黒子のバスケ
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今まで女の子に振られたことはないっス。って自信満々に言ったら、笠松先輩に思い切り蹴りを入れられた。中学の時のチームメイトには「うざい」って言われた。もー! みんな俺のことなんだと思ってるんスかー!! ってぷんすかしてみたら黒子っちにまで「黄瀬くん、あざとさはもういいです」と冷たい顔で笑われた。……でも、ほんとのことだから仕方なくないスか? とか言ってみる。
昔から結構モテたけど、最近はモデルの活動にも力入れてたりするから、それはもう前の比じゃないくらいモテる。俺を好きだって言ってくれるのは嬉しいし、休みの日でも、遠方でも、わざわざ応援に来てくれる女の子達にい良いプレーを見せることで少しでもお礼になったらなあと思う。
だけど正直なところ、いくら好きだって言われても所詮はギャラリーの一人に過ぎなくて。好き好きって言ってくれるけど、結局俺のどこが好きなのか分かってないんないんでしょ? って気持ちもあって。俺は、そういう皆のことはきっと好きになれない。……だけど眠々子っちだけはそんなじゃない。他の人とは違うんだって、そう思ってた。
***
ある日の放課後。数学の補習を受けて皆より1時間ほど遅れて教室を出た。最近は補修とか練習とかモデルの仕事が忙しくて全然眠々子っちと一緒に帰れていない。これは深刻な眠々子っち不足っスね……なんて考えながら階段を降りかけたとき、耳に飛び込んできたのはすごく聞きなれた声。
「それでね!」
眠々子っちの声だとすぐに気付いた。ちょうど会いたかったんスよ~! って階段を駆け下りようとしたところでぴたりと足を止める。眠々子っちが俺の名前を口にしたからだ。
「この前黄瀬くんがね!」
どうやら友達と話してるらしい眠々子っち。別に盗み聞きするつもりなんてなかったけれど、俺のどんな話をしてくれるのかなってわくわくしてきて、壁にもたれ掛かって本格的に耳を傾ける。「大好き」とか言ってくれたら「俺のほうがもっとすきっスよ!」って思わず飛び出してしまうかも、なんて思っていたら。
「いつも話してる時もね、黄瀬君見てたらほとんど話が頭に入ってこないんだよね……!」
「何それ、しっかりww」
「黄瀬君がかっこよすぎてどうしたらいいか困るんだよ……」
「贅沢な悩みだね。まあ確かにかっこいいと思うけど、なんてったってあの黄瀬涼太だもんねぇ」
「でしょでしょ!?」
「ねぇ、眠々子は黄瀬君のどこが一番好きなの?」
あ、それは俺も聞きたいと思ってたんスよ! 眠々子っちの友達ナイス! って隠れてることも忘れて思わずパチンと指を鳴らした。
「えー、悩むなあ……」
「えー?」
「めっちゃ悩む……けど……」
けど、なんスか眠々子っち! 早く早くーって眠々子っちにパワーを送っていたら「なんか今物凄い圧を感じた」という眠々子っちの友達に見つかりそうになった。眠々子っちの友達勘が良すぎる。
「……やっぱ、顔かなあ……」
眠々子っちの答えに思わず階段から滑り落ちそうになった。
***
「眠々子っちも他の女の子達と同じなんスか?」
「え?」
「俺のこと、そんな風に思ってるんスか?」
よせばいいのに、どうしてもショックで眠々子っちが友達と別れて一人になったのを見て、気付いたら眠々子ちに直接尋ねていた。
ええ! きーちゃんなんでそれを……!? とめちゃくちゃ慌てる眠々子っちを見て、こんな質問するなんて少し可哀相かなと思ったけど、今更引き下がれもしなくて。
「正直……ショックだったんスよ。眠々子っちだけは違うって思ってたのに……」
何か弁解してくれるといいな、と祈るような思いで言葉を続けた。だけど眠々子っちは何も反論しないから、ああほんとにそれだけだったんだ、って。結局は顔だけで群がってきた他の奴と変わりないんだって、ショックで打ちのめされた。
「眠々子っち……俺……」
「ち……ちがうよっ!!!!」
突然大きな声を出した眠々子っち。
「私はきーちゃんの顔が好きなんじゃないもん!!」
「でもそう言ってたじゃないスか……」
「あれには理由があるの!」
でもそんなの言ってくれないと分らないし、と俺は溜め息をついた。それを見た眠々子っちは小さな手をぎゅっと握り締めた。
