濡れたカノジョ レオナルドの場合
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「は〜、やっと逃げ込めたね!」
「悪い、ヤエコ。俺が出かけようなんて言ったからー」
ヤエコと下水道を歩きながら、俺は頭垂れた。
デートに出かけた帰り道。
離れ難いけどそろそろーと思った矢先。いきなりの大雨に降られてしまい2人ともずぶ濡れになってしまった。
本当はヤエコを家まで送っていくつもりだったけれど、降られた地点は我が家に近かったから。
何はともあれこの濡れた身体をどうにかしようと地下へと逃げ込んだんだ。
「どうして謝るの?私、レオが出かけようって誘ってくれてとっても嬉しかったのよ。だから、謝ったりしないで」
ヤエコはいつものふんわりとした笑みで俺を見つめてくれた。
けれど、俺だってわかる。
今は見る影もなく濡れてしまったけれど、普段は丁寧に梳いたままなことも少なくない彼女の髪は、今日は綺麗に巻かれていた。
足元に光っている靴も、今まで見たことがないものだった。
このところ、彼女は仕事が忙しいとかでなかなか下水道へと来られなかったから。
今日の逢瀬は、ひと月以上ぶりだったんだ。
……久しぶりの2人きりでの外出だったから、切った服装や髪型や……すごく気を遣ってくれたんだろう。
ー申し訳ないな……俺がもっと天気をしっかり確認しておけば……
せっかくのデートを俺の確認不足で台無しにしてしまったんじゃないか。
そんな気持ちが、ちらりと胸をよぎる。
「本当にヤエコはいつも優しいな。……前にドニーと雨に降られたときなんて、携帯していた機械が濡れたとかってドニーが騒ぎ出してさ。『水分が精密機器にどれほどのダメージを与えるものなのか、みんな全然わかってないんだよ!』って散々説教されたよ」
ふと口をついて出た俺の言葉にヤエコが口角を上げた。
「私がドニーじゃなくてよかったね?」
「……ドニーとデートしようとは思わない」
思ったままを言葉にすれば、再びヤエコが朗らかに笑う。
その笑顔に、俺はようやく安堵した。
「でも、とにかく着替えないと。そのままじゃ風邪をひく。家に行けば俺の着替えがあるから、早く行こう」
「うん」
頷き合うと、俺はヤエコと早足で下水道を進んだ。
++++++++++
自室で、変装時のための洋服をあさる。
暑すぎず寒すぎずーちょうどよさそうな上下を見繕い、それを持ってリビングへ向かった。
部屋を出て見下ろせば、ジャケットを脱いで片手に持ったままのヤエコが入り口を入ってすぐのところで所在なげに待っているのが視界に入る。
きっと、濡れたまま中へ入って我が家を濡らすまいと気遣ってくれているんだろう。
彼女のそんな細やかな心配りに思わず笑みが漏れたが、歩を進め彼女に近づいていくにつれてー俺は言葉を失ってしまった。
濡れそぼった髪、きめ細やかな肌を伝う水滴は灯りに反射して彼女の身体を照らしている。
そして、上着を脱いでカットソーのみとなった彼女の上半身は、その……布地が肌に張り付いて、その凹凸がくっきりと浮き彫りにされていた。
「あ、レオ。着替え持ってきてくれたのね、ありがとう」
「っ……」
急いで部屋から降りてきたはいいが、微笑む彼女とは対照的に、俺の表情は動かない。
まじまじと見てはいけないとわかっているのに、どうしても視線が彼女の胸元に吸い寄せられる。
ーおい!何を見てるんだ!!
心の中で自分自身を叱り倒す。
「レオ?どうかし……あっ」
俺の様子を伺おうとしたヤエコの手から上着が滑り落ちた。
それを屈んで拾おうとする彼女の、濡れてまとまった髪の下から、艶かしさを纏ったうなじがあらわれる。
「!!」
つい今しがた叱られた反動だとでもいうかのように、身体の内側から一気に熱いものが駆け巡った。
ーちょ……っ、何を考えてるんだ!!
