働く青い亀さん 続編
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2人が心を通じ合わせてから、2か月と少し。
いつの間にか、駅までの道の街路樹が色づき始めている、そんな季節になっていた。
ある夜。
いつものようにレオナルドがヤエコを迎えに来て、2人は金曜の夜の喧騒の中を馴染みの店へと向かっていた。
「出張……?」
「え、ええ……遠方の引越し先で、とても日帰りできそうになくて。数日はかかるかと……」
ふいに、何の前置きもなくレオナルドがぽつりと零した。
続けて彼が口にした詳細な日付を聞いたとき、ヤエコの心にツキン、と小さな棘が刺さった。
―え……その期間、には……
―ううん。大丈夫。……このくらいの棘、放っておいたらそのうち抜ける
一瞬のうちにそう判断し、目の前で申し訳なさそうにしているレオナルドを見やった。
「……遠方なんて、大変ですね。お仕事だから仕方ないんでしょうけど……」
「え……いや、俺が気になっているのは、そうじゃなくてですね……」
「あ、レオナルドさん、」
「ん?」
「ほら、もう行かないと。席が取れなくなっちゃいますよ。今日金曜ですし、あのお店すぐ混んじゃいますから」
「あ、ええ……」
そう優しく微笑みながら遠慮がちにこちらに伸びてきた柔らかな指に己のそれをおずおずと絡め、レオナルドは歩を進めた。
―ちゃんと、言わなきゃダメだよな。誕生日、隣にいられなくてごめんって……
―きっとヤエコさんは、何も言わないだろうけど。泣きも、怒りもしないだろうけど
―俺は、知ってるから。まだヤエコさんには、一人きりは重過ぎるときがあるってことを
++++++++++
レオナルドから出張のことを聞いたデートから、数日後。
新しく就いた仕事から疲れて帰宅する途中のヤエコの目に、見慣れた姿が映った。
―あれ、今の、ミケランジェロさん、かな?
ヤエコの視線の先で脇道から出てきた人物は、確かに橙色の鉢巻をしていたように見えた。
思わず早足になり、雑踏に紛れてしまいそうなその姿を追う。
「ミケランジェロさん……?」
やっと追いつき、その背に声をかける。
と。
「きゃわっ!」
「えっ!!」
まるで予想外だったその反応に、思わずヤエコからも軽く悲鳴が漏れてしまった。
周りを歩く人々の中には、そんな二人を怪訝そうに眺めていく人もいる。
「なーんだ、ヤエコちゃんかあ。んもう、びっくりさせないでー!」
いつものようにおおらかな笑顔を浮かべるミケランジェロの手には、大きな花束が握られている。
その花束にはバラをはじめに実に様々な花が入れられているが決してうるさくはなく、品よくまとまっていた。
「ごめんなさい!そんなに驚くと思わなくて……!」
「大丈夫―!そんなに気にしないで!!あれ、今はお仕事の帰り?」
「ええ、そうなんですけど……」
ミケランジェロと会話しながらも、どうしても気になってしまう花束。
「あの、その花束……どうしたんですか?」
「あ、これ?これはねー」
ヤエコの質問にミケランジェロは、彼にしては珍しくはにかんだような表情を見せた。
「明日ね、彼女の誕生日なんだ」
「あ……」
「だから、今夜はオイラがサプライズでお祝いしにいくの!この花束持ってね!!」
花束を大事そうに抱きしめ満面の笑みをたたえるミケランジェロを前にしたヤエコの心に、
―いいなあ……
ふと、そんな感情が生まれた。
―やだ、別に、レオナルドさんに不満なんてあるわけじゃないのに
続けて溢れる、まるで己への言い訳のようなセリフ。
―やっぱり私、気にしてるんだ。こないだ、レオナルドさんから聞いた言葉
―来月の、出張。私の誕生日に、レオナルドさんがいないって、こと……
「ん?ヤエコちゃん?どうかしたの?」
思わず表情が陰ったヤエコを見逃さず、ミケランジェロが顔を覗き込んでくる。
「……いえ。ちょっと、疲れちゃって」
「そっか!お仕事ご苦労さまー!!」
「ふふ、ありがとう」
精一杯の笑顔を作って
「じゃあ、彼女さんと素敵な夜を過ごしてくださいね」
ヤエコは、ミケランジェロを送り出した。
手を振りながら何度も振り返っていたミケランジェロが見えなくなった途端、ヤエコの顔の筋肉すべてが“疲れた”と言わんばかりに笑顔を作るのを放棄した。
それ以上考えるのをやめて、ヤエコはとぼとぼと自宅への道を歩き出した。
++++++++++
数週間後の、ある夜。
―やっぱり返事は、来ないよね……
自宅にて、携帯を手にため息をつくヤエコ。
時刻は夜の22時。
昨日出張へと出発していったレオナルドに日中メールを送ったが返事はなく、それきりになっていた。
―仕事中なんだから、当たり前
―そうよ、下手に返事して不注意にでもなって、怪我なんてされたくないし!
