『好き』だから
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「ゴホッ、ケホケホ……」
「ったくお前は……早く連絡よこしゃあいいのによ」
「だ、だって……」
ある冬の夜。
ベッドに横になり咳き込むキキョウのもとにはーー彼女の恋人となってまだ間もないーーラファエロが寄り添っていた。
まだまだ冬の始まりだとたかをくくっていた矢先突然あらわれた寒波にキキョウはすっかりやられてしまい、何年かぶりで寝込んでしまっていた。
なんとなく身体がけだるいのも、寒気がするような気がするのも、就いたばかりの仕事の忙しさのせいだと思い込んでいたキキョウは、仕事をこなし終えた金曜の夜、気が緩んだのか一気に発熱してしまった。
それでも1人でなんとかなる、と誰にも連絡せずに身体を引きずり病院を受診し、フラフラになりながらレトルト食品を買い求め帰宅したのが土曜日のこと。
しかし、そんな彼女の姿を買い出しに出かけたレオナルドとミケランジェロが目撃していたのは不幸中の幸いだったといえよう。
キキョウの状況はすぐさまラファエロの耳にはいることとなり、その日のうちにーーそう、まさに今夜ーー彼が訪ねてきたのだった。
「こんな熱が出るなんて思ってなかったし……ひ、1人でなんとかなると思ったんだもん……」
マスクをした顔を赤く火照らせている彼女が、恥ずかしがるように掛け布団で口元を覆った。
ラファエロはそんな彼女にため息を一つ吐くと、
「お前ってやつは……」
そう呟いてキキョウの頭にそっと手を置いた。
その眼に、優しい光をたたえて彼女を見つめながら。
「飲み物いれてくる」
それだけ言い置いて、枕元に置いたカップを手に寝室を出ていくラファエロ。
ーなにか、小言を言ってくるかと思ったのに……
普段はその胸の内をストレートに見せることなどほとんどないラファエロの真っ直ぐな優しい心を垣間見れた気がして、キキョウは密かに胸をときめかせた。
++++++++++
深夜。
帰っても心配ないと伝えたものの強引に泊まると言い張ったラファエロは、キキョウのベッドの横に予備のマットを敷いて休んでいる。
「……ケホッ」
「……コフッ、ケフ」
キキョウはそんなラファエロを起こしたくない一心から必死で抑えようとするのだが、どうしても喉が咳を押し上げてしまう。
彼を起こしてしまわないかとハラハラしながらキキョウがマスクの上から手で口を覆っていると、
「ん……キキョウ、眠れねえのか」
床に敷かれたマットの上で身じろぎする気配があった。
「ごめんラフ、起こしちゃ……ケフッ」
「んなこたあいいから。……水分摂るか?」
「うん、ありがと……」
すぐに起き上がったらしいラファエロは、サイドテーブルに置かれていたカーディガンをキキョウの肩に羽織らせると、さらに身を起こしやすいようにその背を支えた。
布越しに触れる彼のひんやりとした手のひらが、火照った身体に心地よい。
「はぁ……」
「ほら、喉腫れてしみるかもしれねえけど、出来るだけ飲め。な?」
「ん……」
カップに刺さったストローから、少量ずつ水分を身体に送り込む。
過敏になっている喉は痛みを訴えるが、渇ききっている身は水分を欲していて。
こくりこくりとキキョウが喉を潤している間に、ラファエロはいつの間にかベッド脇に腰を下ろしていたーーその手を背から片時も離すことなく。
ー嬉しい……
ラファエロの優しさがただただ嬉しくて、閉じている目に自然と涙の粒が膨らんでくる。
ー大好き、ラフ、大好き
ーありがとう……
「……ぷは。ありがとー……、今はもういらないや」
「おう。じゃあまた横になって……ん?」
「お前、泣いてんのか……?」
小さな間接照明のみで照らされた部屋の中でキキョウの目元に光る粒を見つけたラファエロは、顔をぐっと近づけて確かめるように目を眇めた。
「あ、ご、ごめん、なんか……!」
ーラフに変な心配かけたくないのに!
