狂気のカケラ
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お前のおとんは死んだ。
親代わりのビリケンさんにそう聞かされた。
留置場で撃たれたビリケンさんはおとんの最期に居合わせたらしい。病院に見舞いに行くと、痛む筈の体に鞭打ち、嗚咽を漏らしながら頭を下げるビリケンさんに放心する。思い返すのは真島くんに出会ったあの時だった。
真島に出会い、時間を共に過ごした後、一時的にビリケンの元へ身を寄せ、父親の元へ向かおうとしたところを止められた。
「おとんには会わん方がええ、お前の為なんや」
「なんで?おかんはおとんに頼れって……」
「なんでもへったくれもあらへん、今からお前の親はワシや」
有無を言わさず少女を引き取ると、世話を焼くビリケン。嘗て、ビリケンには娘がいたと聞いた事がある。男手一つながらに立派に育て上げたと言う娘の仇を、父親である西谷が取ったという話を母親から聞いていた。
「お前のおとんはね、そりゃもうおかしくってかっこよかったのよ」
と、当時の母親は語っていた。
ビリケンは西谷の最期に、その真島と会わせていたという事を白状する。真島を庇い、死んだ父親。子供である自分以上に泣きじゃくるビリケンに返って冷静になる頭。背中を摩り、真島に報告に行くというビリケンの手助けをする。
公衆電話の前にビリケンを残し、1人考える。
初恋の相手を庇い、死んでいった父親。娘という自らの存在も知らずに、自分の生き方を貫いた男。小学生の小さな頭では、大人の考える真理に辿り着けない。しかし、ビリケンの目がなくなった事で箍が外れ、目から涙が吹き出す。蹲り、声を上げ泣きじゃくる少女。病院では日常茶飯事な事なのだろう、気に掛けられる事もなく思うがままに感情を発露するのだった。
あれから十数年の時が経つ。
母の行方は知れず、ビリケンを弔い、孤独となった少女は、あの日真島の言っていた赤いルージュを口に乗せていた。
鏡に映る自分の姿を満足げに見つめ、服を整える。女の念願の日がやってきた。
「待っててや……真島くん」
ビリケンを弔った後、独りになり考える時間が増えた。置いていった母の事、死んでしまった父の事、育ててくれたビリケンの事、そして西谷の庇った、初恋の真島の事。
一度は諦めようとしたその想い。ビリケンの最期をみた事で立ち返るきっかけになった。
最初は複雑な心境だった。
母の言っていた、父はおかしくてかっこいい、という言葉に、真島を庇い死んだ父である西谷への感情が先にやってくる。ビリケンから父の悪行を聞いていない娘は、まともに姿を見た事もない写真だけの父の姿を思い描き、段々と母以外の要素が入る顔に、父親であった事をじわじわと実感すると同時に愛情が湧く。
そして相反するように湧く、庇って撃たれた父を放心して見ていて、見捨てた真島への恨み。かつての初恋だった男に宿った黒い感情に驚く。真島が隠し子の真実に辿り着いているか否か、そんな事は関係なく湧いて出た黒く醜い感情に蓋をした筈が、何年の時を経て思い返す内に次第に初恋の真島への愛おしさと、父を見捨てた憎らしさが絡まり合い、真島への執着へ変わる。執念で真島を調べ上げ、遂に神室町にいる事を突き止める。
「今頃、どう思ってるんやろか……」
生娘のような気持ちがよぎるも、頭を振り、取り払う。一度も染めた事のない、艶やかな黒髪を整え神室町へ向かう女。
都会のネオンに負けない女の芯の強さを魅せながら新宿の街を歩く。
神室町天下一通りのゲートを潜ると、そこに真島が居た。
「真島くん!」
一際大きな声で呼び掛ける。声に気付き振り返る彼の姿に満面の笑みを浮かべる女。近くに駆け寄り、真島の顔をひしと見つめる。
怪訝な顔をする、姿の変わった真島に笑いかける女。
「赤い紅が似合う女になったよ」
マコトとカラの一坪のによる東城会の覇権争いの件が収まって尚、真島の心に巣食うものがあった。西谷の隠し子の件だ。名前も知らない少女。マコトの件以降、蒼天堀から引き上げてしまい少女の事は気に掛ける事ぐらいしか出来ず、調べる事もままならないまま神室町へ戻った。
嶋野の下で真島組が出来ると、即座に少女の事を調べ出す。
しかし、ビリケンが亡くなり彼の庇護下から離れた少女は行方が知れなくなっていた。
不完全燃焼だ。モヤモヤしたものが胸の内を覆う。片時も忘れないまま時は経った。
そんな折、桐生一馬が出所すると聞き出迎えに行こうとセレナのある天下一通りを通っていると、女から名指しで声をかけられる。手下を連れていた手前、面倒やなと振り返るとそこには、赤いルージュを目立たせるようなメイクをした、芯の強そうな女性。
思わず、こんな知り合いおったか、と怪訝な顔をすると、
「赤い紅が似合う女になったよ」
その一言で、あの頃の記憶がどっと押し寄せるように蘇る。西谷の顔に、女の顔が重なった。
あの時の少女だ。ようやっと会えた西谷の隠し子は、すっかり様変わりしていた。
一気に押し寄せる様々な感情。
第一声を迷っていると、その少女はあの頃の面影を残したままだが、女の色をした顔で真島を見透かす。
