働く橙の亀さん
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数日後。
殊更に冷えた、ある冬の夜。
*
「サクラ、鍋できたよー」
「あ、サクラは動かなくていいの。まだ足、完全に治ってないんだからさ」
土鍋を運ぶドナテロの姿に思わず立ち上がろうとしたサクラを、優しげな声がやんわりと制す。
「ふふっ……ありがとうドニー」
その声に、サクラはにっこりと微笑みながら答えた。
ドナテロが、慎重にテーブルに置いた土鍋の蓋を開けるやいなや
「うわあ……!」
サクラから歓声があがる。
「すっごく美味しそう!」
「マイキーから教わったんだ。栄養もばっちりだし、あったまるからおすすめだって言われてね」
「そうなんだー……」
見つめ合い、どちらからともなく笑みを交わす。
「ねえ、ドニー」
「何?」
隣に腰を下ろしながら、ドナテロがサクラの顔を見た。
「本当に、いろいろとありがとう」
サクラが真面目な顔でドナテロを見つめ、はっきりと口にする。
そして、
「あなたがいてくれて、嬉しい」
そう、ふんわりと笑った。
その温かな表情にドナテロの心は喜びで満たされる。
「あー……!」
ふと窓の外を眺めたサクラが、嬉しそうな声を上げた。
「雪……」
「本当だ、天気予報当たったねえ」
つられて窓を眺めたドナテロが、ふと何か思いついたような顔をする。
「そういえば、知ってる?サクラ」
「何を?」
「雪の結晶ってね、種類が2453種類もあるんだ。でも、すべて……」
立ち上がりサクラのすぐ横に行くと、その肩にかけられたずり下がったブランケットを直しながら、ドナテロが語り始めた。
そんな彼をサクラは柔らかな目で見やる。
「うん、それで?もっと聞かせて……」
「すべて、六角形、で、ね……」
お互いの吐息を感じるほどに近づいた、2人の顔。
自分を見つめる彼の目を見つめ返して、サクラはそっと瞳を閉じた。
*
「っくしゅ!」
「ヤエコ、風邪ひいたのか?」
「ううん、違うと思う。大丈夫よ」
雑踏の中で、レオナルドとヤエコは並んでいつもの店へと向かっていた。
「毎日寒いし、体調には気をつけないと」
「うん。気をつける。レオも、気をつけてね?」
「ああ」
可愛らしく見上げてくる愛しい彼女に、頬を緩ませて返事をするレオナルド。
「よし、じゃあ早く行こうか。あの店はすぐ席が埋まっちゃうから」
「うん!」
そうヤエコに微笑みかけると、レオナルドは彼女の小さな手に自分のそれを重ね、力強く握った。
レオナルドの方から手を握ってくれたというその事実に、ヤエコの顔には自然と笑みが浮かぶ。
と。
「あ……」
「雪だ……」
手を繋いで微笑みあった2人は、そろって空を見上げた。
真っ暗な天空から落ちてくる、純白のかけら。
「道理でやけに冷えると思った」
白い息を吐きながら呟いたレオナルドに
「でも、こうしていれば……あったかいから」
ヤエコが恥ずかしそうに呟いて、握る手にそっと力を込めた。
「……、こうしたほうが、もっと」
一瞬の間を置いて。
レオナルドの手が、ヤエコの身体を引き寄せた。
「……っ!」
「あったかい、から」
ヤエコの腰に、レオナルドの手が遠慮がちに置かれている。
「そ、そうだけど」
レオナルドに密着しているヤエコが、おずおずと口を開く。
「ここじゃ、は、恥ずかしい、よ……?」
見渡せば、周りは足早に通り過ぎる人、人、人。
「!!」
レオナルドは、ばっ!と音がしそうな勢いでヤエコから身体を離した。
「す、すまない!お、俺……」
あたふたと謝罪を口にする彼に、ヤエコは
「あの……家に行ったら、く、くっつきたい……」