社会人として当たり前のこと。
自分でもそのことになんの違和感もないのに、反面、単純に、純粋に―
寂しさが、募る。
―帰ってくるの、明日の夜か……ううん、明後日の早朝になるかもって言ってた
ふと、カレンダーを見つめる。
明日は、ヤエコの誕生日。
自分は子供ではない。
だから、誕生日には一緒にいてよ、なんてことを言おうとは思わない。
事実、彼は出発前には数日早いお祝いをしてくれたのだ。
何の不満もない。
「けど……」
思わず声が漏れた。
そのことを叱咤したくて、膝を抱えてぎゅっと目を瞑る。
―声だけでもいいから、聞きたいなあ
「レオナルドさん……」
レオナルドからの連絡は何もないまま、時間は刻々と過ぎていく。
気づけばすでに、深夜0時に届こうかという時刻。
―メールの返事がないくらいで、こんなに心にきちゃうなんて。ダメダメ!しっかりしないと!!
ー新しく始めた仕事のストレスもあるのかな……こんな風に弱々しくなっちゃうなんて
漫画の様に両頬をぺちぺちと叩いて、再度己を叱咤する。
けれど。
どんなに叱咤しても、心のどこかが、彼を渇望している。
ヤエコは知っていた。
何気ない毎日は、いとも簡単に崩れ得るものだということを。
だから尚更。
―彼が無事に自分の隣に戻ってきてくれるのならば、それでいい。
「そう、レオナルドさんが無事に帰ってきてくれたら、それでいいの。うん」
その尊さが戻ることを、願うばかりで。
敢えて口に出して己にそう言い聞かせ、携帯を胸に抱きしめたときだった。
カタン、と玄関から物音が聞こえた、気がした。
―な、に?
心に広がる不安感が、忘れたくても忘れられないあの記憶を呼び覚まそうとする。
「……」
心が恐怖に彩られようとしたとき、携帯から着信を告げるメロディが流れ出した。
「ひっ……!」
物音に集中していたため、聞きなれた着信音だというのに身体が大げさにびくついてしまう。
「もう、びっくりさせない……」
「で……」
ディスプレイに映し出された文字に、心がきゅうっと、締め付けられる。
そこには
レオナルドさん
の文字。
「レ、レオナルド、さん?!」
慌てて電話に出れば、
「あ、ヤエコさん……?」
聞きたくて聞きたくてたまらなかった、あの声が耳に届いた。
「レオナルドさん……!」
「こんな遅くに申し訳ない!今やっと、手が空いて……。その、以前、休むのは0時半くらいだって聞いていたから、まだ間に合うかと思って……」
―レオナルドさん、だ
―レオナルドさんが、電話をくれた
必死になだめていたはずだったが、心は正直で。
みるみるうちに、胸いっぱいに純粋な喜びが広がっていく。
「けれど、こんな深夜にいくらなんでも非常識でしたよね、申し訳ないです…」
「いいえ、とんでもない!その、お電話くれて嬉しい、ですから……。でも大丈夫だったのに……だって、お忙しかったんでしょう?」
ここにきても精一杯の虚勢を張る自分の心。
けれど電話の向こうからは、照れくさそうに優しく笑う声が聞こえてきた。
「そういってくれて良かった。だって、俺が君に電話したかったんだ。だから、電話しているんだし……」
「いや、本当にこんな遅くに申し訳ないんだけれど……!」
はっとしたようにすぐさま言いなおすレオナルド。
すると今度は、なにやら実に言いにくそうにしている。
「……?」
「本当は、その、すぐ隣で言いたかったんだけれど……よし、日付変わった」
もごもごと呟いてから、レオナルドが小さく咳払いをして続けた。
「誕生日おめでとう、ヤエコさん。君が今、こうして居てくれて、本当に嬉しい」
「……」
レオナルドの言葉に、ヤエコは何も言えなかった。
何気なく時計を見れば、0時を少し回ったところだ。
―誕生日当日一番最初に、レオナルドさんにおめでとうって、言ってもらえちゃった……
―こんな甘ったるいこと考えちゃうなんて恥ずかしい
こんなことで浮足立ちそうになる自分の考えを必死でなだめる。
けれど、なだめてもなだめても、湧き上がるそれは止められなくて。
―ああ、でも。“こんなこと”が
―嬉しい、すごく嬉しい……
胸に沁みこむ思いを噛みしめていると、レオナルドが口を開いた。
「その……今は離れている、けれど」
「……っ、」
「すぐに、戻るから」
「……はい」
「その、離れていても……いつも、君を想ってる。それが、俺の支えになっているから」
「レオナルドさん」
普段甘いセリフはほとんど言うことがないレオナルドからの、これ以上ないというほど甘美な言葉。
その言葉にヤエコの心は震え、返事もできずに名前を呼ぶのがやっとだった。