「ごめんレオ、あとで床掃除するね。着替えるのにバスルーム借りていいかしら?」
そんな俺の心のうちなど知る由もない彼女が、姿勢を戻しながら上目遣いでこちらを見上げてくる。
彼女の濡れた唇を見たとき、一際大きく、心臓が跳ねた。
「……あ、ああ。俺の服だから大きいとは思うけど、服が乾くまではこれを着ててくれ」
「うんわかった。どうもありがとう」
俺から服を受け取り、そのままバスルームへ向かう彼女。
彼女の背を見つめながら、ゆっくりと息を吐く。
ー着替えてくれさえすれば、大丈夫だ
ーうん、大丈夫だ……
ふう、と大きく息を吐きながら、コツリ、コツリとヒールの音を響かせ歩いていく彼女の背に自然と目を向ける。
引き締まった足首、緩やかなラインを描くふくらはぎ、太腿……
そして、その上にある……柔らかく丸みを帯びた……
「……っ」
そこまで考えたところで、とても見ていられなくて思わず目を伏せた。
気付けば、落ち着いたはずの息が心なしかあがってきている気がする。
そのままもう一度彼女を見やる。
再び視界に映ったその姿に、
ーダメだ、我慢できない
ー何が?
そう自問する間もなく、俺は彼女に走り寄るとその腕を掴んだ。
そのままバスルームへと彼女を引きずり込む。
「え、え?」
戸惑うヤエコとともにバスルームへ入り、ドアを閉めた。
壁に押し付けたヤエコを見れば、何が起こったかわからないといった表情だ。
「レオ?」
言外に何故こんな行動を?と問いかけてくる彼女を見つめれば、その表情にくぎ付けになる。
少しだけ不安そうにしかめられた眉、煌めく黒い瞳、ずっと通った鼻筋。
薄く開かれた、濡れた桜色の唇。
引き寄せられるように、そこへと唇を落としそうになってー
はた、と我に返った。
反射的に横を向いて身体を離し、強く握っていた腕もほどく。
「……」
自由になった腕を胸元へと引き寄せ、俯いてしまったヤエコ。
それはそうだ、今俺が何をしようとしたのか、彼女にだってもちろんわかるだろう。
いや、別に、してしまっても構わない、とは思う。
俺たちは……恋人同士、なんだから。
だけど、こんな風に衝動的に求めてしまうのは、何か、違う気が、して……
ー何が?
ー何がどう違うっていうんだ?
また浮かぶ問い。
俯いたまま、今度は頭を働かせて考える。
ー彼女を、大切にしたいんだ
ー愛しているから
そう思うのに。
その思いに嘘はないのに。
ー今すぐこの腕に抱きしめたい
ー深く深くキスをして、柔らかな肌に吸い付きたい
そんなふしだらとも思えるような熱い思いが、身体の奥からとめどなく溢れ出してくる。
ーなんだ、俺……
ー自分が、自分じゃない、みたいな……
次から次へと熱さを溢れさせるこの身体を、もてあましている俺がいる。
でも、どうすればいいのか、わからない。
この衝動のまま、動いてしまって、いいのか……?