「……え?」
消え入りそうなヤエコの言葉に、顔を上げたレオナルドは放心して。
ついで見上げてきたヤエコから、目が離せなくなる。
「……」
「……」
どちらも動けず顔を赤くして見つめあう2人の横を、幾人もの人が足早に通り過ぎていった。
*
ハマト運送の、通用口前。
「ん、雪か……」
ラファエロは呟き、空を見上げた。
「初雪じゃのう……」
隣に立つスプリンターも、同じようにひらひらと落ちてくる雪を見上げている。
「親父、先に車に乗っててくれ。ここにいたんじゃ身体冷えちまうから。通用口施錠したらすぐ行く」
「ああ、わかった」
ラファエロから車のキーを渡されたスプリンターはそう微笑むと、車に向かった。
「ラファエロ、さん」
ふと聞こえた声に、顔を上げれば。
「お前……家で待ってろってー」
「今日は早番だったんです。待ちきれなくて、ここまで……」
今日、食事の約束をしている彼女が、立っていた。
「ったく……」
家に迎えに行くと伝えていた彼女が、待ちきれなくてきてしまった。
そのことがとうしようもなくー愛おしくて。
抑えきれない喜びを隠しきれずに、ラファエロはうっすらと笑みを浮かべた。
「あ、でもな、親父を家まで送ってかなきゃなんなくてよ……」
そこまで話したラファエロが、ふと言葉を止める。
「……おい、また敬語」
「……あっ!」
ラファエロの言葉少ない指摘に、何かに思い当たったようにハッとする彼女。
「何回言ってもなかなか直んねえな、お前はよ?」
その口調とは裏腹に、ラファエロの顔に浮かんだのは穏やかで優しげな笑みだった。
それを目の当たりにした彼女の顔が、みるみるうちに朱に染まる。
「……うん……気を、つける。じゃあ私、どこかお店で待ってるからー」
「いや」
「んー……」
「……ラフ……?」
彼女の提案を遮ったまま、頭を掻きつつ何か思案しているようなラファエロがたどたどしく紡いだ言葉はー
「……一緒に、乗ってくか?その……ほら、あれだ」
「親父にお前のこと、紹介しときてえし、な」
「……!」
雪が舞い降りる中、互いに頬を染めた2人が手をとって微笑みあうのは、もうすぐ。
*
「さーむううーい!!」
サワコの仕事上がりを店内で待っていたミケランジェロは、仕事が終わったサワコとともに外に出るなりそう叫んだ。
「ねえ、早くお店行こうー!サワコちゃんが行きたいって言ってたとこ!」
「ミケランジェロさん、ちょっと待って……、ほら、マフラーテーブルに忘れてましたよ!?まったく!」
寒いに決まってるじゃないですか!と文句を言いつつも、そのマフラーをミケランジェロの首元へ巻きつけてやる。
そんなサワコを見つめていたミケランジェロの顔が、にっこりと笑顔を形作る。
「んもう……そんなのなくたってさあ」
「え……っきゃ!」
突然ミケランジェロの両腕に抱かれたサワコは、思わず小さく悲鳴をあげた。
「ちょ、ちょっとミケランジェロさん!!」
「ちょっとだけ、こうさせて?」
じたばたともがいていたサワコだったが、耳元で聞こえたミケランジェロの真面目な声音にゆっくりと身体の力を抜いた。
そのまま、身を任せる。
どのくらいそうしていたか。
「あ……雪」
ちらちらと空から落ちてきたかけらに、サワコがぽつりと呟いた。
「ん……あー、ほんとだ」
サワコの睫毛の上に、そのひとひらが舞い降りる。
ミケランジェロが思わず指でつまみ取ろうとすれば、それは一瞬にして溶けてしまった。
溶けてしまった雪から互いへ、自然と視線は移り。
引かれあう様に2人の顔は近づく。
*
一つに溶け合う恋人たちのうえに、ライスシャワーのような純白の雪が、いくつも降り注いでいた。