すると、何かに気づいたようにレオナルドが声を出した。
「あ」
「どうかしました……?」
「いや、もしヤエコさんさえよければ、なんですが」
「……?」
「あ、愛称で、」
「呼んで、もらえたら、と」
「あ……」
レオナルドの愛称―
彼の兄弟たちがいつも呼んでいる呼び名。
いつか、そう遠くない日に自分も同じように呼べたら―
そう、密かに思っていた。
「いや、いいんだ!いいんです!こういうのって無理に呼んでもらうものじゃないし……!」
「……、れお」
「っ」
小さく小さく呟いた、大切な名前。
その音に、彼が息を飲むのが伝わってきた。
「……レオ」
「うん……」
「レオ、」
「うん」
呼ぶたびに強くなる、自分の中の何か。
そして、まるで相乗効果のように、力強くなるレオナルドの返事。
「なるべく早く、帰るから」
「うん」
「そうしたら、また一緒に食事に行こう」
「うん、うん……」
レオナルドからの問いかけに、自然と“うん”と返せている自分に驚く。
―呼び方ってすごい。レオって呼んだだけで、心にあった壁みたいなものが薄れていった気がする……
そんなことをつらつら考えていたヤエコの耳に、再びレオナルドの声が聞こえた。
「え?」
「いや、食事だけじゃなくて……一緒に、たくさんいろんなところにも行こうって言ったんだ。……ヤエコ」
恥ずかしそうに、消え入りそうな声で呟かれた、その名前。
“ヤエコ”
今まで何千回、何万回、いやそれ以上数えきれないくらい耳にしてきたはずの自分の名前なのに。
―レオ……が、呼んでくれただけで……
心の中から甘い痺れが全身に広がっていく。
それは暖かくヤエコを包み、寂しさ、切なさから解放してくれる。
「どうか、したのか?」
ふと気づけば、レオナルドの言葉からもこれまで入り混じることのあった敬語が―多少ぎこちなくはあるもののーとれている。
その事実に、また一段と心が暖かくなった。
「ううん……レオ、がね。名前を呼んでくれたから、嬉しかったから、それを噛みしめていたの」
「っ、」
再び、電話の向こうのレオナルドが息を飲んだ。
「前から思っていたけど……。き、君は、時々さらっとそういうことを言うから」
「参る、よ……」
ぼそりと呟いたレオナルドがなんだかおかしくて、でも、今この瞬間がとてもとても幸せで。
隣にレオナルドはいないけれど、それでも。
ヤエコの心は暖かく満たされていた。
―ああ、レオが、好き
ヤエコの心に、そんな思いが改めて広がる。
その思いは、じわじわと、冷えていた心を暖めていって。
「お仕事、どうか気を付けてね?」
「……ああ。ヤエコも、仕事頑張って」
「うん」
―私は知ってる。何気ない毎日は、いとも簡単に崩れてしまうことがあるって
―けれど、私は知った。どんなに崩れてしまっても、もうだめだって思っても、また立て直せるって。そして、そうやって立て直せた中には、大切で、愛おしいものがたくさん詰まっているんだっていうことを
―それを教えてくれたのは、レオ、あなたなの
いつか、彼に伝えよう。
沢山の感謝とともに。
そう心に思いながら、ヤエコははるか遠くから届く最愛のひとの言葉に耳を傾け続けた。
++++++++++
ヤエコとレオナルドが電話を交わしてから日が昇り、日が暮れて。
レオナルドたちの遠方での仕事が、ようやく終わった。
兄弟みなで交代しながら長距離の運転を乗り切った彼らは、会社で自家用車に乗り換えて帰路についていた。
時刻は、夜の23時。
―よし、これならなんとか、間に合うかもしれない……
帰宅したらすぐに着替えて出発して……と、レオナルドが頭の中で様々なシミュレーションをしていたとき。
ふと、車が止まった。
「あれえ?ちょっとラフ、なんでいきなり止まってんの?」
いきなりの停車に、レオナルドの隣に座っていたミケランジェロが声を上げた。
といってもその声は、助手席で眠るスプリンターを起こさぬようにと普段よりもだいぶ控えめではあったが。
運転席からラファエロが振り向く。
「レオ、降りろよ」
「え?」
突然のラファエロのセリフに、言葉が出なかった。
が、続いて聞こえたドナテロの声に、すべてを理解する。
「ああ、そうだね。家に帰っちゃうより、ここからのほうが断然近い」
―ああ、そうか
はっきりと明言せずとも伝わってくる兄弟たちからの思い。
思わず、レオナルドがその顔に笑みを浮かべたとき。
「近い?え、どういうこと?……ってああ!!そっかそっか、なるほどヤエコちゃんちに近いってことか!レオこれから行くんだねなっるほどー!!」