そんな俺を……彼女は、受け入れてくれるだろうか……
その時。
縮こまっていた彼女の細くしなやかな指が、おずおずと伸ばされて。
俺の胸へと、触れた。
「……っ!」
情けないくらい、体が跳ねた。
痛くもかゆくもないのに。
彼女が触れただけなのに。
見上げれば、頬を上気させた彼女が俺と同じように密やかに肩で息をしている。
その瞳は潤み、俺を、見ていた。
ヤエコの手のひらが、ゆっくりと俺の胸へ押し当てられる。
「……レオ」
囁くように零れた言葉が、聞こえた瞬間。
俺は、ヤエコの唇に自分のそれを押し当てていた。
++++++++++
彼女の頭をかき抱いて、その甘い唇を貪る。
向きを変え、何度も、何度も。
生きていくために必要不可欠な酸素がそこにあるんだとでもいうかのように、俺は夢中でヤエコの唇を吸った。
「ぁ……」
漏れ聞こえる彼女の声が耳に届くたびに、身体の奥深くが熱く痺れてたまらなくなる。
ー唇だけじゃ、足りない
その華奢な身体を抱きすくめて、首筋へと顔を埋める。
衝動のままに、唇を押し付けて濡れた髪から流れ落ちてくる滴をすいとった。
「ん、ん……」
「レオ、レオ……」
熱に浮かされたように俺の名前を繰り返す彼女に、言いようのない満足感が胸に広がる。
ーでも足りないんだ、これだけじゃ、ダメなんだ
首筋から唇を離して、彼女の頬に張り付く髪をかきあげながらその瞳を覗き込む。
互いに荒い息を吐きながら見つめ合い、もう一度、深くキスを交わす。
その時、なんだか俺は
泣きたいくらいー彼女が、欲しかった
唇を吸い合いながら、両手を下ろしていく。
指先で、手のひらで、彼女の身体のラインを感じていくかのように、そっと。
髪を撫で上げ、鎖骨に這わせて、柔らかな胸を通って、くびれた腰を撫でてー
そして、片手を両足の間へと伸ばした。
「っ!」
するり、と撫でると大袈裟なくらいにヤエコの身体がびくりとしなる。
けれど、抵抗は、ない。
ーああ、彼女も
ー俺を、求めてくれている……?
そのことが誇らしくて、嬉しくて
「ヤエコ……」
唇が離れたほんの一瞬に、その愛おしくてたまらない名前を呟く。
「レ……っん、ふ」
呼び返そうとした彼女の唇を、すぐさま再び塞ぐ。
布越しに触れる部分のもどかしさに耐えきれず、ベルトを外しにかかる。
バスルームに、カチャカチャという硬質な音が響く。
ー早く、早く
ー触れたいんだ、欲しいんだ
ー彼女、が
気は急くのに、指はいうことをきかなくて。
「クソッ……」
うまく外せない金具に思わずそう漏らすと、彼女の柔らかな両手が俺の頬を覆い、もう何度目かわからなくなってしまった深いキスが再び唇に落とされた。
彼女の唇を逃すまいと追いかけながらも俺はやっとでベルトを外し、開いたジッパーの隙間から性急に手を滑り込ませる。
「あ……っ」
彼女の口から、高い声が漏れる。
その声が、俺の中の熱さをさらに滾らせる。
薄布越しに触れたそこは、とても熱い。
すぐさま、薄布と肌の隙間から内側へと指を忍ばせた。
「あ、ぁ……っ!」
そこはもう、俺を受け入れるには十分なほど潤っていて。
「ヤエコ、ヤエコ……」
「ん、レオ……」
彼女が甘い声を吐き出しながら、俺の首へ両腕を回した。
暖かな息が、顔にかかる。
彼女の腿にまとわりつくパンツを下着ごとずり下げ、膝裏へ手を添えて片脚を持ち上げた。