「私は、もしきーちゃんの顔が今と全然違ってても好きだよ! だってどんな顔でも、きーちゃんはきーちゃんだもん! 私はきーちゃんの優しいところが好きだから……すっごい優しくて明るくて、他の人まで元気になるような……そういうところが好きなんだもん……顔が一番好きだとか、あんなの嘘だもん……」
顔を真っ赤にして一生懸命訴える眠々子っちを見ていると、ああ俺はやっぱ眠々子っちのことが大好きなんだって思い知らされる。
「もういいんスよ眠々子っち」
そう言って眠々子っちの顔を覗き込む。
「良くないよ……だってきーちゃんは全然分ってないもん……私がどれだけきーちゃんを好きかって……きーちゃんは顔だけじゃないんだって……。顔なんか何だっていいもん、むしろきーちゃんの顔嫌いだし! うん、そうだ、嫌い! 大嫌い!」
「いや、それは言い過ぎじゃないスか!?」
必死すぎてワケわかんないこと言い出す眠々子っちはすごい可愛くて。
「眠々子っち、ちょっと階段登ってほしいんスけど……」
「……え?」
「ほら、上がって上がって」
不安そうな顔をして、言われた通りにする眠々子っち。一段上がってもまだまだ俺の目線の下のほうにいる眠々子っち。「何……?」って不安そうに見上げてくるのがほんとに可愛いからもうそのまま抱きしめたくなる。でもそれを我慢して。
「うーん。あと二段くらいっスね……」
「え? え?」
「早く早く」
「う、うん……」
三段目を上がってようやく同じ目線になる。てことは、眠々子っちは階段三段分くらい下の景色をいつも見てるわけなんだ。自分の世界とは違い過ぎて驚いた。俺は眠々子っちのことは何でも分ってるつもりでいたけど、実は何にも分かってなかったのかもな、なんて何だか呆れて笑ってしまう。
「きーちゃん……?」
「あ、でもやっぱ違うっスね……」
「……?」
やっぱもう一回降りてほしいんスけど……っていったら眠々子っち、めんどくさいなあって顔した。ほんと分かりやすい。だけど気にせずに眠々子っちの両手をひっぱって、同じ所まで来てもらって。うん、やっぱこれが一番しっくりくる。俺は眠々子っちの顔を覗き込んで問いかける。
「で? 結局、俺の顔好きなんスか眠々子っち」
「……っ」
「見なくていいんスか?」
「……い、いいっ!!」
「じゃあなんでさっき友達に顔が好きだなんていったんすかもぉー! 俺すんごいショックで階段から落ちそうになったんスよ眠々子っちー」
「だって……きーちゃんのいいところ教えたくんかったから……」
「えー?」
「きーちゃんただでさえモテるのに! 顔だけじゃなくて性格もいいんだよって言ったら、もっと……人気になっちゃうじゃん……」
「そんなこと気にしてたんスか?」
「そんなことって……」
「だってもしそうなることがあったとしても、俺が眠々子っちを好きだったらそんなの全然関係なくないっスか?」
「……」
「それとも眠々子っちは、俺のことは信じられないって思うんスか」
「……」
眠々子っちはぎゅうっと両手を握り締めたかと思うと、キッと強い目をして俺を見上げた。
「きーちゃん!」
「はいっス!」
「……ばか!!」
ぺしりと胸のあたりを叩かれた。
「はぁーもう! 痛いっスよ眠々子っちー」
「きーちゃんが悪いんでしょ! もう知らない!」
「えー? 何で俺なんスか!?」
黄瀬くん黄瀬くんっていうのは聞き飽きた。誰に呼ばれてるのかも分からないから。
でもいつでも「きーちゃんきーちゃん!」ってぶんぶん手振りながら走ってくるのは、この学校に眠々子っち一人しかいない。
「眠々子っち」
「なに……」
俺はすごくすごく膝を曲げて。そうしてやっと見えるようになる眠々子っちの表情。すぐに耳まで真っ赤になるの、ほんと可愛い。
眠々子っちは、俺のことを優しいっていうけど。ほんとはそうでもないんスよ。俺は、好きでもない女に優しくできるほど人間できてないし、俺が好きなのは眠々子っちしかいないから、てことは俺が優しくできる相手は世界に一人しかいないってことになるっスよね? あれ、何言ってるのかよく分んないっスね……。
まあ、とにかく。
「大好きなんスよ、眠々子っち」
俺も眠々子っちもまだまだ子供で、些細な事ですれ違ったりこんな風に回り道しかできないけど。それでもいいって思ってるんスよ。
きーちゃんの周りには私より可愛くて綺麗な人がいっぱいいるのに……って、よく眠々子っちは拗ねてるけど。
そんなの、みんなただの
(かわいいだけのひと)
眠々子っちは、それだけじゃないんスよ。
・2012年にforestpageで公開分