ミケランジェロが、抑え気味の大声を発した。
「くくっ……」
前言撤回。
言葉に出そうと出すまいと、自分を思っていてくれることに変わりはない。
ミケランジェロの純朴さに、浮かべた笑みを苦笑に変えていると
「さっさと降りろよ。……きっと、待ちくたびれてんぞ」
ラファエロのぶっきらぼうな声が降ってきた。
声の主を見やれば、すでに正面を向いている。
隣のミケランジェロは、いつもの笑顔で“早く、早く”とまくしたてている。
ミケランジェロの横に座るドナテロは頬杖をつきながらこちらを見て何も言わず、にやりと笑みを浮かべるだけ。
そんな兄弟たちを眺めて、レオナルドは今一度口元に笑みを浮かべた。
「ああ。じゃあちょっと、行ってくる」
「ちょっとじゃなくても、いいからねー」
そんなドナテロの声を背中に受けながら、レオナルドは車を降りるなりすぐさま駆けだした。
駆けながら腕時計を確認する。
―うん、ここからなら十分間に合う。……今日、誕生日の当日に
レオナルドは疲れているはずのその顔に満面の笑みを浮かべ、足早にヤエコのアパートを目指した。
++++++++++
「ったく、世話の焼ける……」
「似た者同士だからねー、あの二人は。真面目で、融通が利かなくてさ。きっとわざわざ一回帰ってから行こうとか考えてたんでしょ、レオは。もうほんとにさあ、おせっかいとはわかってるけど誰かが背中押してあげたほうがなにかとスムーズにいくんだよねー」
「ふふふ、ヤエコちゃん喜ぶだろうねえ!明日になったら、オイラケーキ持ってってあーげよっと」
小さくなっていく兄の背中を眺めながら、弟たちが好き勝手なことを口にする。
と、ラファエロが小さく伸びをした。
「うし、んじゃ帰るぞ。親父疲れてるし、早く休んでもらわねえと」
「だね」
「うん!ラフ、あとひと踏ん張り運転おねがーい」
行きかう人のない夜の街に、車のエンジン音が響く。
揺れ始めた助手席で目を瞑り続けるスプリンターが、その顔に浮かんだ小さな笑みを隠すようにゆっくりと寝返りをうった。
++++++++++
誕生日当日。
数時間前にレオナルドからヤエコへと届いたメール。
「これから、帰るから」
というその文字を、何度眺めただろうか。
『今日会えるかもしれない』という思いと
『過度な期待はしない方がいい』という思い。
ヤエコがそんな両極の思いに揺れていた夜23時過ぎ。
携帯電話が、レオナルドからの着信を知らせた。
++++++++++
「ん……」
遮光カーテンに買い換えようか悩み続けたまま引越しをし、結局いまだ買い換えていないそれを通して昇ったばかりの朝日が差し込んでくる。
その明るさに、意識がゆっくりと覚醒に向かう。
いつもと違う寝心地に違和感を感じた瞬間、昨夜のことが思い出された。
―そうだ、昨日、
―0時をまわる前に、レオが来てくれて……
視線を向けなくとも感じる気配。
すぐ横には、シングルベッドに窮屈そうに横になりながらも仰向けで規則正しく眠っているレオナルドの姿。
閉じられた瞳。
薄く開いた唇。
Tシャツのネックラインの上に見える、喉仏。
呼吸に合わせて静かに上下する胸。
―……そうだ
―私、昨日レオと、初めてキス、を……
数時間前の記憶が蘇り、思わず己の唇に指で触れた。
レオナルドと手を握る以上の、初めての触れ合い。
そして、その後の抱擁。
自分にとって初めてのキスではないのに、思い出せば出すほどくすぐったさと―好きな人と触れ合えたという何事にも代えられない喜びが湧き上がってくる。
指を唇から離し、レオナルドの顔へと近づける。
もう少しだけ伸ばせば、きっとその頬へ触れられるだろう。
しかしヤエコの手は、寸前で止まった。
―手を伸ばせば届くところに、レオがいる
―幸せ……
心に浮かんだ感情に、何故だか無性に泣きたくなった。
愛する人が、すぐ隣にいる。
穏やかに、眠っている。
「レオ……」
自分を包む幸せに心からの感謝を込めて、そっとその名前を呟く。
ふと、パジャマを通して肩口から入り込む朝の冷気を感じ、ヤエコはレオナルドに寄り添うように深く布団をかぶりなおした。
確かに伝わってくるレオナルドの温もりを感じながら、ゆっくりと目を瞑る。
聞こえるのは、レオナルドと自分の呼吸音だけ。
朝が動き出すまで、もう少し。
―それまで、この瞬間を心に刻みつけていたい
自分とレオナルド、2人が呼吸をするたびにひとつ、またひとつと満ちていく愛に包まれながら、ヤエコは再び眠りに落ちていった。
終
