黒子のバスケ
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「たまにデレを見せられたときのあの何ともいえない喜び、そし興奮。それがあるから真ちゃん揶揄うのをやめられないんだよね~」
と、高尾は言った。
それこそがツンデレを好きになる醍醐味ってやつらしい。あいつMなのかな。
ツンデレはガードがかたいけど、それでも押せ押せでいったらすごく可愛い反応してくれるんだ、と。普段素っ気ない子が顔真っ赤にして照れてるとことかまじやばいよね、って嬉々として語る高尾にちょっと引いた。「へ、へえ……そうなんだ?」と苦笑いしながら返したら「つか宮地先輩も典型的なツンデレじゃん?ww」って高尾に言われて私は衝撃を受けた。ほんとだ、先輩ってまさにツンデレそのものじゃないか。と同時に思う。まてよ……先輩って私にデレたことあるだろうか、いやない。
照れてる先輩まじ可愛いというよりも、毎回私の方が照れすぎて先輩の表情伺ってる暇ないというのも先輩のデレを引き出せない原因の一つなのかもしれない。
思えば高尾は緑間君がどんな反応をしようとも常に飄々とした態度を貫いている。だからこそあの緑間君の貴重なデレを見逃すことがないのだろう。そう考えると途端に高尾のことが羨ましくなってくる。……私だってツンデレを好きになった醍醐味を味わいたい……っ!!!
この前、中学の時の友達とメールしたら「私の先輩はいっつも私に可愛いねって言ってくれるんだ」と言っていた。まあその友達の先輩は帰国子女だから、宮地先輩のノリと違うのは分かるけど、それでも「好きだよ」くらいは言ってくれてもいいんじゃないですかと思うわけですよ。だって私、宮地先輩の彼女ですぜ。よく忘れそうになるけど。
***
体育館の入り口で先輩の練習が終わるのを不良の如くしゃがんで待つのが最近の私の日課だった。
今日の練習はいつにも増して長い。暇を持て余してた私は、皆の下の名前なんだっけゲームを始めてみる。
緑間……真ちゃん、高尾……は知らん。宮地先輩の下の名前は……。
「宮地清志……」
そう、清志。すごい綺麗な心もってそうな名前だよね、といつも思う。先輩の名前を呼び捨てにしたらどんな感じだろう? そんな考えが浮かんで私はにやりと笑う。……よし、ちょっと呼ばせてもらいます。
「清志」
と、実行した瞬間。
「お前今呼び捨てしただろ。パイナップルで殴る刑な」
本人が真後ろに居合わせた。何というバッドタイミング。
「……こーのよーるー♪」
「無理矢理つなげんな」
「や、やだなあ! ちょっとした遊びですよ! 先輩こそ私に下の名前呼ばれたからってそんな照れてなくても」
「照れてねぇよ。どこをどう見たらそういう解釈になんだよ」
「またまたぁ~。先輩ったら照れ屋さん」
「ははっ、そんなに埋められたいか。そうかそうか」
「うわっ! 冗談です! 冗談ですから!!」
軽いノリでからかってみただけなのに、先輩のが私の頬を摘んで引っ張るから、私は先輩の胸を押し返す。
え、でもちょっと待って。この状況結構萌えるのでは!? 先輩が私に触れてるなんて、ドキドキしすぎて心臓が痛いんですけど!
……なんて思う私もかなりヤバい。高尾のこと言えないな、と。
「お前こそ照れてんじゃねえの」
先輩が鼻で笑うから、ムキになって否定する。
「そそそそんなわけないですから!」
「ふん。お前ほんとガキだよな」
「ガキじゃないですから!!」
「あっそ。……じゃあ」
そう言って再び私の頬に手を伸ばす先輩。今度はつねるんじゃなくてそっと触れる。……今日の先輩、何? 殺人マシーンか何かですか? 恥ずかしくて死にそうなんですけど。
もうこのまま死んでもいいかも……なんて思ったけれど、何とか平静を装って真顔で先輩を見つめ返して「あらやだ、先輩の手冷たいですわね」と落ち着いた口調でそう言ってにっこり笑い返してみせる。
今日は私が照れてる場合ではないのですよ。何としてでも先輩のデレを引き出して、高尾と同じ楽しみを味わうんだから……!
眉を寄せて私を見てくる先輩。そんな顔したって全然怖くないもん。むしろそういう険しい顔もかっこいいとか思ってるし。だから私に怖いものなんてない。
「先輩、私が年下だからって馬鹿にしてるでしょう」
「おーもちろん」
「私と先輩は二歳しか違わないんですよ」
「でもお前、バカじゃん?」
なにおぉぉう!!! 先輩、いくらなんでもそれはひどい!!
先輩はそうやって私をバカにしたり子供扱いしたりするけど、私だってね! そりゃあ色々あるんですからね!!
