はじまりの日1
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小さい頃、映画で何度も目にしていた大都会、NYの街並み。あの頃は夢のようだと思っていたけど、今私は、その大都会を形成する1人だ。
同居していた祖母の影響で昔から古いものが大好きだった私は、この春念願の海外アンティーク輸入雑貨の会社に就職できた。そしてそして、入社と同時にNY支社勤務……!
海外での一人暮らしは流石に不安だったけど、研修期間の渡米中に仲良くなれたエイプリルさんが、「日本じゃ、‘嫁入り前の女性’は何より大切にしなくちゃなのよね」なんて、いつの間に身につけたのか古風な言い回しで自分が住むアパートに誘ってくれた。
断る理由もなく、ありがたくその話に飛びついて半年。今、NYの街は10月。ビル街を吹き抜ける風が、赤や黄色に染まった街路樹の葉をカサカサと揺らしていた。
「私、NYで半年も暮らせてるんだなあ……」
先ほどマーケットで買ったばかりのしょんぼり具材が詰め込まれた袋を抱きしめ、にんまりと頬を緩ませる。
好きな仕事に就けて、素敵な友達もできた。
まだまだ不安も多いけど、毎日の疲れがようやく少しだけ、心地よく感じられてきたかな。
そんなことを考えつつ、てくてくと路地を歩きながら今日の夕食に思いを馳せる。
ー今日は残業で遅くなっちゃったし、簡単にお粥にでもしようかな。お米はあるし、卵も買ってきたし。ねぎあるし……。
まだこちらの食生活には慣れない。
日本食が食事の中心。
ーそのうち、‘慣れない’なんて言ってられなくなるんだろうけど……
そんなことを考えつつ、目の前の十字路をさらに奥に進むように右へ曲がった。
本当は大通りをもっとまっすぐ歩いてから右に曲がるのだが、ここで曲がってしまった方が早い。エイプリルさんには「この近道は治安が悪いから昼間しか通っちゃいけない」なんて言われたけど……。
「お腹、空いちゃったしね」
ふんふんと鼻歌混じりに路地を曲がった瞬間、目の前に20歳前後の男たちが見えた。いや、欧米の人の年齢ははっきりはわからないのだけれど。みな、だぼだぼのパーカーにズボン、といったいかにもないでたちだ。
「……」
思わず身をかたくして、関わってはならない、と身をできるだけ縮こめて彼らと最大限距離がとらるよう通りの右側ぎりぎりを小走りに進む。
日本ならば、それで避けられたかもしれない、けれど。
「なーに急いでんだよ」
「俺たちにビビってんの?かわい〜」
「俺、アジア系好きなんだよなー」
「お前も好きだよなあ」
タールのようなべったりとまとわりつく声に、下卑た笑い。
男たちがゆっくりとこちらへ歩いてくる。
手元には何か光るものが見える。
はっきりと聞き取れなくたってわかる。
自分がどんなふうに言われてるのか。
……これから、何をされようとしているのか。
ー逃げなきゃ!
頭ではそうわかっているのに、足がすくむ。動けない。
気がつけば、いつのまにか右肩が古びたアパートメントの壁にぶつかっていた。胸元を守るように、マーケットの紙袋を抱える腕に力を込める。
「逃げなくたっていいじゃん。俺たちと楽しんじゃえよ」
もう、男たちとの距離は1メートルもない。自分を取り囲むように円となって近づいてくる。
ーこんなことなら、エイプリルさんの言うこと聞いておけばよかった。
そうは思うが、体が動かない。
「……!」
助けを求めたいのに、声すら出ない。
「怯えちゃって、助けも呼べないってか?ほんと大人しいよなあ……これだからジャパニーズは」
男たちのひとりのセリフに、頬がかっと熱くなる。
日本人女性として、なんて侮辱。
けれど、その男の言うとおりだ。
自分は何もできないではないか。
と、男のひとりから左肩を押され、背中にレンガの冷たさを感じた。
右側の男が、私が持っていた袋を鷲掴み無造作に投げ捨てた。視線を向ければ、そこには袋から飛び出し無惨に割れてしまった卵たちが見えた。
ーもう、いやだ……
瞳から涙が溢れ、卵の鮮やかなほどの黄色が瞬く間に滲んでいく。
男たちの手が四方八方から洋服にかかる。
冷たいナイフが喉元に当てられ、一気に下へおろされた。ブラウスが裂け、冷たい風が肌を撫でた。
ごくりと唾を飲み込むような音が、聞こえた気がする。
……男たちの息遣いが、肌に刺さる。
「い……」
「いやあーーーーっ!」
ここまでされて、やっと、声が出た。
「いやあ、やめてぇっ!やめてーーっ!」
声をきっかけとして呪縛から解き放たれたように、足や体をがむしゃらに動かす。
ーこのままされるがままなんて、いや!絶対に!!
「おい、なんだよこいつ!」
「いきなり元気になりやがった!だれだジャパニーズは静かでいいなんて言ったのは!」
ーたとえ勝てなくても、このままなすがままなんていやだ!
「こいつ……っ、静かにしやがれ!」
動きをやめない自分に痺れを切らしたのか、正面にいた一番大柄な男が肩を掴み、右手を振り上げた。
ー殴られる!!
