死に損ないの献身
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キャバレーグランドのバックヤード、華やかな店内とは裏腹な事務所で、夜の帝王こと支配人真島が営業中唐突に現れた佐川を接待していた。
「こんな時期になんでっか、オーナー」
いつものように灰皿を置き、保温機からおしぼりを取り出す。
佐川が席につき開口一番言い放った。
「ここで扱いてやってほしい女がいんだけどよ、今日から入れるから」
やはり碌なことにならない、と思いながら話を返す。
「何無茶な事言うとんのや、うちには新人入れる余裕なんかないで」
「そりゃそうだよなあ、教育に時間がかかるし人手が足りねぇ、売り上げは下げたらまずい。……でもオーナーの言う事は聞かねぇとなぁ」
足を組み背もたれに肘をたて、こちらを見上げるオーナーの姿。
足元を見られ、内心舌打ちをしたい気持ちを抑える。
「……せめて、面接でもさせてくれんか」
少し不満げな顔を隠しもせず佐川に問う。
おう、いいぞ、と気前よく返ってくる返事に絶対何か裏があると思案する。
「この後にでも呼んできてやるよ」
と、妙にご機嫌な佐川の顔を尻目に、これはいよいよ何かあるかもしれないと頭を抱えそうになった真島。
「因みに源氏名は『都(ミヤコ)』な。理由は会えば分かるんじゃねえか?」
と言い去っていく佐川。佐川直々に源氏名をつける事は過去にない。よほどの女がくると直感し身震いする真島だった。
今日の営業を終え、看板の電光を消し戸締りをし帰ろうかというところにその女は現れた。
「すみません、終わっちゃいましたか?」
もはや日が上り明るくなる時間である。今日という日はとっくに終わり日付は翌日だ。
「……なんや、あんたが言うてた『ミヤコ』か」
「?」
不思議な顔をする『ミヤコ』。
あの佐川のやる事だ。この女も振り回されているのかもしれないと考え、仕事を終えた後の倦怠感が残る体で対応を考える。
「こんな時間になってしまってすみません、挨拶だけでも、と思って」
「佐川はんから話は聞いてるんか?」
「ええ、唐突だったんで吃驚しましたが」
微笑を湛える女。一見してこれから夜職に勤めるとは思えない落ち着いた風貌。
「……まあええ、道の真ん中でなんやし中入ろか」
今し方締めた店を開ける真島。後ろに女の気配を感じながらホールに向かう。
「すまんが今閉めたとこでな、ホールでええか?」
「少しのつもりだったのに、態々ありがとうございます」
丁寧に頭を下げる女。些かの恭しさが距離を感じさせる。ここは緊張をほぐすべきか。
「気にせんでええ、来てもらうにしても軽い面接位はするつもりやったんや」
そうでしたか、と頭を上げる女。そこ、座りやと席を案内する。真島が席に着くと女も席に座る。
「ほな、始めよか」
「よろしくお願いします」
始めるいうても雑談やけどな、と前置き。場を明るくさせる様な声音。緊張をほぐすつもりの様だ。
「まず、オーナーからはどれくらい話聞いとるんや?」
「ここに通って客相手に酒出したらいい、って」
「説明が雑やな……」
佐川に呆れる真島。
「酒出すいうても、酔っ払いやゲスの相手もすんねんで?分かっとるんか?」
少しキツめな問いかけをする。客の応対で一番最初に被害がいくのはキャストだからだ。
「大丈夫です、そういうの慣れてますから」
微笑は変わらずだが、声から温度が消え空気が少し冷えたような感じがする。踏み込ませない何かがある、と思わせる感覚。佐川が連れてきた女だ、深い事は聞かない方がいいだろう、藪蛇だ。
「……そうか、脅すつもりはなかったんやが……まぁうちはお触りも禁止や、危険も他に比べれば少ないやろ」
敢えて触れない事にした。
話題を変え空気の転換を試みる。
「酒とかどうなんや?うちは売り上げ重視で結構出るんやけど、いけるんか?」
「まぁまぁいける口ですよ」
女の声に先程の冷たさはない。少し安堵する真島。
「後は、キャストと仲ようやれるか?女の子は気難しゅうて、キャスト同士よお揉めんねん。そこら辺、上手くやってくれるとありがたいねんけど」
チラリと本音を出す真島。佐川が連れてきたとて人手が欲しいのも事実。背に腹は変えられないので出来れば上手くやって欲しいところである。
「女性の多い場所にいた事もあるので大丈夫だと思います」
「そうか、因みに源氏名は佐川はんが『都(ミヤコ)』って言うとったが、なんかあるんか?」
「それ不思議なんですよね、私田舎臭いって言われてたのに……」
なるほど、と佐川のお遊びに付き合わされている女を不憫に思う真島。
どんな女がくるか構えていた真島にしたら、思っていたよりはまともに返答をする女でよかったという安堵が宿る。多少は使い物になりそうだ。これなら大丈夫だろうと楽観視する真島であったが、この女を何故佐川が連れてきたのか、真の目的を知ることになるのは先のことだった。