急いで涙の粒を拭うキキョウ。
その頭に、再び乗せられる暖かな重み。
「どっか痛えのか?しんどいのか……?」
朦朧とした頭で必死に取り繕おうとする自分ごと大きく包み込もうとしてくれるラファエロの言葉に、キキョウの心の中で無理やり保たれていた矜持という名の壁が、ぽろぽろと剥がれ落ちていく。
「ラ、ラフぅ……」
「おい、キキョウ……?!」
ラファエロの声を聞きながら、胸に去来する思い。
仕事で、初めて任されたチーフという立場。
部下を持つのも、指示を出すのも初めてで、毎日が緊張の連続だった。
自分が働きすぎているという自覚はあった。
けれど、認めてもらうにはーーがむしゃらに働くことしか思いつかなくて。
なのに気がつけば、何年も出していない高熱を出してしまった。
そんな、ちょっと頑張っただけで倒れてしまうような自分に、自己嫌悪して。
本当は、ずっと誰かに頼りたかった。
この胸の内をさらけ出したかった。
そのうえでーー受け止めてほしかった。
「ラフ、ラフ……っ」
堰を切ったように泣き出したキキョウに一瞬驚いたラファエロだったが、柔らかな笑みを浮かべると片腕でキキョウの頭を自分の胸元へ引き寄せた。
導かれるように、キキョウがラファエロの胸へと縋る。
「ごめんね、こんな……っ」
「……いいんだよ」
「……っ」
「俺の前では、なんも気にすんな」
そう呟いたラファエロは、抱えたキキョウの頭にそっと口付けた。
そのまま、回した手で彼女の頭をゆっくり撫ではじめる。
ゆっくりゆっくり。
何度も、何度も。
「ふ、っく……」
「お前は、なんでも1人で抱え込みすぎなんだっての」
「言えよ、俺には」
「……惚れた女の涙くらい、受け止めてえんだからよ」
「ラ、フ……」
そう穏やかに笑うラファエロに、涙に濡れたキキョウの顔が泣き笑いへと変わり。
胸元から顔を上げた彼女の瞳を、ラファエロがじっと見つめる。
自然と近づきそうになった2人の顔がーーはた、と止まった。
「って、今日はおあずけだな」
ふっ、と軽く笑ったラファエロが、キキョウのマスクをごく軽く引っ張った。
「ぇ……」
思わず漏れたキキョウのさも残念そうな声を聞いたラファエロは、兄弟たちの前では決して出さないであろう甘い声に乗せてーー
「今日は、これで我慢しとけ。治ったら、してやるから」
「お前が嫌だっつっても、な……」
キキョウの額に、どこまでも優しい口付けを落とした。
終
「ったくお前は……早く連絡よこしゃあいいのによ」
「だ、だって……」
ある冬の夜。
ベッドに横になり咳き込むキキョウのもとにはーー彼女の恋人となってまだ間もないーーラファエロが寄り添っていた。
まだまだ冬の始まりだとたかをくくっていた矢先突然あらわれた寒波にキキョウはすっかりやられてしまい、何年かぶりで寝込んでしまっていた。
なんとなく身体がけだるいのも、寒気がするような気がするのも、就いたばかりの仕事の忙しさのせいだと思い込んでいたキキョウは、仕事をこなし終えた金曜の夜、気が緩んだのか一気に発熱してしまった。
それでも1人でなんとかなる、と誰にも連絡せずに身体を引きずり病院を受診し、フラフラになりながらレトルト食品を買い求め帰宅したのが土曜日のこと。
しかし、そんな彼女の姿を買い出しに出かけたレオナルドとミケランジェロが目撃していたのは不幸中の幸いだったといえよう。
キキョウの状況はすぐさまラファエロの耳にはいることとなり、その日のうちにーーそう、まさに今夜ーー彼が訪ねてきたのだった。
「こんな熱が出るなんて思ってなかったし……ひ、1人でなんとかなると思ったんだもん……」
マスクをした顔を赤く火照らせている彼女が、恥ずかしがるように掛け布団で口元を覆った。
ラファエロはそんな彼女にため息を一つ吐くと、
「お前ってやつは……」
そう呟いてキキョウの頭にそっと手を置いた。
その眼に、優しい光をたたえて彼女を見つめながら。
「飲み物いれてくる」
それだけ言い置いて、枕元に置いたカップを手に寝室を出ていくラファエロ。
ーなにか、小言を言ってくるかと思ったのに……
普段はその胸の内をストレートに見せることなどほとんどないラファエロの真っ直ぐな優しい心を垣間見れた気がして、キキョウは密かに胸をときめかせた。
++++++++++
深夜。
帰っても心配ないと伝えたものの強引に泊まると言い張ったラファエロは、キキョウのベッドの横に予備のマットを敷いて休んでいる。