瞳を固く閉じ、すぐ訪れるだろう衝撃に備えぐっと歯を食いしばる。
ー殴られる時は歯を食いしばってないと、口が切れちゃうんだって……
この場にそぐうようなそぐわないようなことを、ふと考えた時だった。
同居していた祖母の影響で昔から古いものが大好きだった私は、この春念願の海外アンティーク輸入雑貨の会社に就職できた。そしてそして、入社と同時にNY支社勤務……!
海外での一人暮らしは流石に不安だったけど、研修期間の渡米中に仲良くなれたエイプリルさんが、「日本じゃ、‘嫁入り前の女性’は何より大切にしなくちゃなのよね」なんて、いつの間に身につけたのか古風な言い回しで自分が住むアパートに誘ってくれた。
断る理由もなく、ありがたくその話に飛びついて半年。今、NYの街は10月。ビル街を吹き抜ける風が、赤や黄色に染まった街路樹の葉をカサカサと揺らしていた。
「私、NYで半年も暮らせてるんだなあ……」
先ほどマーケットで買ったばかりのしょんぼり具材が詰め込まれた袋を抱きしめ、にんまりと頬を緩ませる。
好きな仕事に就けて、素敵な友達もできた。
まだまだ不安も多いけど、毎日の疲れがようやく少しだけ、心地よく感じられてきたかな。
そんなことを考えつつ、てくてくと路地を歩きながら今日の夕食に思いを馳せる。
ー今日は残業で遅くなっちゃったし、簡単にお粥にでもしようかな。お米はあるし、卵も買ってきたし。ねぎあるし……。
まだこちらの食生活には慣れない。
日本食が食事の中心。
ーそのうち、‘慣れない’なんて言ってられなくなるんだろうけど……
そんなことを考えつつ、目の前の十字路をさらに奥に進むように右へ曲がった。
本当は大通りをもっとまっすぐ歩いてから右に曲がるのだが、ここで曲がってしまった方が早い。エイプリルさんには「この近道は治安が悪いから昼間しか通っちゃいけない」なんて言われたけど……。
「お腹、空いちゃったしね」
ふんふんと鼻歌混じりに路地を曲がった瞬間、目の前に20歳前後の男たちが見えた。いや、欧米の人の年齢ははっきりはわからないのだけれど。みな、だぼだぼのパーカーにズボン、といったいかにもないでたちだ。
「……」
思わず身をかたくして、関わってはならない、と身をできるだけ縮こめて彼らと最大限距離がとらるよう通りの右側ぎりぎりを小走りに進む。
日本ならば、それで避けられたかもしれない、けれど。
「なーに急いでんだよ」
「俺たちにビビってんの?かわい〜」
「俺、アジア系好きなんだよなー」
「お前も好きだよなあ」
タールのようなべったりとまとわりつく声に、下卑た笑い。
男たちがゆっくりとこちらへ歩いてくる。
手元には何か光るものが見える。
はっきりと聞き取れなくたってわかる。
自分がどんなふうに言われてるのか。
……これから、何をされようとしているのか。
ー逃げなきゃ!
頭ではそうわかっているのに、足がすくむ。動けない。
気がつけば、いつのまにか右肩が古びたアパートメントの壁にぶつかっていた。胸元を守るように、マーケットの紙袋を抱える腕に力を込める。
「逃げなくたっていいじゃん。俺たちと楽しんじゃえよ」
もう、男たちとの距離は1メートルもない。自分を取り囲むように円となって近づいてくる。
ーこんなことなら、エイプリルさんの言うこと聞いておけばよかった。
そうは思うが、体が動かない。
「……!」
助けを求めたいのに、声すら出ない。
「怯えちゃって、助けも呼べないってか?ほんと大人しいよなあ……これだからジャパニーズは」
男たちのひとりのセリフに、頬がかっと熱くなる。
日本人女性として、なんて侮辱。
けれど、その男の言うとおりだ。
自分は何もできないではないか。
と、男のひとりから左肩を押され、背中にレンガの冷たさを感じた。
右側の男が、私が持っていた袋を鷲掴み無造作に投げ捨てた。視線を向ければ、そこには袋から飛び出し無惨に割れてしまった卵たちが見えた。
ーもう、いやだ……
瞳から涙が溢れ、卵の鮮やかなほどの黄色が瞬く間に滲んでいく。
男たちの手が四方八方から洋服にかかる。
冷たいナイフが喉元に当てられ、一気に下へおろされた。ブラウスが裂け、冷たい風が肌を撫でた。
ごくりと唾を飲み込むような音が、聞こえた気がする。
……男たちの息遣いが、肌に刺さる。
「い……」
「いやあーーーーっ!」
ここまでされて、やっと、声が出た。
「いやあ、やめてぇっ!やめてーーっ!」
声をきっかけとして呪縛から解き放たれたように、足や体をがむしゃらに動かす。
ーこのままされるがままなんて、いや!絶対に!!
「おい、なんだよこいつ!」
「いきなり元気になりやがった!だれだジャパニーズは静かでいいなんて言ったのは!」
ーたとえ勝てなくても、このままなすがままなんていやだ!
「こいつ……っ、静かにしやがれ!」
動きをやめない自分に痺れを切らしたのか、正面にいた一番大柄な男が肩を掴み、右手を振り上げた。
ー殴られる!!
瞳を固く閉じ、すぐ訪れるだろう衝撃に備えぐっと歯を食いしばる。
ー殴られる時は歯を食いしばってないと、口が切れちゃうんだって……
この場にそぐうようなそぐわないようなことを、ふと考えた時だった。
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