いつの間にか、駅までの道の街路樹が色づき始めている、そんな季節になっていた。
ある夜。
いつものようにレオナルドがヤエコを迎えに来て、2人は金曜の夜の喧騒の中を馴染みの店へと向かっていた。
「出張……?」
「え、ええ……遠方の引越し先で、とても日帰りできそうになくて。数日はかかるかと……」
ふいに、何の前置きもなくレオナルドがぽつりと零した。
続けて彼が口にした詳細な日付を聞いたとき、ヤエコの心にツキン、と小さな棘が刺さった。
―え……その期間、には……
―ううん。大丈夫。……このくらいの棘、放っておいたらそのうち抜ける
一瞬のうちにそう判断し、目の前で申し訳なさそうにしているレオナルドを見やった。
「……遠方なんて、大変ですね。お仕事だから仕方ないんでしょうけど……」
「え……いや、俺が気になっているのは、そうじゃなくてですね……」
「あ、レオナルドさん、」
「ん?」
「ほら、もう行かないと。席が取れなくなっちゃいますよ。今日金曜ですし、あのお店すぐ混んじゃいますから」
「あ、ええ……」
そう優しく微笑みながら遠慮がちにこちらに伸びてきた柔らかな指に己のそれをおずおずと絡め、レオナルドは歩を進めた。
―ちゃんと、言わなきゃダメだよな。誕生日、隣にいられなくてごめんって……
―きっとヤエコさんは、何も言わないだろうけど。泣きも、怒りもしないだろうけど
―俺は、知ってるから。まだヤエコさんには、一人きりは重過ぎるときがあるってことを
++++++++++
レオナルドから出張のことを聞いたデートから、数日後。
新しく就いた仕事から疲れて帰宅する途中のヤエコの目に、見慣れた姿が映った。
―あれ、今の、ミケランジェロさん、かな?
ヤエコの視線の先で脇道から出てきた人物は、確かに橙色の鉢巻をしていたように見えた。
思わず早足になり、雑踏に紛れてしまいそうなその姿を追う。
「ミケランジェロさん……?」
やっと追いつき、その背に声をかける。
と。
「きゃわっ!」
「えっ!!」
まるで予想外だったその反応に、思わずヤエコからも軽く悲鳴が漏れてしまった。
周りを歩く人々の中には、そんな二人を怪訝そうに眺めていく人もいる。
「なーんだ、ヤエコちゃんかあ。んもう、びっくりさせないでー!」
いつものようにおおらかな笑顔を浮かべるミケランジェロの手には、大きな花束が握られている。
その花束にはバラをはじめに実に様々な花が入れられているが決してうるさくはなく、品よくまとまっていた。
「ごめんなさい!そんなに驚くと思わなくて……!」
「大丈夫―!そんなに気にしないで!!あれ、今はお仕事の帰り?」
「ええ、そうなんですけど……」
ミケランジェロと会話しながらも、どうしても気になってしまう花束。
「あの、その花束……どうしたんですか?」
「あ、これ?これはねー」
ヤエコの質問にミケランジェロは、彼にしては珍しくはにかんだような表情を見せた。
「明日ね、彼女の誕生日なんだ」
「あ……」
「だから、今夜はオイラがサプライズでお祝いしにいくの!この花束持ってね!!」
花束を大事そうに抱きしめ満面の笑みをたたえるミケランジェロを前にしたヤエコの心に、
―いいなあ……
ふと、そんな感情が生まれた。
―やだ、別に、レオナルドさんに不満なんてあるわけじゃないのに
続けて溢れる、まるで己への言い訳のようなセリフ。
―やっぱり私、気にしてるんだ。こないだ、レオナルドさんから聞いた言葉
―来月の、出張。私の誕生日に、レオナルドさんがいないって、こと……
「ん?ヤエコちゃん?どうかしたの?」
思わず表情が陰ったヤエコを見逃さず、ミケランジェロが顔を覗き込んでくる。
「……いえ。ちょっと、疲れちゃって」
「そっか!お仕事ご苦労さまー!!」
「ふふ、ありがとう」
精一杯の笑顔を作って
「じゃあ、彼女さんと素敵な夜を過ごしてくださいね」
ヤエコは、ミケランジェロを送り出した。
手を振りながら何度も振り返っていたミケランジェロが見えなくなった途端、ヤエコの顔の筋肉すべてが“疲れた”と言わんばかりに笑顔を作るのを放棄した。
それ以上考えるのをやめて、ヤエコはとぼとぼと自宅への道を歩き出した。
++++++++++
数週間後の、ある夜。
―やっぱり返事は、来ないよね……
自宅にて、携帯を手にため息をつくヤエコ。
時刻は夜の22時。
昨日出張へと出発していったレオナルドに日中メールを送ったが返事はなく、それきりになっていた。
―仕事中なんだから、当たり前
―そうよ、下手に返事して不注意にでもなって、怪我なんてされたくないし!