俺の腰が彼女の腰部に隙間がないほど密着する。
ー欲しいんだ、ヤエコ、
ー君が、欲しい
「ヤエコ……」
呟いて、俺は。
自身を、彼女の中へとゆっくり沈み込ませた。
「ぁ、あぁっ……」
「くっ……」
ヤエコの中のあまりの熱さと締め付けに、目眩を起こしそうになる。
くらくらしたまま、眼前でのけぞる彼女の白い首筋に噛み付くようなキスをして。
ゆっくりと、腰を進める。
「ぁ、あっ、や、あ……っ」
「レオ、ぁ、んっ、くぅ」
まるで泣き出しそうな彼女の声。
けれど俺は知ってるから。
これは、彼女が俺を求めてやまない声なんだって。
だから、湧き上がるままに、突き上げを強くしていく。
「はあっ、ヤエコ、ヤエコっ、」
互いに舌を伸ばして、絡め合う。
唾液が溶け合い、どちらのものかわからなくなる。
でも、どんなに溶け合っても。
どんなに求めても。
心が言うんだ。
もっと、彼女を、感じたい。
彼女の全てが、欲しい。
ー他の誰も入る隙間なんてないくらいに、俺で満たしてしまいたい、と
「ああっ!!」
一際奥深くへ突き込めば、その桜色の唇から悲鳴のような声が漏れる。
もっと聞きたい。
もっと、もっと。
ー俺を感じて欲しいんだ、他の誰でもない、俺だけを
「あっ、あぁっ!い、やぁ、レオ、っ!」
固く閉じられた瞳、そのまなじりからは涙が滲み始めている。
それを舌で舐めとって、耳元に口を寄せて囁く。
「愛してる……」
「っ、く、うっ」
瞬間、彼女の中がきゅ、っと強く締め付けて。
「くっ、ぁ」
「はあっ、はっ、ヤエコ、ヤエコ……っ!」
名前を呼んで、何度も何度も、彼女の奥を貪る。
そのスピードは、徐々に速まって。
「レオ、あっ、あ、すき、すきなの、レオ、レオ……っ!」
彼女の言葉にたまらなくなって、その口を塞いだ。
湧き上がる熱さは、もう、耐え切れないほどになっていた。
限界が、近い。
「ヤエコっ……!」
「ーーーっ!!」
俺は愛しいその名を呼んで、彼女の中へ想いの全てを吐き出した。
++++++++++
俺たち2人を襲った、恐ろしいくらい熱い波が去った後。
俺はバスルームの壁に寄りかかって、胸の中にすっぽりとおさまるようにその背を預けてくる彼女の髪を撫でていた。
「あ、の、ヤエコ」
「……なあに?」
絶頂を迎えた後のけだるさからだろう、前を向いたまま、幾分舌足らずに彼女が答える。
「その……。さっき、は。すまな……」
そこまで言いかけたところで、彼女がこちらを振り返り立てた人差し指を俺の唇に押し付けてきた。
「しー……。それ以上、言わないで?」
「で、でも」
雨に濡れた彼女に欲情して、あんな……獣のように、欲のままに彼女を求めてしまったことがどうにも心苦しくて。
はしたなく、思えて。
けれどヤエコは言い募る俺を見ようともせず、俯いてその頬を染めた。
そしてー
「私は……嬉しかった、の、よ?」
「!?う、嬉しい、って、ヤエコ」
「そりゃ、え……っと、いつもの優しいレオは、大好きよ。けど、その……」
もじもじと話していた彼女が、身体ごと俺に向き直って胸にその身を寄せてきた。
「ヤエコ……」
「さっきみたいなレオも、その……‘ああ、男の人なんだ’って思えて、ドキドキするの……」
「!!!」
ちょっと待て。
彼女の言葉が理解できない。
ド、ドキドキする……?
あんな、はしたない、俺が……?
