷う。しかし猶予はないので、真島の独断で男の情報を探る事にした。
佐川からの指示を受け、男にキャストを付けた黒服に話を伺う。
「直接は聞いてないんですが、そうしろと指示が書いてありまして……」
「そやったんか……迷惑かけたわ。で、あの男の事はなんか知っとるんか?」
ええ、と少し弾む声が返ってくる。
「佐伯さんって渋いですよね……!有名な会員制ジャズバーの経営者って話ですよ、俺も一度は行ってみたいなぁ……!」
思いを馳せている黒服に礼を告げると、店長に店を空けると告げ、外出する。
どうやら極道である事は知られていないようだった。佐川の口から一度だけ出た佐伯組の名前。その時は気にもかけていなかったが、まさかこんなところで繋がるとは。情報を得たので、男への接触方法を考える。会員制と聞き、繋がるのは名前を出した佐川。しかしあの男に知られるのは不味い。仕方なく道ゆく人に尋ね回る。何人かの人に尋ねるも、佐伯の名は知っていても、場所は知らないらしい。
「ああ、あそこの人か!店の場所は知ってるけどねぇ」
聞き込みを続けヒットするも、やはり会員となるとハードルは高いらしい。ひとまずその場所を聞き、店の前までやってくる。蒼天堀飲み屋街の裏路地、真島の行った事のない場所にそれはあった。騒がしい場所から浮くような白い壁に淡いオレンジ色のライトで照らされる木製の扉。看板もないその店の扉をゆっくりと開ける。
来店を知らせるベルの音が小さく鳴ると、カウンターにいる店員がこちらを見る。
「すみませんが、一見様は……」
店員が入ってくる真島を止めにこちらに近寄ると、真島の顔を見て立ち止まる。
「失礼しました……グランドの支配人、真島吾朗様ですね。ご案内します」
態度が変わった店員に少し戸惑うが、話が通っているらしい事が判ると、店員の後を追う。
スタッフルームを通り、軽い休憩室のような場所に通されると、そこには寛ぐ佐伯。
「親父、お連れしました」
「ああ、ありがとう」
さらに店員の態度が変わり、組員である事に驚く真島。
頭を下げた後、仕事に戻る組員を見送ると、真島に向き合う男。
「態々来てくれたんだ、よくうちが分かったね」
「……あんた有名人やで、よう極道やってバレてへんな」
少し呆れた顔をする真島。顎に手を当て髭をなぞりながら考える男は、
「そうか……周りのせいかな?」
自身のカリスマに少しも気付いていない様子。どこか抜けている男に、呆れを通り越して力が抜ける真島。
「あんたのせいやろ……ところであの話、信じてええんか」
まだ疑ってはいるが、前より態度が軟化した真島に気付くと、
「佐川さんにバレたくないんでしょ?それに、問題はそれだけじゃない……真島くんが思ってるより、この話は大きいんだよ」
先を見通すような視線を投げかける男。顔を顰めながら問いかける真島。
「どういう事や……あの娘狙って男達が動いとる。あんたは何を、どこまで知っとるんや?!」
「……それを言うには、俺も、組も、その件に命を賭けなきゃいけなくなる」
そんな事はさせられない、と眉を下げ笑う男に、益々訳が分からなくなる真島。
「うちだけで解決出来る事でもない問題だ……君が彼女を護ると言うなら、俺もそれに賭ける」
その発言に男には情報があり、自分達を守る意思がある事を悟る真島。
「よう分からんけど、あんたの気持ちは分かったわ……せやけど、こっちも納得させる時間が必要や。隠すにも今すぐは動けん」
真島の目に意思が宿った事を見届けると、男は頷き返事を返す。
「そうだね、待ってるよ」
男の言葉に頷き返すと、店を去っていく真島。その背中を優しく見守る男。
しかし、その隠れ家は使われる事はなかった。
伝える間もなく問題に直面する真島は、そのまま夜を越え、佐川から与えられた期日を超えた3日目を迎えてしまうのだった。
佐伯組事務所。
人目を忍ぶような、ひっそりとした極道事務所。組員は基本的にジャズバーにいる為、事務所自体を大きく構える必要はない。しかし、そこには膨大な量の情報が詰まっている部屋がある為、セキュリティを上げる必要があった。
情報の塊であるそこに立つ男。手に持つ資料には東城会の文字。誰かの顔写真とその詳しい情報が書き記されている。
ふと踵を返し、部屋を出ると何重にも鍵をかけ、丁寧に指紋も拭き取り、痕跡を消す。
組員達の出入りする部屋に戻り、何事もなかったように過ごす男。
そこにやってくる佐川。
「佐伯ちゃんいる?ちょっと呼んできて」
雑用の組員に声を掛けると、ずかずかと上がり込んで来る。慌てて後を追い、組長である佐伯を呼びにいくと、その様子に気付いていた男。
「ごめんね、今行くよ」