社会人として当たり前のこと。
自分でもそのことになんの違和感もないのに、反面、単純に、純粋に―
寂しさが、募る。
―帰ってくるの、明日の夜か……ううん、明後日の早朝になるかもって言ってた
ふと、カレンダーを見つめる。
明日は、ヤエコの誕生日。
自分は子供ではない。
だから、誕生日には一緒にいてよ、なんてことを言おうとは思わない。
事実、彼は出発前には数日早いお祝いをしてくれたのだ。
何の不満もない。
「けど……」
思わず声が漏れた。
そのことを叱咤したくて、膝を抱えてぎゅっと目を瞑る。
―声だけでもいいから、聞きたいなあ
「レオナルドさん……」
レオナルドからの連絡は何もないまま、時間は刻々と過ぎていく。
気づけばすでに、深夜0時に届こうかという時刻。
―メールの返事がないくらいで、こんなに心にきちゃうなんて。ダメダメ!しっかりしないと!!
ー新しく始めた仕事のストレスもあるのかな……こんな風に弱々しくなっちゃうなんて
漫画の様に両頬をぺちぺちと叩いて、再度己を叱咤する。
けれど。
どんなに叱咤しても、心のどこかが、彼を渇望している。
ヤエコは知っていた。
何気ない毎日は、いとも簡単に崩れ得るものだということを。
だから尚更。
―彼が無事に自分の隣に戻ってきてくれるのならば、それでいい。
「そう、レオナルドさんが無事に帰ってきてくれたら、それでいいの。うん」
その尊さが戻ることを、願うばかりで。
敢えて口に出して己にそう言い聞かせ、携帯を胸に抱きしめたときだった。
カタン、と玄関から物音が聞こえた、気がした。
―な、に?
心に広がる不安感が、忘れたくても忘れられないあの記憶を呼び覚まそうとする。
「……」
心が恐怖に彩られようとしたとき、携帯から着信を告げるメロディが流れ出した。
「ひっ……!」
物音に集中していたため、聞きなれた着信音だというのに身体が大げさにびくついてしまう。
「もう、びっくりさせない……」
「で……」
ディスプレイに映し出された文字に、心がきゅうっと、締め付けられる。
そこには
レオナルドさん
の文字。
「レ、レオナルド、さん?!」
慌てて電話に出れば、
「あ、ヤエコさん……?」
聞きたくて聞きたくてたまらなかった、あの声が耳に届いた。
「レオナルドさん……!」
「こんな遅くに申し訳ない!今やっと、手が空いて……。その、以前、休むのは0時半くらいだって聞いていたから、まだ間に合うかと思って……」
―レオナルドさん、だ
―レオナルドさんが、電話をくれた
必死になだめていたはずだったが、心は正直で。
みるみるうちに、胸いっぱいに純粋な喜びが広がっていく。
「けれど、こんな深夜にいくらなんでも非常識でしたよね、申し訳ないです…」
「いいえ、とんでもない!その、お電話くれて嬉しい、ですから……。でも大丈夫だったのに……だって、お忙しかったんでしょう?」
ここにきても精一杯の虚勢を張る自分の心。
けれど電話の向こうからは、照れくさそうに優しく笑う声が聞こえてきた。
「そういってくれて良かった。だって、俺が君に電話したかったんだ。だから、電話しているんだし……」
「いや、本当にこんな遅くに申し訳ないんだけれど……!」
はっとしたようにすぐさま言いなおすレオナルド。
すると今度は、なにやら実に言いにくそうにしている。
「……?」
「本当は、その、すぐ隣で言いたかったんだけれど……よし、日付変わった」
もごもごと呟いてから、レオナルドが小さく咳払いをして続けた。
「誕生日おめでとう、ヤエコさん。君が今、こうして居てくれて、本当に嬉しい」
「……」
レオナルドの言葉に、ヤエコは何も言えなかった。
何気なく時計を見れば、0時を少し回ったところだ。
―誕生日当日一番最初に、レオナルドさんにおめでとうって、言ってもらえちゃった……
―こんな甘ったるいこと考えちゃうなんて恥ずかしい
こんなことで浮足立ちそうになる自分の考えを必死でなだめる。
けれど、なだめてもなだめても、湧き上がるそれは止められなくて。
―ああ、でも。“こんなこと”が
―嬉しい、すごく嬉しい……
胸に沁みこむ思いを噛みしめていると、レオナルドが口を開いた。
「その……今は離れている、けれど」
「……っ、」
「すぐに、戻るから」
「……はい」
「その、離れていても……いつも、君を想ってる。それが、俺の支えになっているから」
「レオナルドさん」
普段甘いセリフはほとんど言うことがないレオナルドからの、これ以上ないというほど甘美な言葉。
その言葉にヤエコの心は震え、返事もできずに名前を呼ぶのがやっとだった。
すると、何かに気づいたようにレオナルドが声を出した。
「あ」
「どうかしました……?」