耳まで真っ赤にした彼女が、胸に顔をうずめながら尚も続ける。
「あんな風に、その……一心に求めてくれて、嬉しかった、から……」
そこまで呟くと、彼女は俺の胸に顔をすり寄せて黙り込んでしまった。
その後頭部に手をやり、優しく抱きしめながら、ふと思う。
ーそうか、いいの、か……
自分でももてあました、自分。
そんな自分の姿を、彼女は嬉しいと言ってくれた。
何か、どこかで、肩の荷が軽くなったような、そんなような。
彼女への愛おしさが、さらに重みを増したような、そんな気がした。
「……ありがとう」
「?ありがとう……?」
彼女が顔を上げながら不思議そうな声を出す。
ーいいんだよ、今はそう言わせてくれ
ーそして、あともう一つ
「愛してる、ヤエコ」
俺は笑って、そっと彼女の額にキスを落とした。
「悪い、ヤエコ。俺が出かけようなんて言ったからー」
ヤエコと下水道を歩きながら、俺は頭垂れた。
デートに出かけた帰り道。
離れ難いけどそろそろーと思った矢先。いきなりの大雨に降られてしまい2人ともずぶ濡れになってしまった。
本当はヤエコを家まで送っていくつもりだったけれど、降られた地点は我が家に近かったから。
何はともあれこの濡れた身体をどうにかしようと地下へと逃げ込んだんだ。
「どうして謝るの?私、レオが出かけようって誘ってくれてとっても嬉しかったのよ。だから、謝ったりしないで」
ヤエコはいつものふんわりとした笑みで俺を見つめてくれた。
けれど、俺だってわかる。
今は見る影もなく濡れてしまったけれど、普段は丁寧に梳いたままなことも少なくない彼女の髪は、今日は綺麗に巻かれていた。
足元に光っている靴も、今まで見たことがないものだった。
このところ、彼女は仕事が忙しいとかでなかなか下水道へと来られなかったから。
今日の逢瀬は、ひと月以上ぶりだったんだ。
……久しぶりの2人きりでの外出だったから、切った服装や髪型や……すごく気を遣ってくれたんだろう。
ー申し訳ないな……俺がもっと天気をしっかり確認しておけば……
せっかくのデートを俺の確認不足で台無しにしてしまったんじゃないか。
そんな気持ちが、ちらりと胸をよぎる。
「本当にヤエコはいつも優しいな。……前にドニーと雨に降られたときなんて、携帯していた機械が濡れたとかってドニーが騒ぎ出してさ。『水分が精密機器にどれほどのダメージを与えるものなのか、みんな全然わかってないんだよ!』って散々説教されたよ」
ふと口をついて出た俺の言葉にヤエコが口角を上げた。
「私がドニーじゃなくてよかったね?」
「……ドニーとデートしようとは思わない」
思ったままを言葉にすれば、再びヤエコが朗らかに笑う。
その笑顔に、俺はようやく安堵した。
「でも、とにかく着替えないと。そのままじゃ風邪をひく。家に行けば俺の着替えがあるから、早く行こう」
「うん」
頷き合うと、俺はヤエコと早足で下水道を進んだ。
++++++++++
自室で、変装時のための洋服をあさる。
暑すぎず寒すぎずーちょうどよさそうな上下を見繕い、それを持ってリビングへ向かった。
部屋を出て見下ろせば、ジャケットを脱いで片手に持ったままのヤエコが入り口を入ってすぐのところで所在なげに待っているのが視界に入る。
きっと、濡れたまま中へ入って我が家を濡らすまいと気遣ってくれているんだろう。
彼女のそんな細やかな心配りに思わず笑みが漏れたが、歩を進め彼女に近づいていくにつれてー俺は言葉を失ってしまった。
濡れそぼった髪、きめ細やかな肌を伝う水滴は灯りに反射して彼女の身体を照らしている。
そして、上着を脱いでカットソーのみとなった彼女の上半身は、その……布地が肌に張り付いて、その凹凸がくっきりと浮き彫りにされていた。
「あ、レオ。着替え持ってきてくれたのね、ありがとう」
「っ……」
急いで部屋から降りてきたはいいが、微笑む彼女とは対照的に、俺の表情は動かない。
まじまじと見てはいけないとわかっているのに、どうしても視線が彼女の胸元に吸い寄せられる。
ーおい!何を見てるんだ!!
心の中で自分自身を叱り倒す。
「レオ?どうかし……あっ」
俺の様子を伺おうとしたヤエコの手から上着が滑り落ちた。
それを屈んで拾おうとする彼女の、濡れてまとまった髪の下から、艶かしさを纏ったうなじがあらわれる。
「!!」
つい今しがた叱られた反動だとでもいうかのように、身体の内側から一気に熱いものが駆け巡った。
ーちょ……っ、何を考えてるんだ!!