「私のことガキ扱いしてる先輩に言っておきますけど、私チューしたことありますからね! 多分! もうファーストキッスは済んでますからね! 残念でしたぁ!」
「いきなり何言いだしてんだよ。しかも多分って何だよ」
仁王立ちして先輩を指さしてにっと笑う。
「えー? 先輩気になるんですかぁ? 仕方ないですねぇ……。あれはちょうど一年前……」
「いや聞いてねえ」
冷たい口調だ。だがきっとこれもツンなのだろう。ここからどうデレを引き出すか……全ては私のテクニックにかかっているのだと思うと自然と笑みが零れてくる。
私は先輩の反応に構うことなく語りを続けた。
「高校受験の勉強に励んでいたときの話です。私は当時付き合った人と家でテスト勉強していました。担任からは、このテストで良い点取れなかったら志望校のランクを下げろと言われておりまして、そりゃもう必死だったわけです。でも私ったら、徹夜続きだったから途中で寝ちゃって……」
苦い思い出がよみがえる。本当に辛い日々だった……。
いっぱい寝たいから家から一番近い高校に行きたい。その思いだけで第一志望を決めたら、それが秀徳高校だったのだ。
親にも先生にも止められた。私自身何度諦めようと思ったか分からない。毎日毎日寝る間も惜しんで勉強した。受験勉強で睡眠時間が足りなかった分は、秀徳高校に行けたら取り戻せる……! と夜中眠りそうになる自分の頬を叩いて、勉強しすぎでおかしくなった頭で考えたものだ。
「は? 勉強中に寝たのか? 俺なら絶対轢くわ」
「先輩はそうかもしれないですけど、その人は先輩みたいに怖い人じゃなかったんです! 優しい人……でした」
「故人みたいな雰囲気出すなよ。え、生きてんだよな?」
そう、本当に優しい人だった。
私から勉強に誘ったくせに開始早々爆睡かましても優しく上着をかけてくれるような、そんな人だった。
どれくらい眠っていたのかは分からない。ただハッと目が覚めた時に、彼の顔がすぐ目の前にあって——。
「その時に……!」
「なんでそうだって分かんだよ」
「だって明らかにそんな感じだったんですよ!?」
「いや違うな。うわ、こいつ涎出てる、きっしょって拭かれたとかじゃねーの」
「垂らしませんよ涎なんか!」
「はっ、どーだか」
馬鹿にした表情で笑う先輩に、私は必死に言い返す。
いやいや、絶対あれはそうだった。目瞑ってたから見てはないけど、感触的に絶対そうだ……と思う。あれ、それとも夢だったのかな……?なんか自信なくなってきた。
「んー、確かにこう……唇に……」
あの時の感じを思い出しながら、自分の指で触ってみたり、腕を当ててみたりと色々試しみるけれど、やっぱ違う。こんな感触じゃなかった。もっと柔らかくて、そっと触れるような感じだった。
けれどそれが本当に初チューだったとして、結局その後彼とは何の進展もなく、なんとなく付き合って卒業と同時に別れた。離れ離れになるのは寂しいと思ったけれど、それは友達に抱く感情と変わらないということにあの時初めて気が付いた。きっと彼も同じだと思う。私たちはかわいらしい恋人ごっこをしていたに過ぎない。
と、なると……やっぱりあれは初チューではなかったのではないかと思えてきた。優しい彼は涎をティッシュか何かで拭ってくれただけなのかもしれない。むっちゃ柔らかいティッシュで。私がファーストキスだと思っていた相手は実は鼻セレブだったのだろうか。……い、いやいやでもやっぱり……。
「あーっ! もううっぜーな!」
あれやこれやと試していたら、いきなりぐいっと引き寄せられて。
先輩、と声にする前に、視界が先輩の綺麗な金髪で染まる。先輩の長い睫毛がこんな至近距離で私の瞳に映るってことは……つまり、そういうことだった。
「これがキスの感触だよ、覚えとけ馬鹿」
なんかよく分からない台詞と共に、ふいとそっぽを向く先輩。その耳はりんごみたいに赤い。
え、ええー。もうにやにや抑えられないんですがこの感情を一体どうすれば……!?
頭抱え込んで唸っていたら、先輩が立ち上がる気配。
「ちょ……っ! え、ヤリ逃げですか先輩! ひどくないですか!?」
「おい! 紛らわしい言い方すんなよ!!」
「まだ勝負は終わってません!」
「うっせ。もう終わんだろ。つかまず何の勝負だよ」
「どっちが先にデレるか勝負に決まってるじゃないですか! 宮地先輩のデレを引き出すのが私の役目……!」
「くっだらねー勝負してる暇があったら勉強しろ? な?」
何言ってるんだ先輩! くだらないとは何だ! 勝負を途中で放棄するなんてそれでも男か! 人事を尽くすべきなのだよ! と、心の中で緑間君の真似をしながら勢いよく立ち上がる。
「勝負はこれからですよ!」
宣戦布告する私を見て、先輩は何か考えるような素振りをした後、私に片手を差し出して言った。
「おいで、眠々子」
「……っ!?」
「な、お前の負け」
王子様みたいにキラッキラで爽やかな笑顔の宮地先輩。これは乙女ゲームのスチルなのかと錯覚するほどだ。そしてそんな台詞どこで覚えてきたんですか……とあまりの破壊力に、私は再び頭を抱えてしまう。
「お前チョロすぎ」
とかいう先輩に、不意打ちは卑怯だ! と思ったけれど、先輩のことが好きすぎるから「おいで」と言われれば素直に飛んでいく私。先輩の言う通りほんと馬鹿だと思います。
だけどこういう時、先輩はくしゃくしゃと頭撫でてくれて。この時だけ見ることのできる先輩のキラキラ笑顔の先輩が、私は大好きだ。
「だからにやにやすんなって」
「だって、先輩がかっこよすぎて……」
「あーうるさいうるさい」
「もう先輩! 無理! 好き! 好きすぎて死にそう!」
「よかったじゃん」
「ていうか今日初めて気づきました。先輩って何気に結構デレてたんですね!?」
私が先輩のこと好きすぎて気付いてなかっただけか。
先輩が、私のこと好きってちゃんと言葉にして言ってくれないのは、もう気にしないことにしようと思う。
だって先輩のこんな笑顔が見れるのは私だけだって思うから。それが先輩の好きの表現なんだろう。それにきっと、あれなんですよね先輩は。
(好きといったら死ぬ病)
「つかお前にツンデレ萌えとか変なこと吹き込んだの誰だよ?」
「え? 高尾」
「……アイツ後で轢くわ」
かくして高尾の死因が確定したのであった。
・2012年にforestpageで公開分
お題配布元「確かに恋だった」様