「いや、もしヤエコさんさえよければ、なんですが」
「……?」
「あ、愛称で、」
「呼んで、もらえたら、と」
「あ……」
レオナルドの愛称―
彼の兄弟たちがいつも呼んでいる呼び名。
いつか、そう遠くない日に自分も同じように呼べたら―
そう、密かに思っていた。
「いや、いいんだ!いいんです!こういうのって無理に呼んでもらうものじゃないし……!」
「……、れお」
「っ」
小さく小さく呟いた、大切な名前。
その音に、彼が息を飲むのが伝わってきた。
「……レオ」
「うん……」
「レオ、」
「うん」
呼ぶたびに強くなる、自分の中の何か。
そして、まるで相乗効果のように、力強くなるレオナルドの返事。
「なるべく早く、帰るから」
「うん」
「そうしたら、また一緒に食事に行こう」
「うん、うん……」
レオナルドからの問いかけに、自然と“うん”と返せている自分に驚く。
―呼び方ってすごい。レオって呼んだだけで、心にあった壁みたいなものが薄れていった気がする……
そんなことをつらつら考えていたヤエコの耳に、再びレオナルドの声が聞こえた。
「え?」
「いや、食事だけじゃなくて……一緒に、たくさんいろんなところにも行こうって言ったんだ。……ヤエコ」
恥ずかしそうに、消え入りそうな声で呟かれた、その名前。
“ヤエコ”
今まで何千回、何万回、いやそれ以上数えきれないくらい耳にしてきたはずの自分の名前なのに。
―レオ……が、呼んでくれただけで……
心の中から甘い痺れが全身に広がっていく。
それは暖かくヤエコを包み、寂しさ、切なさから解放してくれる。
「どうか、したのか?」
ふと気づけば、レオナルドの言葉からもこれまで入り混じることのあった敬語が―多少ぎこちなくはあるもののーとれている。
その事実に、また一段と心が暖かくなった。
「ううん……レオ、がね。名前を呼んでくれたから、嬉しかったから、それを噛みしめていたの」
「っ、」
再び、電話の向こうのレオナルドが息を飲んだ。
「前から思っていたけど……。き、君は、時々さらっとそういうことを言うから」
「参る、よ……」
ぼそりと呟いたレオナルドがなんだかおかしくて、でも、今この瞬間がとてもとても幸せで。
隣にレオナルドはいないけれど、それでも。
ヤエコの心は暖かく満たされていた。
―ああ、レオが、好き
ヤエコの心に、そんな思いが改めて広がる。
その思いは、じわじわと、冷えていた心を暖めていって。
「お仕事、どうか気を付けてね?」
「……ああ。ヤエコも、仕事頑張って」
「うん」
―私は知ってる。何気ない毎日は、いとも簡単に崩れてしまうことがあるって
―けれど、私は知った。どんなに崩れてしまっても、もうだめだって思っても、また立て直せるって。そして、そうやって立て直せた中には、大切で、愛おしいものがたくさん詰まっているんだっていうことを
―それを教えてくれたのは、レオ、あなたなの
いつか、彼に伝えよう。
沢山の感謝とともに。
そう心に思いながら、ヤエコははるか遠くから届く最愛のひとの言葉に耳を傾け続けた。
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ヤエコとレオナルドが電話を交わしてから日が昇り、日が暮れて。
レオナルドたちの遠方での仕事が、ようやく終わった。
兄弟みなで交代しながら長距離の運転を乗り切った彼らは、会社で自家用車に乗り換えて帰路についていた。
時刻は、夜の23時。
―よし、これならなんとか、間に合うかもしれない……
帰宅したらすぐに着替えて出発して……と、レオナルドが頭の中で様々なシミュレーションをしていたとき。
ふと、車が止まった。
「あれえ?ちょっとラフ、なんでいきなり止まってんの?」
いきなりの停車に、レオナルドの隣に座っていたミケランジェロが声を上げた。
といってもその声は、助手席で眠るスプリンターを起こさぬようにと普段よりもだいぶ控えめではあったが。
運転席からラファエロが振り向く。
「レオ、降りろよ」
「え?」
突然のラファエロのセリフに、言葉が出なかった。
が、続いて聞こえたドナテロの声に、すべてを理解する。
「ああ、そうだね。家に帰っちゃうより、ここからのほうが断然近い」
―ああ、そうか
はっきりと明言せずとも伝わってくる兄弟たちからの思い。
思わず、レオナルドがその顔に笑みを浮かべたとき。
「近い?え、どういうこと?……ってああ!!そっかそっか、なるほどヤエコちゃんちに近いってことか!レオこれから行くんだねなっるほどー!!」
ミケランジェロが、抑え気味の大声を発した。
「くくっ……」
前言撤回。
言葉に出そうと出すまいと、自分を思っていてくれることに変わりはない。