組員を下がらせ、1人で、毎度の如くいるだろうその部屋に向かう。
応接間として用意された部屋に、我が物顔で勝手に入り、ソファで寛ぐ佐川の姿。男の姿を見ると身を乗り出し、まあ座れよ、と対面のソファに促す佐川。
「私の事務所ですけど……まあいいでしょう。で、どうしたんですか?佐川さん」
膝に肘を突き、前傾姿勢を取る佐川の視線は鋭い。
「お前さぁ、真島ちゃん唆したろ?お陰でこっちは殺さなきゃいけなくなっちゃったよ……どうしてくれんの?」
「さぁ、どういう事でしょう?」
薄ら笑いでとぼける男に眉間の皺が濃くなる佐川。
「言ったろ、お前の理解者は俺だって……なぁ、どう落とし前付けるんだ?」
そう言うと、ソファから立ち上がり、懐から銃を取り出すと男の額に向ける佐川。
両手を上げ、降参の姿勢を見せるも、顔に余裕がある男の様子に舌打ちをする。
「うちに銃じゃ敵いませんよ……理解者の貴方なら解ってる筈だ」
言いながら、部屋の外で待機している臨戦体勢の組員達を下がらせる。
銃を下ろすと、どかりとソファへ座り直す佐川。ソファの背に回した腕に銃を持ったまま、手首を回して弄ぶ。
「あーあ、お前のせいでまた余計な仕事が増えちゃったよ。これが終わったらくれるんだろうな……?ご褒美」
と、卑しく笑う佐川に少し困り顔の男。
「うちは極貧事務所なんで、そんなに高い物は……」
男の発言に鼻で笑う佐川。大袈裟に首をのけ反ると、
「馬鹿だねぇ!お前は……そんなに俺に遊ばれたいの?」
銃を握ったまま前傾姿勢に戻り、ニヤリと笑う佐川。銃口はしっかり男に向いている。
男を射抜くように見つめるその視線から、微笑みながら目を逸らす。空気を変えるように、視線を戻し発言する男。
「情報ですか?それとも武器?」
「それを俺に言わせていいのか?」
笑いながら銃口を向ける佐川に、降参と言わんばかりに両手を上げ、肩を竦める。
「ま、それは最後の楽しみにとっておくか……今から後始末だもんな」
じゃあな。楽しみにしておくよ……と言葉を残し、銃口をだらりと下ろして懐にしまうと、ソファから立ち上がり事務所を後にする佐川。
黙って背中を見つめる男は、佐川が見えなくなると、真島が間に合わなかった事に頭を悩ませる。腰に手を当て、頭を抱えて溜まった息を吐き出すのだった。
佐川に対する程の警戒は薄れたが、男の言う言葉を鵜呑みにしていいのか迷う。しかし猶予はないので、真島の独断で男の情報を探る事にした。
佐川からの指示を受け、男にキャストを付けた黒服に話を伺う。
「直接は聞いてないんですが、そうしろと指示が書いてありまして……」
「そやったんか……迷惑かけたわ。で、あの男の事はなんか知っとるんか?」
ええ、と少し弾む声が返ってくる。
「佐伯さんって渋いですよね……!有名な会員制ジャズバーの経営者って話ですよ、俺も一度は行ってみたいなぁ……!」
思いを馳せている黒服に礼を告げると、店長に店を空けると告げ、外出する。
どうやら極道である事は知られていないようだった。佐川の口から一度だけ出た佐伯組の名前。その時は気にもかけていなかったが、まさかこんなところで繋がるとは。情報を得たので、男への接触方法を考える。会員制と聞き、繋がるのは名前を出した佐川。しかしあの男に知られるのは不味い。仕方なく道ゆく人に尋ね回る。何人かの人に尋ねるも、佐伯の名は知っていても、場所は知らないらしい。
「ああ、あそこの人か!店の場所は知ってるけどねぇ」
聞き込みを続けヒットするも、やはり会員となるとハードルは高いらしい。ひとまずその場所を聞き、店の前までやってくる。蒼天堀飲み屋街の裏路地、真島の行った事のない場所にそれはあった。騒がしい場所から浮くような白い壁に淡いオレンジ色のライトで照らされる木製の扉。看板もないその店の扉をゆっくりと開ける。
来店を知らせるベルの音が小さく鳴ると、カウンターにいる店員がこちらを見る。
「すみませんが、一見様は……」
店員が入ってくる真島を止めにこちらに近寄ると、真島の顔を見て立ち止まる。
「失礼しました……グランドの支配人、真島吾朗様ですね。ご案内します」
態度が変わった店員に少し戸惑うが、話が通っているらしい事が判ると、店員の後を追う。
スタッフルームを通り、軽い休憩室のような場所に通されると、そこには寛ぐ佐伯。
「親父、お連れしました」
「ああ、ありがとう」
さらに店員の態度が変わり、組員である事に驚く真島。
頭を下げた後、仕事に戻る組員を見送ると、真島に向き合う男。
「態々来てくれたんだ、よくうちが分かったね」
「……あんた有名人やで、よう極道やってバレてへんな」
少し呆れた顔をする真島。顎に手を当て髭をなぞりながら考える男は、
