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朝菊短編集

最近イギリスさんがよそよそしい。元々友人未満知人以上の関係で、会議場ですれ違うと会釈はしていたのだがこの前の会議ではすれ違っても何もモーションがなかった。同盟が終わった頃に比べれば些細な痛みだったが、やはり一方的だが好いている人に空気のように扱われるのは心にくるものがある。なにかしましたっけ、と思い返してみるが特に嫌われる理由も好かれる理由も思い浮かばない。所詮その程度なのだ、私達の関係など。
国である以上国民の気持ちに左右され、この前まで友好的だったのがいきなり手のひら返しされるというのはおかしくない。しかし、イギリスで反日感情が爆発したなんて話は聞かないから考えられるのは一つ。日本が個人的にイギリスに嫌われてしまった、最悪どうでもいい相手だと思われてしまったのか。愛情の反対は無関心だと、誰かが言っていた。恋心を寄せている相手にそうされるなんて。傷つかないわけがない。日本はイギリスと一番距離が近いフランスを会議後に飲みに誘った。
「………というわけなんです」
「ははーん、なるほどなるほど。それで突然俺は拉致されたのね」
「…強引ですみませんでした」
「いいのよ別に。お兄さん情熱的なのだーいすき」
「はあ…」
「で?俺にどうして欲しいの?」
「それとなくイギリスさんになにがあったのか、聞いてください」
「いいよ〜日本の恋なんておうえんするしかないしね!たとえ相手がイギリスだとしてもお兄さんは愛の国らしく恋のキューピッドになっちゃう!」
お酒の勢いもあってかバチコンと盛大にウインクしてワインを飲み干すフランス。日本は不安になりながらもツマミに手をつけた。

▷▷

会議の休憩中、フランスは喫煙所に入ったイギリスを追いかけてドアを開いた。幸運なことに中にはイギリスしかおらず、日本との約束したことを聞き出そうとイギリスに声をかける。
「ねーねーイギリス」
「キモイ声出すんじゃねえよ髭死ね」
「ひどいっ!!」
「うるせえ」
「イギリスさぁ、お前どうしたの?」
何がだ、と睨まれる。いつになくやさぐれてるなぁなんて思いながらフランスは日本のこと、とタバコの煙をくゆらせながら言った。
「……にほん?」
「そう。最近よそよそしいじゃん?」
「あ〜…」
イギリスは自覚があるのか頭をボリボリと掻く。紫煙を吐き出してぽつりと呟いた。
「魔法かけたからなぁ」
「は?」
「日本のこと、どうも思わないように。魔法かけたんだよ自分で自分に」
「そりゃまたなんで」
「……他言無用だぞ」
「へーへーわかってますよ」
「恋を忘れられるように、な」
「はぁ?恋?誰が誰に」
「お前自称愛の国だろ。察しろよ」
「まさか、坊ちゃんが日本に?」
「……そうだよ」
「はあああ?」
「大声出すなバカ!」
フランスは思わずタバコを落とす。焦ってすぐに拾ったがまさかこんなことになるとは。全く気が付かなかった。こいつが日本に恋してるだなんて。
「で、なんでそれが急によそよそしくなるのさ」
「あいつの国では同性愛はあまりよろしく思われていない。それなのにいきなり仕事場の同僚、しかも同性に好かれてるだなんて知ったら終わりだ。…だから自分に日本と会う時には恋してることを忘れる魔法をかけた」
「……………ばっかじゃないの」
絶句。この島国たちはなんて臆病で馬鹿なのか。好きなのに遠ざかるだなんて。有り得ない。フランスはうんざりしながらそれでも日本への義理立てはしなければと口を開く。
「当たって砕けてみろよ」
「できるわけねぇだろ!」
「…じゃあお兄さんからのアドバイス。ちゃんと聞けよ?」
フランスはイギリスに耳打ちしてとあることを告げる。するとイギリスの瞳はみるみる開かれてどこから出したのかほぎょらステッキだかなんだかを自分に振ってそのまま喫煙所から走って出ていった。
「はぁーあ。島国に幸あれ、ってね」



「日本はお前のこと、お前が思ってる以上に好いているぞ」
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