終
殊更に冷えた、ある冬の夜。
*
「サクラ、鍋できたよー」
「あ、サクラは動かなくていいの。まだ足、完全に治ってないんだからさ」
土鍋を運ぶドナテロの姿に思わず立ち上がろうとしたサクラを、優しげな声がやんわりと制す。
「ふふっ……ありがとうドニー」
その声に、サクラはにっこりと微笑みながら答えた。
ドナテロが、慎重にテーブルに置いた土鍋の蓋を開けるやいなや
「うわあ……!」
サクラから歓声があがる。
「すっごく美味しそう!」
「マイキーから教わったんだ。栄養もばっちりだし、あったまるからおすすめだって言われてね」
「そうなんだー……」
見つめ合い、どちらからともなく笑みを交わす。
「ねえ、ドニー」
「何?」
隣に腰を下ろしながら、ドナテロがサクラの顔を見た。
「本当に、いろいろとありがとう」
サクラが真面目な顔でドナテロを見つめ、はっきりと口にする。
そして、
「あなたがいてくれて、嬉しい」
そう、ふんわりと笑った。
その温かな表情にドナテロの心は喜びで満たされる。
「あー……!」
ふと窓の外を眺めたサクラが、嬉しそうな声を上げた。
「雪……」
「本当だ、天気予報当たったねえ」
つられて窓を眺めたドナテロが、ふと何か思いついたような顔をする。
「そういえば、知ってる?サクラ」
「何を?」
「雪の結晶ってね、種類が2453種類もあるんだ。でも、すべて……」
立ち上がりサクラのすぐ横に行くと、その肩にかけられたずり下がったブランケットを直しながら、ドナテロが語り始めた。
そんな彼をサクラは柔らかな目で見やる。
「うん、それで?もっと聞かせて……」
「すべて、六角形、で、ね……」
お互いの吐息を感じるほどに近づいた、2人の顔。
自分を見つめる彼の目を見つめ返して、サクラはそっと瞳を閉じた。
*
「っくしゅ!」
「ヤエコ、風邪ひいたのか?」
「ううん、違うと思う。大丈夫よ」
雑踏の中で、レオナルドとヤエコは並んでいつもの店へと向かっていた。
「毎日寒いし、体調には気をつけないと」
「うん。気をつける。レオも、気をつけてね?」
「ああ」
可愛らしく見上げてくる愛しい彼女に、頬を緩ませて返事をするレオナルド。
「よし、じゃあ早く行こうか。あの店はすぐ席が埋まっちゃうから」
「うん!」
そうヤエコに微笑みかけると、レオナルドは彼女の小さな手に自分のそれを重ね、力強く握った。
レオナルドの方から手を握ってくれたというその事実に、ヤエコの顔には自然と笑みが浮かぶ。
と。
「あ……」
「雪だ……」
手を繋いで微笑みあった2人は、そろって空を見上げた。
真っ暗な天空から落ちてくる、純白のかけら。
「道理でやけに冷えると思った」
白い息を吐きながら呟いたレオナルドに
「でも、こうしていれば……あったかいから」
ヤエコが恥ずかしそうに呟いて、握る手にそっと力を込めた。
「……、こうしたほうが、もっと」
一瞬の間を置いて。
レオナルドの手が、ヤエコの身体を引き寄せた。
「……っ!」
「あったかい、から」
ヤエコの腰に、レオナルドの手が遠慮がちに置かれている。
「そ、そうだけど」
レオナルドに密着しているヤエコが、おずおずと口を開く。
「ここじゃ、は、恥ずかしい、よ……?」
見渡せば、周りは足早に通り過ぎる人、人、人。
「!!」
レオナルドは、ばっ!と音がしそうな勢いでヤエコから身体を離した。
「す、すまない!お、俺……」
あたふたと謝罪を口にする彼に、ヤエコは
「あの……家に行ったら、く、くっつきたい……」
「……え?」
消え入りそうなヤエコの言葉に、顔を上げたレオナルドは放心して。
ついで見上げてきたヤエコから、目が離せなくなる。