その少女の顔に、真島は自分が向き合うべき少女の命運を握っている事に気付き、西谷に似た狂気を孕ませた女と自身の、歪な未来を悟った。
親代わりのビリケンさんにそう聞かされた。
留置場で撃たれたビリケンさんはおとんの最期に居合わせたらしい。病院に見舞いに行くと、痛む筈の体に鞭打ち、嗚咽を漏らしながら頭を下げるビリケンさんに放心する。思い返すのは真島くんに出会ったあの時だった。
真島に出会い、時間を共に過ごした後、一時的にビリケンの元へ身を寄せ、父親の元へ向かおうとしたところを止められた。
「おとんには会わん方がええ、お前の為なんや」
「なんで?おかんはおとんに頼れって……」
「なんでもへったくれもあらへん、今からお前の親はワシや」
有無を言わさず少女を引き取ると、世話を焼くビリケン。嘗て、ビリケンには娘がいたと聞いた事がある。男手一つながらに立派に育て上げたと言う娘の仇を、父親である西谷が取ったという話を母親から聞いていた。
「お前のおとんはね、そりゃもうおかしくってかっこよかったのよ」
と、当時の母親は語っていた。
ビリケンは西谷の最期に、その真島と会わせていたという事を白状する。真島を庇い、死んだ父親。子供である自分以上に泣きじゃくるビリケンに返って冷静になる頭。背中を摩り、真島に報告に行くというビリケンの手助けをする。
公衆電話の前にビリケンを残し、1人考える。
初恋の相手を庇い、死んでいった父親。娘という自らの存在も知らずに、自分の生き方を貫いた男。小学生の小さな頭では、大人の考える真理に辿り着けない。しかし、ビリケンの目がなくなった事で箍が外れ、目から涙が吹き出す。蹲り、声を上げ泣きじゃくる少女。病院では日常茶飯事な事なのだろう、気に掛けられる事もなく思うがままに感情を発露するのだった。
あれから十数年の時が経つ。
母の行方は知れず、ビリケンを弔い、孤独となった少女は、あの日真島の言っていた赤いルージュを口に乗せていた。
鏡に映る自分の姿を満足げに見つめ、服を整える。女の念願の日がやってきた。
「待っててや……真島くん」
ビリケンを弔った後、独りになり考える時間が増えた。置いていった母の事、死んでしまった父の事、育ててくれたビリケンの事、そして西谷の庇った、初恋の真島の事。
一度は諦めようとしたその想い。ビリケンの最期をみた事で立ち返るきっかけになった。
最初は複雑な心境だった。
母の言っていた、父はおかしくてかっこいい、という言葉に、真島を庇い死んだ父である西谷への感情が先にやってくる。ビリケンから父の悪行を聞いていない娘は、まともに姿を見た事もない写真だけの父の姿を思い描き、段々と母以外の要素が入る顔に、父親であった事をじわじわと実感すると同時に愛情が湧く。
そして相反するように湧く、庇って撃たれた父を放心して見ていて、見捨てた真島への恨み。かつての初恋だった男に宿った黒い感情に驚く。真島が隠し子の真実に辿り着いているか否か、そんな事は関係なく湧いて出た黒く醜い感情に蓋をした筈が、何年の時を経て思い返す内に次第に初恋の真島への愛おしさと、父を見捨てた憎らしさが絡まり合い、真島への執着へ変わる。執念で真島を調べ上げ、遂に神室町にいる事を突き止める。
「今頃、どう思ってるんやろか……」
生娘のような気持ちがよぎるも、頭を振り、取り払う。一度も染めた事のない、艶やかな黒髪を整え神室町へ向かう女。
都会のネオンに負けない女の芯の強さを魅せながら新宿の街を歩く。
神室町天下一通りのゲートを潜ると、そこに真島が居た。
「真島くん!」
一際大きな声で呼び掛ける。声に気付き振り返る彼の姿に満面の笑みを浮かべる女。近くに駆け寄り、真島の顔をひしと見つめる。
怪訝な顔をする、姿の変わった真島に笑いかける女。
「赤い紅が似合う女になったよ」
マコトとカラの一坪のによる東城会の覇権争いの件が収まって尚、真島の心に巣食うものがあった。西谷の隠し子の件だ。名前も知らない少女。マコトの件以降、蒼天堀から引き上げてしまい少女の事は気に掛ける事ぐらいしか出来ず、調べる事もままならないまま神室町へ戻った。
嶋野の下で真島組が出来ると、即座に少女の事を調べ出す。
しかし、ビリケンが亡くなり彼の庇護下から離れた少女は行方が知れなくなっていた。
不完全燃焼だ。モヤモヤしたものが胸の内を覆う。片時も忘れないまま時は経った。
そんな折、桐生一馬が出所すると聞き出迎えに行こうとセレナのある天下一通りを通っていると、女から名指しで声をかけられる。手下を連れていた手前、面倒やなと振り返るとそこには、赤いルージュを目立たせるようなメイクをした、芯の強そうな女性。
思わず、こんな知り合いおったか、と怪訝な顔をすると、
「赤い紅が似合う女になったよ」
その一言で、あの頃の記憶がどっと押し寄せるように蘇る。西谷の顔に、女の顔が重なった。
あの時の少女だ。ようやっと会えた西谷の隠し子は、すっかり様変わりしていた。
一気に押し寄せる様々な感情。
第一声を迷っていると、その少女はあの頃の面影を残したままだが、女の色をした顔で真島を見透かす。
その少女の顔に、真島は自分が向き合うべき少女の命運を握っている事に気付き、西谷に似た狂気を孕ませた女と自身の、歪な未来を悟った。