ミケランジェロの純朴さに、浮かべた笑みを苦笑に変えていると
「さっさと降りろよ。……きっと、待ちくたびれてんぞ」
ラファエロのぶっきらぼうな声が降ってきた。
声の主を見やれば、すでに正面を向いている。
隣のミケランジェロは、いつもの笑顔で“早く、早く”とまくしたてている。
ミケランジェロの横に座るドナテロは頬杖をつきながらこちらを見て何も言わず、にやりと笑みを浮かべるだけ。
そんな兄弟たちを眺めて、レオナルドは今一度口元に笑みを浮かべた。
「ああ。じゃあちょっと、行ってくる」
「ちょっとじゃなくても、いいからねー」
そんなドナテロの声を背中に受けながら、レオナルドは車を降りるなりすぐさま駆けだした。
駆けながら腕時計を確認する。
―うん、ここからなら十分間に合う。……今日、誕生日の当日に
レオナルドは疲れているはずのその顔に満面の笑みを浮かべ、足早にヤエコのアパートを目指した。
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「ったく、世話の焼ける……」
「似た者同士だからねー、あの二人は。真面目で、融通が利かなくてさ。きっとわざわざ一回帰ってから行こうとか考えてたんでしょ、レオは。もうほんとにさあ、おせっかいとはわかってるけど誰かが背中押してあげたほうがなにかとスムーズにいくんだよねー」
「ふふふ、ヤエコちゃん喜ぶだろうねえ!明日になったら、オイラケーキ持ってってあーげよっと」
小さくなっていく兄の背中を眺めながら、弟たちが好き勝手なことを口にする。
と、ラファエロが小さく伸びをした。
「うし、んじゃ帰るぞ。親父疲れてるし、早く休んでもらわねえと」
「だね」
「うん!ラフ、あとひと踏ん張り運転おねがーい」
行きかう人のない夜の街に、車のエンジン音が響く。
揺れ始めた助手席で目を瞑り続けるスプリンターが、その顔に浮かんだ小さな笑みを隠すようにゆっくりと寝返りをうった。
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誕生日当日。
数時間前にレオナルドからヤエコへと届いたメール。
「これから、帰るから」
というその文字を、何度眺めただろうか。
『今日会えるかもしれない』という思いと
『過度な期待はしない方がいい』という思い。
ヤエコがそんな両極の思いに揺れていた夜23時過ぎ。
携帯電話が、レオナルドからの着信を知らせた。
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「ん……」
遮光カーテンに買い換えようか悩み続けたまま引越しをし、結局いまだ買い換えていないそれを通して昇ったばかりの朝日が差し込んでくる。
その明るさに、意識がゆっくりと覚醒に向かう。
いつもと違う寝心地に違和感を感じた瞬間、昨夜のことが思い出された。
―そうだ、昨日、
―0時をまわる前に、レオが来てくれて……
視線を向けなくとも感じる気配。
すぐ横には、シングルベッドに窮屈そうに横になりながらも仰向けで規則正しく眠っているレオナルドの姿。
閉じられた瞳。
薄く開いた唇。
Tシャツのネックラインの上に見える、喉仏。
呼吸に合わせて静かに上下する胸。
―……そうだ
―私、昨日レオと、初めてキス、を……
数時間前の記憶が蘇り、思わず己の唇に指で触れた。
レオナルドと手を握る以上の、初めての触れ合い。
そして、その後の抱擁。
自分にとって初めてのキスではないのに、思い出せば出すほどくすぐったさと―好きな人と触れ合えたという何事にも代えられない喜びが湧き上がってくる。
指を唇から離し、レオナルドの顔へと近づける。
もう少しだけ伸ばせば、きっとその頬へ触れられるだろう。
しかしヤエコの手は、寸前で止まった。
―手を伸ばせば届くところに、レオがいる
―幸せ……
心に浮かんだ感情に、何故だか無性に泣きたくなった。
愛する人が、すぐ隣にいる。
穏やかに、眠っている。
「レオ……」
自分を包む幸せに心からの感謝を込めて、そっとその名前を呟く。
ふと、パジャマを通して肩口から入り込む朝の冷気を感じ、ヤエコはレオナルドに寄り添うように深く布団をかぶりなおした。
確かに伝わってくるレオナルドの温もりを感じながら、ゆっくりと目を瞑る。
聞こえるのは、レオナルドと自分の呼吸音だけ。
朝が動き出すまで、もう少し。
―それまで、この瞬間を心に刻みつけていたい
自分とレオナルド、2人が呼吸をするたびにひとつ、またひとつと満ちていく愛に包まれながら、ヤエコは再び眠りに落ちていった。
終
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