「……ケホッ」
「……コフッ、ケフ」
キキョウはそんなラファエロを起こしたくない一心から必死で抑えようとするのだが、どうしても喉が咳を押し上げてしまう。
彼を起こしてしまわないかとハラハラしながらキキョウがマスクの上から手で口を覆っていると、
「ん……キキョウ、眠れねえのか」
床に敷かれたマットの上で身じろぎする気配があった。
「ごめんラフ、起こしちゃ……ケフッ」
「んなこたあいいから。……水分摂るか?」
「うん、ありがと……」
すぐに起き上がったらしいラファエロは、サイドテーブルに置かれていたカーディガンをキキョウの肩に羽織らせると、さらに身を起こしやすいようにその背を支えた。
布越しに触れる彼のひんやりとした手のひらが、火照った身体に心地よい。
「はぁ……」
「ほら、喉腫れてしみるかもしれねえけど、出来るだけ飲め。な?」
「ん……」
カップに刺さったストローから、少量ずつ水分を身体に送り込む。
過敏になっている喉は痛みを訴えるが、渇ききっている身は水分を欲していて。
こくりこくりとキキョウが喉を潤している間に、ラファエロはいつの間にかベッド脇に腰を下ろしていたーーその手を背から片時も離すことなく。
ー嬉しい……
ラファエロの優しさがただただ嬉しくて、閉じている目に自然と涙の粒が膨らんでくる。
ー大好き、ラフ、大好き
ーありがとう……
「……ぷは。ありがとー……、今はもういらないや」
「おう。じゃあまた横になって……ん?」
「お前、泣いてんのか……?」
小さな間接照明のみで照らされた部屋の中でキキョウの目元に光る粒を見つけたラファエロは、顔をぐっと近づけて確かめるように目を眇めた。
「あ、ご、ごめん、なんか……!」
ーラフに変な心配かけたくないのに!
急いで涙の粒を拭うキキョウ。
その頭に、再び乗せられる暖かな重み。
「どっか痛えのか?しんどいのか……?」
朦朧とした頭で必死に取り繕おうとする自分ごと大きく包み込もうとしてくれるラファエロの言葉に、キキョウの心の中で無理やり保たれていた矜持という名の壁が、ぽろぽろと剥がれ落ちていく。
「ラ、ラフぅ……」
「おい、キキョウ……?!」
ラファエロの声を聞きながら、胸に去来する思い。
仕事で、初めて任されたチーフという立場。
部下を持つのも、指示を出すのも初めてで、毎日が緊張の連続だった。
自分が働きすぎているという自覚はあった。
けれど、認めてもらうにはーーがむしゃらに働くことしか思いつかなくて。
なのに気がつけば、何年も出していない高熱を出してしまった。
そんな、ちょっと頑張っただけで倒れてしまうような自分に、自己嫌悪して。
本当は、ずっと誰かに頼りたかった。
この胸の内をさらけ出したかった。
そのうえでーー受け止めてほしかった。
「ラフ、ラフ……っ」
堰を切ったように泣き出したキキョウに一瞬驚いたラファエロだったが、柔らかな笑みを浮かべると片腕でキキョウの頭を自分の胸元へ引き寄せた。
導かれるように、キキョウがラファエロの胸へと縋る。
「ごめんね、こんな……っ」
「……いいんだよ」
「……っ」
「俺の前では、なんも気にすんな」
そう呟いたラファエロは、抱えたキキョウの頭にそっと口付けた。
そのまま、回した手で彼女の頭をゆっくり撫ではじめる。
ゆっくりゆっくり。
何度も、何度も。
「ふ、っく……」
「お前は、なんでも1人で抱え込みすぎなんだっての」
「言えよ、俺には」
「……惚れた女の涙くらい、受け止めてえんだからよ」
「ラ、フ……」
そう穏やかに笑うラファエロに、涙に濡れたキキョウの顔が泣き笑いへと変わり。
胸元から顔を上げた彼女の瞳を、ラファエロがじっと見つめる。
自然と近づきそうになった2人の顔がーーはた、と止まった。
「って、今日はおあずけだな」
ふっ、と軽く笑ったラファエロが、キキョウのマスクをごく軽く引っ張った。
「ぇ……」
思わず漏れたキキョウのさも残念そうな声を聞いたラファエロは、兄弟たちの前では決して出さないであろう甘い声に乗せてーー
「今日は、これで我慢しとけ。治ったら、してやるから」
「お前が嫌だっつっても、な……」
キキョウの額に、どこまでも優しい口付けを落とした。
終
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