「こんな時期になんでっか、オーナー」
いつものように灰皿を置き、保温機からおしぼりを取り出す。
佐川が席につき開口一番言い放った。
「ここで扱いてやってほしい女がいんだけどよ、今日から入れるから」
やはり碌なことにならない、と思いながら話を返す。
「何無茶な事言うとんのや、うちには新人入れる余裕なんかないで」
「そりゃそうだよなあ、教育に時間がかかるし人手が足りねぇ、売り上げは下げたらまずい。……でもオーナーの言う事は聞かねぇとなぁ」
足を組み背もたれに肘をたて、こちらを見上げるオーナーの姿。
足元を見られ、内心舌打ちをしたい気持ちを抑える。
「……せめて、面接でもさせてくれんか」
少し不満げな顔を隠しもせず佐川に問う。
おう、いいぞ、と気前よく返ってくる返事に絶対何か裏があると思案する。
「この後にでも呼んできてやるよ」
と、妙にご機嫌な佐川の顔を尻目に、これはいよいよ何かあるかもしれないと頭を抱えそうになった真島。
「因みに源氏名は『都(ミヤコ)』な。理由は会えば分かるんじゃねえか?」
と言い去っていく佐川。佐川直々に源氏名をつける事は過去にない。よほどの女がくると直感し身震いする真島だった。
今日の営業を終え、看板の電光を消し戸締りをし帰ろうかというところにその女は現れた。
「すみません、終わっちゃいましたか?」
もはや日が上り明るくなる時間である。今日という日はとっくに終わり日付は翌日だ。
「……なんや、あんたが言うてた『ミヤコ』か」
「?」
不思議な顔をする『ミヤコ』。
あの佐川のやる事だ。この女も振り回されているのかもしれないと考え、仕事を終えた後の倦怠感が残る体で対応を考える。
「こんな時間になってしまってすみません、挨拶だけでも、と思って」
「佐川はんから話は聞いてるんか?」
「ええ、唐突だったんで吃驚しましたが」
微笑を湛える女。一見してこれから夜職に勤めるとは思えない落ち着いた風貌。
「……まあええ、道の真ん中でなんやし中入ろか」
今し方締めた店を開ける真島。後ろに女の気配を感じながらホールに向かう。
「すまんが今閉めたとこでな、ホールでええか?」
「少しのつもりだったのに、態々ありがとうございます」
丁寧に頭を下げる女。些かの恭しさが距離を感じさせる。ここは緊張をほぐすべきか。
「気にせんでええ、来てもらうにしても軽い面接位はするつもりやったんや」
そうでしたか、と頭を上げる女。そこ、座りやと席を案内する。真島が席に着くと女も席に座る。
「ほな、始めよか」
「よろしくお願いします」
始めるいうても雑談やけどな、と前置き。場を明るくさせる様な声音。緊張をほぐすつもりの様だ。
「まず、オーナーからはどれくらい話聞いとるんや?」
「ここに通って客相手に酒出したらいい、って」
「説明が雑やな……」
佐川に呆れる真島。
「酒出すいうても、酔っ払いやゲスの相手もすんねんで?分かっとるんか?」
少しキツめな問いかけをする。客の応対で一番最初に被害がいくのはキャストだからだ。
「大丈夫です、そういうの慣れてますから」
微笑は変わらずだが、声から温度が消え空気が少し冷えたような感じがする。踏み込ませない何かがある、と思わせる感覚。佐川が連れてきた女だ、深い事は聞かない方がいいだろう、藪蛇だ。
「……そうか、脅すつもりはなかったんやが……まぁうちはお触りも禁止や、危険も他に比べれば少ないやろ」
敢えて触れない事にした。
話題を変え空気の転換を試みる。
「酒とかどうなんや?うちは売り上げ重視で結構出るんやけど、いけるんか?」
「まぁまぁいける口ですよ」
女の声に先程の冷たさはない。少し安堵する真島。
「後は、キャストと仲ようやれるか?女の子は気難しゅうて、キャスト同士よお揉めんねん。そこら辺、上手くやってくれるとありがたいねんけど」
チラリと本音を出す真島。佐川が連れてきたとて人手が欲しいのも事実。背に腹は変えられないので出来れば上手くやって欲しいところである。
「女性の多い場所にいた事もあるので大丈夫だと思います」
「そうか、因みに源氏名は佐川はんが『都(ミヤコ)』って言うとったが、なんかあるんか?」
「それ不思議なんですよね、私田舎臭いって言われてたのに……」
なるほど、と佐川のお遊びに付き合わされている女を不憫に思う真島。
どんな女がくるか構えていた真島にしたら、思っていたよりはまともに返答をする女でよかったという安堵が宿る。多少は使い物になりそうだ。これなら大丈夫だろうと楽観視する真島であったが、この女を何故佐川が連れてきたのか、真の目的を知ることになるのは先のことだった。