「そうか……周りのせいかな?」
自身のカリスマに少しも気付いていない様子。どこか抜けている男に、呆れを通り越して力が抜ける真島。
「あんたのせいやろ……ところであの話、信じてええんか」
まだ疑ってはいるが、前より態度が軟化した真島に気付くと、
「佐川さんにバレたくないんでしょ?それに、問題はそれだけじゃない……真島くんが思ってるより、この話は大きいんだよ」
先を見通すような視線を投げかける男。顔を顰めながら問いかける真島。
「どういう事や……あの娘狙って男達が動いとる。あんたは何を、どこまで知っとるんや?!」
「……それを言うには、俺も、組も、その件に命を賭けなきゃいけなくなる」
そんな事はさせられない、と眉を下げ笑う男に、益々訳が分からなくなる真島。
「うちだけで解決出来る事でもない問題だ……君が彼女を護ると言うなら、俺もそれに賭ける」
その発言に男には情報があり、自分達を守る意思がある事を悟る真島。
「よう分からんけど、あんたの気持ちは分かったわ……せやけど、こっちも納得させる時間が必要や。隠すにも今すぐは動けん」
真島の目に意思が宿った事を見届けると、男は頷き返事を返す。
「そうだね、待ってるよ」
男の言葉に頷き返すと、店を去っていく真島。その背中を優しく見守る男。
しかし、その隠れ家は使われる事はなかった。
伝える間もなく問題に直面する真島は、そのまま夜を越え、佐川から与えられた期日を超えた3日目を迎えてしまうのだった。
佐伯組事務所。
人目を忍ぶような、ひっそりとした極道事務所。組員は基本的にジャズバーにいる為、事務所自体を大きく構える必要はない。しかし、そこには膨大な量の情報が詰まっている部屋がある為、セキュリティを上げる必要があった。
情報の塊であるそこに立つ男。手に持つ資料には東城会の文字。誰かの顔写真とその詳しい情報が書き記されている。
ふと踵を返し、部屋を出ると何重にも鍵をかけ、丁寧に指紋も拭き取り、痕跡を消す。
組員達の出入りする部屋に戻り、何事もなかったように過ごす男。
そこにやってくる佐川。
「佐伯ちゃんいる?ちょっと呼んできて」
雑用の組員に声を掛けると、ずかずかと上がり込んで来る。慌てて後を追い、組長である佐伯を呼びにいくと、その様子に気付いていた男。
「ごめんね、今行くよ」
組員を下がらせ、1人で、毎度の如くいるだろうその部屋に向かう。
応接間として用意された部屋に、我が物顔で勝手に入り、ソファで寛ぐ佐川の姿。男の姿を見ると身を乗り出し、まあ座れよ、と対面のソファに促す佐川。
「私の事務所ですけど……まあいいでしょう。で、どうしたんですか?佐川さん」
膝に肘を突き、前傾姿勢を取る佐川の視線は鋭い。
「お前さぁ、真島ちゃん唆したろ?お陰でこっちは殺さなきゃいけなくなっちゃったよ……どうしてくれんの?」
「さぁ、どういう事でしょう?」
薄ら笑いでとぼける男に眉間の皺が濃くなる佐川。
「言ったろ、お前の理解者は俺だって……なぁ、どう落とし前付けるんだ?」
そう言うと、ソファから立ち上がり、懐から銃を取り出すと男の額に向ける佐川。
両手を上げ、降参の姿勢を見せるも、顔に余裕がある男の様子に舌打ちをする。
「うちに銃じゃ敵いませんよ……理解者の貴方なら解ってる筈だ」
言いながら、部屋の外で待機している臨戦体勢の組員達を下がらせる。
銃を下ろすと、どかりとソファへ座り直す佐川。ソファの背に回した腕に銃を持ったまま、手首を回して弄ぶ。
「あーあ、お前のせいでまた余計な仕事が増えちゃったよ。これが終わったらくれるんだろうな……?ご褒美」
と、卑しく笑う佐川に少し困り顔の男。
「うちは極貧事務所なんで、そんなに高い物は……」
男の発言に鼻で笑う佐川。大袈裟に首をのけ反ると、
「馬鹿だねぇ!お前は……そんなに俺に遊ばれたいの?」
銃を握ったまま前傾姿勢に戻り、ニヤリと笑う佐川。銃口はしっかり男に向いている。
男を射抜くように見つめるその視線から、微笑みながら目を逸らす。空気を変えるように、視線を戻し発言する男。
「情報ですか?それとも武器?」
「それを俺に言わせていいのか?」
笑いながら銃口を向ける佐川に、降参と言わんばかりに両手を上げ、肩を竦める。
「ま、それは最後の楽しみにとっておくか……今から後始末だもんな」
じゃあな。楽しみにしておくよ……と言葉を残し、銃口をだらりと下ろして懐にしまうと、ソファから立ち上がり事務所を後にする佐川。
黙って背中を見つめる男は、佐川が見えなくなると、真島が間に合わなかった事に頭を悩ませる。腰に手を当て、頭を抱えて溜まった息を吐き出すのだった。