「ごめんレオ、あとで床掃除するね。着替えるのにバスルーム借りていいかしら?」
そんな俺の心のうちなど知る由もない彼女が、姿勢を戻しながら上目遣いでこちらを見上げてくる。
彼女の濡れた唇を見たとき、一際大きく、心臓が跳ねた。
「……あ、ああ。俺の服だから大きいとは思うけど、服が乾くまではこれを着ててくれ」
「うんわかった。どうもありがとう」
俺から服を受け取り、そのままバスルームへ向かう彼女。
彼女の背を見つめながら、ゆっくりと息を吐く。
ー着替えてくれさえすれば、大丈夫だ
ーうん、大丈夫だ……
ふう、と大きく息を吐きながら、コツリ、コツリとヒールの音を響かせ歩いていく彼女の背に自然と目を向ける。
引き締まった足首、緩やかなラインを描くふくらはぎ、太腿……
そして、その上にある……柔らかく丸みを帯びた……
「……っ」
そこまで考えたところで、とても見ていられなくて思わず目を伏せた。
気付けば、落ち着いたはずの息が心なしかあがってきている気がする。
そのままもう一度彼女を見やる。
再び視界に映ったその姿に、
ーダメだ、我慢できない
ー何が?
そう自問する間もなく、俺は彼女に走り寄るとその腕を掴んだ。
そのままバスルームへと彼女を引きずり込む。
「え、え?」
戸惑うヤエコとともにバスルームへ入り、ドアを閉めた。
壁に押し付けたヤエコを見れば、何が起こったかわからないといった表情だ。
「レオ?」
言外に何故こんな行動を?と問いかけてくる彼女を見つめれば、その表情にくぎ付けになる。
少しだけ不安そうにしかめられた眉、煌めく黒い瞳、ずっと通った鼻筋。
薄く開かれた、濡れた桜色の唇。
引き寄せられるように、そこへと唇を落としそうになってー
はた、と我に返った。
反射的に横を向いて身体を離し、強く握っていた腕もほどく。
「……」
自由になった腕を胸元へと引き寄せ、俯いてしまったヤエコ。
それはそうだ、今俺が何をしようとしたのか、彼女にだってもちろんわかるだろう。
いや、別に、してしまっても構わない、とは思う。
俺たちは……恋人同士、なんだから。
だけど、こんな風に衝動的に求めてしまうのは、何か、違う気が、して……
ー何が?
ー何がどう違うっていうんだ?
また浮かぶ問い。
俯いたまま、今度は頭を働かせて考える。
ー彼女を、大切にしたいんだ
ー愛しているから
そう思うのに。
その思いに嘘はないのに。
ー今すぐこの腕に抱きしめたい
ー深く深くキスをして、柔らかな肌に吸い付きたい
そんなふしだらとも思えるような熱い思いが、身体の奥からとめどなく溢れ出してくる。
ーなんだ、俺……
ー自分が、自分じゃない、みたいな……
次から次へと熱さを溢れさせるこの身体を、もてあましている俺がいる。
でも、どうすればいいのか、わからない。
この衝動のまま、動いてしまって、いいのか……?
