黒子のバスケ
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昔から人に気付かれずに授業を抜け出すのは得意だった。
息をするように自然に席を立って、教室を出る。用が済んだらまた教室へ戻って、澄ました顔して元通り席につく。そこで初めて私がいなかったことを皆が知るのだ。
別にこっそり出てったつもりはなかったのに「えっ!? 眠々子いつからいなかったの!?」と中学校の頃の友人によく驚かれたものだ。私だって幻のシックスマンになれるのではないかと、本気で思うことがある。バスケ始めようかな。
私が授業の途中で抜けるのは、別に大した理由があるわけじゃない。
大抵はお弁当忘れたから買いにいくとか、消しゴム無くなったから買いにいくとか、温かいものが飲みたいから買いにいくとか。
別に後でいいといわれたらそうなんだけど、私は思い立ったらすぐいきたい派なのだ。
そんな時、3回に1回……いや、3回に2回は、授業に戻るのが怠いなあという気持ちになる。
どれだけ上手く席につくことができたって、座ってしまえばまたそこから面白くもない話を延々と聞かなければいけない。何という苦行か。まさしく地獄ここに極まれりだ。
そして今日がその3回のうちの2回のうちの1回……いやちょっともう自分で何言ってるか分からん。
まあとにかく、サボりたい日だった。
昇降口近くの自動販売機でバナナミルクを買って、ふと空を見上げたら、今からまた授業に戻るのが心底嫌になった。そう思った時は、自分の心に正直に。私は迷わず進路を変えることにしている。
階段をどんどん上に進んでいって、アホみたいに重たいドアを押し開ければ、清々しい秋晴れの空が広がっていた。
「おー、天気いいなー」
青春ぽく空を眺めてみたのも束の間、強めの風に髪が全部持ってかれそうになるのを両手でおさえる。
「いや、風強すぎやろ。空気読めよ」
寒くはないけど、とにかく強風だった。ばさばさと暴れるスカートよりも、昨日美容院でカットしてもらったばかりの髪ばかりに集中していたら、突然背後から声がした。
「おいおい……んなとこ立ってっとパンツ見えんぞ」
物凄く不愉快な発言をされてすぐさま振り返ったら、怠そうに欠伸する男が1人。
「うわ……青峰うざ……」
「ああ? せっかく教えてやってんのに……なんだぁその態度は」
「うっさいな。別に頼んでないし」
「ああそーかよ」
かわいくねぇな、と舌打ちして青峰はコンクリートにごろりと寝転んだ。一番ぽかぽかしてて居心地いい場所を心得てるあたりが青峰らしいなあと思う。サボりも慣れたもんですねって感じだ。まあ人のこと言えないんだけど。
「青峰」
「あ?」
「部活楽しい?」
「……んなこと聞くなよ」
「さつきが心配してたよ」
「あっそ」
こんな話がしたいわけじゃない。
さつきが心配してる、じゃなくて、私が心配なんだよって。
「お前、何が言いてえんだよ」
「別に……」
「……気に入らねぇって面してんじゃん。何か思ってんなら言えよ、めんどくせぇな」
「別にそんなつもりないけど……」
それでもあえて、あえてこの気持を言葉にするんだとしたら。
「ただ、今の青峰は嫌い、ってくらいかな」
もっと柔らかくてきれいな言葉で、接することができたらいいのに。
今の青峰は嫌い。だけど、前の青峰は、好きだった。
いっつもそうだ。一番大事な言葉を伝えようとして、戸惑って、全力でぶつけることしか出来ないから。
(空中分解)
いつまで経っても届かない。
・2012年にforestpageで公開分
お題配布元「確かに恋だった」様