はじまりの日1
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「やめろ!この下衆ども!」
透き通った声があたりに響き渡った。
何が起きたのかわからないまま、おそるおそる薄目を開けると、男たちが罵りの言葉を口々に発しながら路地の奥へと駆け出していく。
その先から聞こえるのは、「ぎゃっ」とか「ぐっ」というような男たちの声と、金属同士がぶつかるような甲高い音。
さっきの声の主と思われる人物は、街灯の届かない路地の最奥にいるようでそのシルエットはよくわからない。
男たちが次々となぎ倒され、最後に残ったのは自分を殴ろうとした大男だった。
大男が私の肩から手を離し、口汚い言葉を発しながら声の主へと駆け出していったほんの数秒後、緑色の風が起こった。
自分の正面にいた大男の首が一瞬にして真横を向き、唇から泡がこぼれたと思ったらそのまま後ろ向きに倒れ、動かなくなったのだ。
頼りなげな街頭に映し出されるのは、地面に倒れる先ほどまで自分を押さえつけていた男たち。
ここに来てようやく、自分を押さえていた男たちは5人もいたことを知った。
男たちをぐるりと見回りしていくと、路地の最奥に人影がある。
大男を蹴り飛ばした直後、いつの間にかまた路地奥へひっこんでいたらしい。
その影は少しずつこちらへ近づいてくる。すると、あと一歩で街灯の光の中へ入れる、という地点で止まった。
先ほどよりもだいぶシルエットが見えている。
身長は自分と同じくらい、だけど、だいぶがっちりした体つきをしている。
「……大丈夫か?」
影の正体がわからず身を固くしていた私に聞こえてきたのは、思いのほか若い、初々しい声で。
「こいつらには全員当て身をくらわせたから。当分目を覚さないはずだ」
じんわり、心に染みるように響き渡る澄んだ声に、いつの間にか聞き入っていた。
ーこの人は、悪人じゃない。
自分の中の第六感が告げる。
「あ……と、とりあえず、これ。かけてた方がいいと思う」
声の主は、いつのまにか男たちに剥がされその場に放置されていたトレンチコートを持っていたようで、こちらに投げてくれた。
そこで、自分があられもない格好をしていることに初めて気づく。
「あ、ありがとう……ございます」
コートで胸元を隠しながら、ようやく、感謝の言葉を口に出す。
声の主は、少し恥ずかしそうに、しかしすぐ硬い声で続けた。
「どういたしまして。……この路地は夜になるとかなり治安が悪くなるんだ。この時間帯にはもう歩かない方がいい」
「……」
震えながらこくこくと首を縦に振る。
今になって、恐怖が体に戻ってきた。押さえつけられる両手足、自分の肌をまさぐる無骨な手、ただただ嫌悪感しかない、あの息遣い……。
思わず両手で自らの体をかき抱く。
ー怖かった……本当に、怖かった……
「あ、あの」
所在無さげにしていた声の主が、遠慮がちに口を開く。
「俺はもう帰るけど……1人で、帰れるかい?家はこの近く?」
「……」
自宅までは5分とかからないだろうが、正直、1人で帰れる自信がない。
さっきの今で、まだ足も動かない有様なのだ。
「家は近いんですけど、1人では……こ、怖いかも……」
ふう、と、声の主が息を吐くのがわかった。気配が近づいてくる。
「家まで、送ろう。……君の家は、どこかな?」
街頭に照らされた声の主を見上げた途端、体が硬直した。
ーみどり、いろ……?
声の主は、全身真緑だった。つるりとした肌に、頭には真っ青な鉢巻をしている。
「……」
言葉が出ない。
どうみても、人間じゃあ、ない。
でも、じゃあ、誰?
唐突なパニックに唇が震え、背筋がぶるりと震えたとき、私は意識を手放していた。
透き通った声があたりに響き渡った。
何が起きたのかわからないまま、おそるおそる薄目を開けると、男たちが罵りの言葉を口々に発しながら路地の奥へと駆け出していく。
その先から聞こえるのは、「ぎゃっ」とか「ぐっ」というような男たちの声と、金属同士がぶつかるような甲高い音。
さっきの声の主と思われる人物は、街灯の届かない路地の最奥にいるようでそのシルエットはよくわからない。
男たちが次々となぎ倒され、最後に残ったのは自分を殴ろうとした大男だった。
大男が私の肩から手を離し、口汚い言葉を発しながら声の主へと駆け出していったほんの数秒後、緑色の風が起こった。
自分の正面にいた大男の首が一瞬にして真横を向き、唇から泡がこぼれたと思ったらそのまま後ろ向きに倒れ、動かなくなったのだ。
頼りなげな街頭に映し出されるのは、地面に倒れる先ほどまで自分を押さえつけていた男たち。
ここに来てようやく、自分を押さえていた男たちは5人もいたことを知った。
男たちをぐるりと見回りしていくと、路地の最奥に人影がある。
大男を蹴り飛ばした直後、いつの間にかまた路地奥へひっこんでいたらしい。
その影は少しずつこちらへ近づいてくる。すると、あと一歩で街灯の光の中へ入れる、という地点で止まった。
先ほどよりもだいぶシルエットが見えている。
身長は自分と同じくらい、だけど、だいぶがっちりした体つきをしている。
「……大丈夫か?」
影の正体がわからず身を固くしていた私に聞こえてきたのは、思いのほか若い、初々しい声で。
「こいつらには全員当て身をくらわせたから。当分目を覚さないはずだ」
じんわり、心に染みるように響き渡る澄んだ声に、いつの間にか聞き入っていた。
ーこの人は、悪人じゃない。
自分の中の第六感が告げる。
「あ……と、とりあえず、これ。かけてた方がいいと思う」
声の主は、いつのまにか男たちに剥がされその場に放置されていたトレンチコートを持っていたようで、こちらに投げてくれた。
そこで、自分があられもない格好をしていることに初めて気づく。
「あ、ありがとう……ございます」
コートで胸元を隠しながら、ようやく、感謝の言葉を口に出す。
声の主は、少し恥ずかしそうに、しかしすぐ硬い声で続けた。
「どういたしまして。……この路地は夜になるとかなり治安が悪くなるんだ。この時間帯にはもう歩かない方がいい」
「……」
震えながらこくこくと首を縦に振る。
今になって、恐怖が体に戻ってきた。押さえつけられる両手足、自分の肌をまさぐる無骨な手、ただただ嫌悪感しかない、あの息遣い……。
思わず両手で自らの体をかき抱く。
ー怖かった……本当に、怖かった……
「あ、あの」
所在無さげにしていた声の主が、遠慮がちに口を開く。
「俺はもう帰るけど……1人で、帰れるかい?家はこの近く?」
「……」
自宅までは5分とかからないだろうが、正直、1人で帰れる自信がない。
さっきの今で、まだ足も動かない有様なのだ。
「家は近いんですけど、1人では……こ、怖いかも……」
ふう、と、声の主が息を吐くのがわかった。気配が近づいてくる。
「家まで、送ろう。……君の家は、どこかな?」
街頭に照らされた声の主を見上げた途端、体が硬直した。
ーみどり、いろ……?
声の主は、全身真緑だった。つるりとした肌に、頭には真っ青な鉢巻をしている。
「……」
言葉が出ない。
どうみても、人間じゃあ、ない。
でも、じゃあ、誰?
唐突なパニックに唇が震え、背筋がぶるりと震えたとき、私は意識を手放していた。