そんな俺を……彼女は、受け入れてくれるだろうか……
その時。
縮こまっていた彼女の細くしなやかな指が、おずおずと伸ばされて。
俺の胸へと、触れた。
「……っ!」
情けないくらい、体が跳ねた。
痛くもかゆくもないのに。
彼女が触れただけなのに。
見上げれば、頬を上気させた彼女が俺と同じように密やかに肩で息をしている。
その瞳は潤み、俺を、見ていた。
ヤエコの手のひらが、ゆっくりと俺の胸へ押し当てられる。
「……レオ」
囁くように零れた言葉が、聞こえた瞬間。
俺は、ヤエコの唇に自分のそれを押し当てていた。
++++++++++
彼女の頭をかき抱いて、その甘い唇を貪る。
向きを変え、何度も、何度も。
生きていくために必要不可欠な酸素がそこにあるんだとでもいうかのように、俺は夢中でヤエコの唇を吸った。
「ぁ……」
漏れ聞こえる彼女の声が耳に届くたびに、身体の奥深くが熱く痺れてたまらなくなる。
ー唇だけじゃ、足りない
その華奢な身体を抱きすくめて、首筋へと顔を埋める。
衝動のままに、唇を押し付けて濡れた髪から流れ落ちてくる滴をすいとった。
「ん、ん……」
「レオ、レオ……」
熱に浮かされたように俺の名前を繰り返す彼女に、言いようのない満足感が胸に広がる。
ーでも足りないんだ、これだけじゃ、ダメなんだ
首筋から唇を離して、彼女の頬に張り付く髪をかきあげながらその瞳を覗き込む。
互いに荒い息を吐きながら見つめ合い、もう一度、深くキスを交わす。
その時、なんだか俺は
泣きたいくらいー彼女が、欲しかった
唇を吸い合いながら、両手を下ろしていく。
指先で、手のひらで、彼女の身体のラインを感じていくかのように、そっと。
髪を撫で上げ、鎖骨に這わせて、柔らかな胸を通って、くびれた腰を撫でてー
そして、片手を両足の間へと伸ばした。
「っ!」
するり、と撫でると大袈裟なくらいにヤエコの身体がびくりとしなる。
けれど、抵抗は、ない。
ーああ、彼女も
ー俺を、求めてくれている……?
そのことが誇らしくて、嬉しくて
「ヤエコ……」
唇が離れたほんの一瞬に、その愛おしくてたまらない名前を呟く。
「レ……っん、ふ」
呼び返そうとした彼女の唇を、すぐさま再び塞ぐ。
布越しに触れる部分のもどかしさに耐えきれず、ベルトを外しにかかる。
バスルームに、カチャカチャという硬質な音が響く。
ー早く、早く
ー触れたいんだ、欲しいんだ
ー彼女、が
気は急くのに、指はいうことをきかなくて。
「クソッ……」
うまく外せない金具に思わずそう漏らすと、彼女の柔らかな両手が俺の頬を覆い、もう何度目かわからなくなってしまった深いキスが再び唇に落とされた。
彼女の唇を逃すまいと追いかけながらも俺はやっとでベルトを外し、開いたジッパーの隙間から性急に手を滑り込ませる。
「あ……っ」
彼女の口から、高い声が漏れる。
その声が、俺の中の熱さをさらに滾らせる。
薄布越しに触れたそこは、とても熱い。
すぐさま、薄布と肌の隙間から内側へと指を忍ばせた。
「あ、ぁ……っ!」
そこはもう、俺を受け入れるには十分なほど潤っていて。
「ヤエコ、ヤエコ……」
「ん、レオ……」
彼女が甘い声を吐き出しながら、俺の首へ両腕を回した。
暖かな息が、顔にかかる。
彼女の腿にまとわりつくパンツを下着ごとずり下げ、膝裏へ手を添えて片脚を持ち上げた。
俺の腰が彼女の腰部に隙間がないほど密着する。
ー欲しいんだ、ヤエコ、
ー君が、欲しい
「ヤエコ……」
呟いて、俺は。
自身を、彼女の中へとゆっくり沈み込ませた。
「ぁ、あぁっ……」
「くっ……」
ヤエコの中のあまりの熱さと締め付けに、目眩を起こしそうになる。
くらくらしたまま、眼前でのけぞる彼女の白い首筋に噛み付くようなキスをして。
ゆっくりと、腰を進める。
「ぁ、あっ、や、あ……っ」