「……」
「……」
どちらも動けず顔を赤くして見つめあう2人の横を、幾人もの人が足早に通り過ぎていった。
*
ハマト運送の、通用口前。
「ん、雪か……」
ラファエロは呟き、空を見上げた。
「初雪じゃのう……」
隣に立つスプリンターも、同じようにひらひらと落ちてくる雪を見上げている。
「親父、先に車に乗っててくれ。ここにいたんじゃ身体冷えちまうから。通用口施錠したらすぐ行く」
「ああ、わかった」
ラファエロから車のキーを渡されたスプリンターはそう微笑むと、車に向かった。
「ラファエロ、さん」
ふと聞こえた声に、顔を上げれば。
「お前……家で待ってろってー」
「今日は早番だったんです。待ちきれなくて、ここまで……」
今日、食事の約束をしている彼女が、立っていた。
「ったく……」
家に迎えに行くと伝えていた彼女が、待ちきれなくてきてしまった。
そのことがとうしようもなくー愛おしくて。
抑えきれない喜びを隠しきれずに、ラファエロはうっすらと笑みを浮かべた。
「あ、でもな、親父を家まで送ってかなきゃなんなくてよ……」
そこまで話したラファエロが、ふと言葉を止める。
「……おい、また敬語」
「……あっ!」
ラファエロの言葉少ない指摘に、何かに思い当たったようにハッとする彼女。
「何回言ってもなかなか直んねえな、お前はよ?」
その口調とは裏腹に、ラファエロの顔に浮かんだのは穏やかで優しげな笑みだった。
それを目の当たりにした彼女の顔が、みるみるうちに朱に染まる。
「……うん……気を、つける。じゃあ私、どこかお店で待ってるからー」
「いや」
「んー……」
「……ラフ……?」
彼女の提案を遮ったまま、頭を掻きつつ何か思案しているようなラファエロがたどたどしく紡いだ言葉はー
「……一緒に、乗ってくか?その……ほら、あれだ」
「親父にお前のこと、紹介しときてえし、な」
「……!」
雪が舞い降りる中、互いに頬を染めた2人が手をとって微笑みあうのは、もうすぐ。
*
「さーむううーい!!」
サワコの仕事上がりを店内で待っていたミケランジェロは、仕事が終わったサワコとともに外に出るなりそう叫んだ。
「ねえ、早くお店行こうー!サワコちゃんが行きたいって言ってたとこ!」
「ミケランジェロさん、ちょっと待って……、ほら、マフラーテーブルに忘れてましたよ!?まったく!」
寒いに決まってるじゃないですか!と文句を言いつつも、そのマフラーをミケランジェロの首元へ巻きつけてやる。
そんなサワコを見つめていたミケランジェロの顔が、にっこりと笑顔を形作る。
「んもう……そんなのなくたってさあ」
「え……っきゃ!」
突然ミケランジェロの両腕に抱かれたサワコは、思わず小さく悲鳴をあげた。
「ちょ、ちょっとミケランジェロさん!!」
「ちょっとだけ、こうさせて?」
じたばたともがいていたサワコだったが、耳元で聞こえたミケランジェロの真面目な声音にゆっくりと身体の力を抜いた。
そのまま、身を任せる。
どのくらいそうしていたか。
「あ……雪」
ちらちらと空から落ちてきたかけらに、サワコがぽつりと呟いた。
「ん……あー、ほんとだ」
サワコの睫毛の上に、そのひとひらが舞い降りる。
ミケランジェロが思わず指でつまみ取ろうとすれば、それは一瞬にして溶けてしまった。
溶けてしまった雪から互いへ、自然と視線は移り。
引かれあう様に2人の顔は近づく。
*
一つに溶け合う恋人たちのうえに、ライスシャワーのような純白の雪が、いくつも降り注いでいた。
終
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