「レオ、ぁ、んっ、くぅ」
まるで泣き出しそうな彼女の声。
けれど俺は知ってるから。
これは、彼女が俺を求めてやまない声なんだって。
だから、湧き上がるままに、突き上げを強くしていく。
「はあっ、ヤエコ、ヤエコっ、」
互いに舌を伸ばして、絡め合う。
唾液が溶け合い、どちらのものかわからなくなる。
でも、どんなに溶け合っても。
どんなに求めても。
心が言うんだ。
もっと、彼女を、感じたい。
彼女の全てが、欲しい。
ー他の誰も入る隙間なんてないくらいに、俺で満たしてしまいたい、と
「ああっ!!」
一際奥深くへ突き込めば、その桜色の唇から悲鳴のような声が漏れる。
もっと聞きたい。
もっと、もっと。
ー俺を感じて欲しいんだ、他の誰でもない、俺だけを
「あっ、あぁっ!い、やぁ、レオ、っ!」
固く閉じられた瞳、そのまなじりからは涙が滲み始めている。
それを舌で舐めとって、耳元に口を寄せて囁く。
「愛してる……」
「っ、く、うっ」
瞬間、彼女の中がきゅ、っと強く締め付けて。
「くっ、ぁ」
「はあっ、はっ、ヤエコ、ヤエコ……っ!」
名前を呼んで、何度も何度も、彼女の奥を貪る。
そのスピードは、徐々に速まって。
「レオ、あっ、あ、すき、すきなの、レオ、レオ……っ!」
彼女の言葉にたまらなくなって、その口を塞いだ。
湧き上がる熱さは、もう、耐え切れないほどになっていた。
限界が、近い。
「ヤエコっ……!」
「ーーーっ!!」
俺は愛しいその名を呼んで、彼女の中へ想いの全てを吐き出した。
++++++++++
俺たち2人を襲った、恐ろしいくらい熱い波が去った後。
俺はバスルームの壁に寄りかかって、胸の中にすっぽりとおさまるようにその背を預けてくる彼女の髪を撫でていた。
「あ、の、ヤエコ」
「……なあに?」
絶頂を迎えた後のけだるさからだろう、前を向いたまま、幾分舌足らずに彼女が答える。
「その……。さっき、は。すまな……」
そこまで言いかけたところで、彼女がこちらを振り返り立てた人差し指を俺の唇に押し付けてきた。
「しー……。それ以上、言わないで?」
「で、でも」
雨に濡れた彼女に欲情して、あんな……獣のように、欲のままに彼女を求めてしまったことがどうにも心苦しくて。
はしたなく、思えて。
けれどヤエコは言い募る俺を見ようともせず、俯いてその頬を染めた。
そしてー
「私は……嬉しかった、の、よ?」
「!?う、嬉しい、って、ヤエコ」
「そりゃ、え……っと、いつもの優しいレオは、大好きよ。けど、その……」
もじもじと話していた彼女が、身体ごと俺に向き直って胸にその身を寄せてきた。
「ヤエコ……」
「さっきみたいなレオも、その……‘ああ、男の人なんだ’って思えて、ドキドキするの……」
「!!!」
ちょっと待て。
彼女の言葉が理解できない。
ド、ドキドキする……?
あんな、はしたない、俺が……?
耳まで真っ赤にした彼女が、胸に顔をうずめながら尚も続ける。
「あんな風に、その……一心に求めてくれて、嬉しかった、から……」
そこまで呟くと、彼女は俺の胸に顔をすり寄せて黙り込んでしまった。
その後頭部に手をやり、優しく抱きしめながら、ふと思う。
ーそうか、いいの、か……
自分でももてあました、自分。
そんな自分の姿を、彼女は嬉しいと言ってくれた。
何か、どこかで、肩の荷が軽くなったような、そんなような。
彼女への愛おしさが、さらに重みを増したような、そんな気がした。
「……ありがとう」
「?ありがとう……?」
彼女が顔を上げながら不思議そうな声を出す。
ーいいんだよ、今はそう言わせてくれ
ーそして、あともう一つ
「愛してる、ヤエコ」
俺は笑って、そっと彼女の額にキスを落とした。
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